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小さな行動が地球の未来を救う。小泉進次郎環境大臣が訴える環境への取り組みの一歩

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2016年にスタートした日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムから4年連続で基調講演を行った小泉大臣
この記事のPOINT!
  • 地球規模の問題となっている「気候変動」。世界的な「脱炭素社会」への取り組みが必要
  • 今のままでは2050年の海は魚より海洋ごみの方が多くなる。海洋ごみの対策が急務
  • 一人一人の「小さな行動」で、地球の未来を変えることができる

日本財団ジャーナル編集部

2019年11月29日から12月1日にかけて開催された日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019。その初日に基調講演を行ったのは、4年連続で登壇している小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)環境大臣だ。「日本が直面している人口減少や少子化を受け入れた上で、自信に満ちた国をつくろう(2016年)」「Be the Difference。人と違うことを恐れるな(2017年)」「何か新しいことを始めるには、さまざまなものをつなげていくことが大切(2018年)」と、講演を通じてたくさんのメッセージを送ってきた小泉大臣。2019年、彼が社会に向けて発信したいメッセージとは。

子どもたちに「砂浜のある未来」を。気候変動という危機を乗り越えるには?

まず、小泉大臣が警鐘を鳴らしたのは、近年世界中で意識が高まっている気候変動だ。

「気候変動に対する国際的な取り決めである「パリ協定(※)」(別ウィンドウで開く)では『世界の平均気温上昇を2度未満に抑える』という目標を掲げていますが、すでに世界の平均気温は1度上昇しています。もし、このパリ協定の目標が達成できなければ、2100年には日本の砂浜の9割が消滅すると言われています。私が生まれ育った横須賀の砂浜や、皆さんの街の砂浜も消えてしまうかもしれないのです」

  • 2015年、フランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された協定。世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える目標を掲げている
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気候変動に対する世界の動向について語る小泉大臣

日本財団が行った「18歳意識調査『環境』」(別ウィンドウで開く)のアンケート結果によると、気候変動に対する国際的な取り決めである「パリ協定」という言葉を聞いたことがある若者は71.8%。一方で、それを実現するための対策である「脱炭素」という言葉の意味を知っている若者は31.3%に留まった。

図表:「パリ協定」(左)と「脱炭素」(右)の認知

18歳意識調査「環境」における「パリ協定」という言葉と「脱炭素」の意味の認知度を表す円グラフ。「パリ協定」という言葉を知っている71.8%、言葉を知らない28.2%。「脱炭素」の意味を知っている31.3%、意味を知らない68.7%。
「パリ協定」について聞いたことがあるという若者が約7割に対し、「脱酸素」の意味を知っている若者が約3割しかいなかった

「この『脱炭素』とは、二酸化炭素を排出しなくても社会や経済がしっかりと回っていく世の中を目指そうという、世界中を動かしつつあるキーワードです。しかし、残念ながら日本ではその言葉自体があまり若者に知られていません。一方、すでに世界は『地球温暖化』というレベルではなく『気候変動』、さらには『気候危機』と呼ばれるほどの段階にあり、数多くの若者が行動を始めています」

そのような世の中の象徴として、小泉大臣は、16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんをはじめ気候危機に対する個人の取り組みを紹介。毎週金曜日に学校を休んで国会議事堂前に座り込むグレタさんの気候変動ストライキや、飛行機の移動による環境影響などを配慮した著名アーティストのワールドツアーの中止といった事例について話をした。

「グレタさんのように、多くの人を目覚めさせるような個人の大きな行動も大切です。でも本当に大切なのは私たち自身の小さな行動ではないでしょうか。私は1人が100歩進むより、どうすれば100人が1歩を進められるか考えることが重要だと考えます。日本の動きはまだまだこれからですが、一度決めたことはみんなで取り組む国民性があります。つまり、環境面でのソーシャルイノベーションを起こしやすい土壌である、とも言えるです」

美しい海を覆い尽くす「海洋ごみ問題」

続いて話題に取り上げられたのは「海洋ごみ問題」。この問題を考える手助けとして、小泉大臣は鼻の中に入ったプラスチック製のストローに苦しみ、血を流すウミガメの動画(別ウィンドウで開く)を紹介した。その内容は、会場の多くの人が思わず目を背けるほどショッキングなものだった。

