【調査報告】トンガ沖海底火山の噴火は、観測史上最大規模トンガ沖で発生した海底火山の噴火に関する最終調査報告

2022年1月に大規模噴火を起こしたトンガ沖の海底火山、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ(HT-HH)周辺海域は、海底地形の調査は新たな噴火の危険性などから実施が困難な状況が続き、そのため噴火の影響やメカニズムなど詳細は把握されていませんでした。こうしたなか、日本財団とニュージーランドの国立水圏大気研究所(NIWA)は、海を重要な資源とするトンガの復興に貢献するために、NIWA-日本財団トンガ噴火海底マッピングプロジェクト(NIWA-Nippon Foundation Tonga Eruption Seabed Mapping Project TESMaP)を立ち上げ、2022年4月~10月にかけて調査をしました。

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噴火した海底火山「フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ(HT-HH)」及び周辺海域の3D海底地形図。有人調査と無人調査で収集したデータを統合。
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海底の堆積物のサンプルを採取する研究者たち。

調査は2回に分けて実施され、火山周辺の計22,000km2の海底地形データが収集されました。1回目は、4月9日から5月6日にかけてNIWAの調査船を用いて火山の側面及び周辺海底のマッピング、地質等の調査、そして高機能水中カメラによる火山とその周辺海域の生物の動画・画像撮影が行われ、2回目は、7月上旬から8月下旬にかけて有人船は立入禁止区域となっている海底火山火口上および周辺海域のマッピング調査を、無人水上艇(USV)を用いて実施されました。調査の中で新たに地図化されたデータは、2030年までに世界の海底地形を100%解明することを目指すNF-GEBCO Seabed 2030プロジェクトに提供されました。

本調査結果は、今後同火山や類似する海底火山が今後噴火した場合のリスクを解明し、防災・減災に活用されることが期待されます。

主な調査結果は下記の通りです。

噴火の特徴

  • 今回の海底火山の噴火は、観測史上最大の大気中爆発であった。
  • 火山上部の斜面に確認された侵食痕の形状から、火砕流(高密度の溶岩、火山灰や軽石、ガスが混じった非常に高温・高速度の流れ)が発生していたことを確認。
  • 水は熱を加えると体積の約1,000倍まで膨張する。今回高温のマグマが冷たい海水に瞬間的にぶつかったことで、この反応が超高速化されたと見られる。その結果、陸地での噴火と比較して、火砕流がより早いスピードと威力で下流した可能性が高いことが推測された。
  • この噴火によって発生した急激な気圧変化は、津波を加速させ、太平洋の各国の沿岸でもところによって潮位変動が観測された。これは、津波警報システムが想定していたよりも、より遠くへ、より速く津波が到達したことを意味する。このような規模の火山性津波は、1883年にインドネシアで起きたクラカトア噴火以来である。
  • 採取された灰のサンプルを分析した結果、火砕物が火山から80km離れた場所で検出された。本調査では80kmが調査範囲の限界だったため、それ以上先の観測はできていないが、100km先まで火砕物が到達した可能性が高いと研究チームは推測している。

海底火山と周辺海域の地形の変化

  • 噴火前(2016年)に収集した同エリアのデータと比較した結果、火山の側面はほぼ無傷だった一方、カルデラ(噴火でできた窪地)は噴火前に比べて700m陥没し、周辺エリアの地形も大きく変化していた。
  • 10km3の火山灰を含む物質が噴火で火山周辺に吹き飛ばされていた(50mプール260万個分の容積に相当)。10km3分の物質のうち4分の3は火山から20km以内の海底で確認されたが、残り約2.5km3分は行方を特定することはできなかった。研究チームは、その原因として空中分解した可能性が高いと見ている。噴火は記録的な高さに達し、噴煙は中間層を突破するほどの勢いを持っていた。当時火口から放出された噴火物の量は1.9km3と推定されており、これが上空に鮮やかな夕焼けを引き起こし、数カ月にわたって大気中を循環したと考えられている。

噴火後の火山活動

  • 新たに形成された円錐からの活発な噴出が検出されたことにより、噴火活動が今も続いていることを確認した。しかし、今後しばらくの間は大きな噴火が起こるリスクは低いと予測されている。

生態系への影響

  • 海底地形の変化は、生態系にも深刻な影響を与えた。噴火後、火山の側面や深海、周辺の海底の大部分には、生物の痕跡はほとんどなかった。噴火の影響を受けた場所から15kmほど離れた海山の頂上では、多様で豊富な魚類群が見られたとともに、海山の斜面にはサンゴなどの無脊椎動物が確認された。

関係者コメント

日本財団 常務理事 海野光行

今回の調査により世界中の海底に存在する海底火山が、沿岸域に深刻な影響を与えうることが明らかになりました。地球上の多くの人々が沿岸域で暮らしており、すでに気候変動、海面上昇や台風の影響を大きく受けております。次世代や地球環境を守るためにも、海底火山のリスクに対し引き続き理解を深め、備えていくことが重要です。

写真:海野光行

NF-GEBCO Seabed 2030 プロジェクト ディレクター ジェーミー マックマイケル・フィリップス

本調査は、海洋海底の基礎知識を収集するために協力・連携し合うことの重要性を明確にしました。全世界の海底地形の解明は、国連のSDGsにも沿った、地球を守るために絶対的に必要な取り組みです。この実現のために、引き続きSeabed 2030は大事なパートナーたちとともに、協力の輪を広げていきたいと思います。

写真:ジェーミー マックマイケル・フィリップス