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プラスチックごみにより苦しむウミガメ

「海洋ごみの問題も地球規模の課題です。先日のG20(※)では、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することが取り決められました。この問題は一国だけで解決できる問題ではありません。プラスチックごみを排出する各国が協力し合わなければ、プラスチックごみの海への流入は止められないのです」

  • 日米欧や新興国のリーダーが一堂に会する20カ国・地域首脳会議

具体例として、小泉大臣は海洋ごみの排出量が最も多い中国が前向きに対策に取り組むこと、日中共同で海洋調査などを行うことについて合意を取り付けたことを報告。事実、日本海沿岸には中国語やハングル語、ロシア語のプラスチックごみが多数漂着しているという。この問題を解決するために、近隣諸国との協調は欠かせない。

「考えたくないことですが、このまま行くと2050年には世界の海の中には魚の数よりもプラスチックごみの方が多くなる(別ウィンドウで開く)と言われています。先ほどのウミガメの他にも、アホウドリの胃袋を開けたらプラスチックのごみが大量に出てきた事例もあります。

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日本の海岸に漂着した海洋ごみ。世界で発生する海洋ごみの量は少なくとも年間約800万トンと言われている

来年1月に私も子どもが生まれますが、その子に魚よりも海洋プラスチックごみが多い海を残したくはありません。そういう思いが今の私を動かしています」

海洋ごみの問題は、実は我々のちょっとした心掛けで変えることができる。なぜなら、海ごみの7〜8割は街から川をつたって海に流れ出たものだからだ。街で発生するプラスチックのごみを減らせば、おのずと海に流れ込むごみも減らすことができる。

「政府では来年から、コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどのレジ袋を有料にすることを義務化する方向で議論を進めています。スターバックスも紙ストローに切り替える方針ですね。また『プラスチックごみゼロ宣言』(別ウィンドウで開く)を行った京都府亀岡市では、来年から『レジ袋を禁止する条例』を出されるそうです。個人レベルでも、水道水をマイボトルで持ち歩くようにすれば、家計にも環境にも良いですよね。一人一人ができること、企業や自治体にできること、環境省はそれらを全力で応援しますから、ぜひみんなでソーシャルイノベーションを起こして行きましょう!」

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愛用のマイボトルを掲げつつ、環境問題への取り組みを呼びかける小泉大臣

海を中心に考える、地球の環境問題

「小泉大臣のおっしゃる『気候変動』や『海洋ごみ』の問題も口先だけでは解決できない。世の中を変えることができるのは、まさに一人一人の行動によってのみ。だからこそ、今回のソーシャルイノベーションフォーラムのテーマは『行動から始まる、新時代。』としました」

小泉大臣の基調講演の後にスピーチを行った日本財団・笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長は、今回のソーシャルイノベーションフォーラムのテーマを設けた理由についてこう語る。

「口先ばかりで行動しない人もいると思います、でも皆さんには簡単なことでいいから一歩前に踏み出してほしいのです」

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「行動すること」の大切さを強調する笹川会長

笹川会長は特に日本人の海に対する意識を高める必要があると語気を強める。そのために例えば「海の日」を毎年日付が変わらないよう7月20日と定めてはどうかということを提案し、次のように締めくくった。

「海洋汚染や気候変動の対策は待ったなし。最近は気候変動による海面上昇により、水没する国家も出現しつつある。また、日本近海では『海水の酸性化』により甲殻類が全滅する恐れもある。ぜひ皆さんには海は無限ではなく有限であり、地球の環境は極めて深刻な状況にあることを知ってほしい」

「地球は先祖から受け継いだものではなく、子孫からの借り物だ」という言葉がある。人類を含む地球上の生物は自然の恵なくしては生きていけない。その自然を守るため必要なのが、個人の「小さな一歩」だ。

小泉大臣と笹川会長の話に共通していたのは、まず自分にできることから「行動すること」。それはどんな些細なことであっても世の中を変えるきっかけになる。2人の講演後、話を聞いていた学生たちは口々に「私もマイボトルを持つ」「エコバッグを使うようにする」と言っていた。真のソーシャルイノベーションとは、そんな身近なところから始まり、やがて大きなうねりとなるものなのではないだろうか。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)

1981年4月14日、横須賀市生まれ。関東学院大学卒業後、米国コロンビア大学にて政治学修士号を取得。米国戦略国際問題研究所(CSIS)研究員を経て、2009年より衆議院議員を務める。2019年9月、環境大臣兼内閣府特命担当大臣(原子力防災)に就任。

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