誰にでも訪れる「人生の最期」に寄り添う。地域に溶け込む新しい高齢者ホスピスの形

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左からNPO法人ラクーダ代表理事 関戸元彦氏/メットライフ生命保険株式会社執行役 専務 最高営業責人者 甲斐講平氏/日本財団常務理事 笹川順平

山梨県東部に位置する大月市猿橋町。桂川の渓谷に架かる猿橋は、その珍しい構造から日本三奇矯の1つにも数えられる観光名所でもあります。古くは甲州街道の宿場として栄えたという猿橋は、人口減少・高齢化が進む一方で、市街地にはまだ多くの人が生活を営んでいます。

そんな猿橋の地の、甲州街道沿い、登下校をする子どもたちの声が聞こえてくる市街地に新しく開所したのが、高齢者ホスピス「シェアハウス・さっちゃんち」です。

メットライフ財団から約4億円の寄付を受けた日本財団は「高齢者・子どもの豊かな居場所プログラム」として「高齢者ホスピス」と「子ども第三の居場所」を合わせて12施設開設する予定。同プログラムの高齢者ホスピス第1号として介護機能付きシェアハウスとなるさっちゃんちを開所しました。

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シェアハウス・さっちゃんちの外観

多くの人に見守られながら「さよなら」と逝ける世界を

晴天に恵まれた2022年12月12日の開所式。

まず日本財団常務理事 笹川順平とメットライフ生命保険株式会社 執行役 専務 最高営業責人者 甲斐講平氏から祝辞が述べられました。

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日本財団常務理事 笹川順平

「このように日が差し込む気持ちの良い場所に、我が家のような温かさを持つホスピスができたのは大変喜ばしいことです。これを実現できたのは、メットライフ財団様からのご寄付によるもの。コロナ禍においても高齢者と子どもために何とか居場所を作ってあげたいという、高い志でご寄付をいただきました。
これからもメットライフ財団様の高い志に日本財団として協力させていただき、しっかりと社会貢献していきたいと思います」(笹川順平)

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メットライフ生命保険株式会社 執行役 専務 最高営業役人者 甲斐講平氏

「『高齢者・子どもの豊かな居場所プログラム』は昨年9月から始まりました。コロナ禍の影響も受けながら、本日この第1号の開所の日を迎えられましたことを、心より嬉しく思っています。
日本は世界でも例を見ない早さで高齢化が進んでいることに加え、子どもたちを取り巻く環境の変化、地域間格差など、さまざまな課題があります。これらの課題に本プログラムを通じて貢献できるよう、取り組んでいきたいと考えております」(甲斐講平氏)

続いて挨拶をしたのは「シェアハウス・さっちゃんち」の運営元となるNPO法人ラクーダ代表理事 関戸元彦氏。NPO法人ラクーダは猿橋で小規模多機能型居宅介護事業所「ナーシングホーム猿橋」を運営している団体です。

実は「シェアハウス・さっちゃんち」はこの「ナーシングホーム猿橋」に隣接して建てられています。今回の「シェアハウス・さっちゃんち」の建設は関戸氏が考える「人の最期に寄り添う」ための道筋の過程なのだそうです。

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NPO法人ラクーダ代表理事 関戸元彦氏

「これまでナーシングホーム猿橋では、5年間、小規模多機能型居宅介護事業所として、『通い:デイサービス』『訪問:ヘルパー』『泊り:ショートステイ』の3つのサービスを柔軟に組み合わせて在宅療養をサポートして参りました。
そのなかで利用者から入所施設へのニーズも多くいただいておりました。青写真はできていたものの、コロナ禍で前に進めない。そんなときに、日本財団さんから今回のお話をいただきました。
ナーシングホーム猿橋とシェアハウス・さっちゃんちを一体的に運営することで、看取りまで行うことはもちろん、高齢者が孤独にならないように地域とのつながりも大切にしていきたいと考えています。
今、多くの入所施設は人里離れた山の奥にあります。みなさん、どうでしょう。人生の最終章をそこで終えたいと思うでしょうか。私たちが目指しているのは住み慣れた場所で多くの人に見守られながら「さよなら」と逝ける世界なんです」(関戸元彦氏)

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隣接するナーシングホーム猿橋

みんなが必ず通る道。「年をとる」ことを学ぶ、地域交流の場に

開所式が終わると、続いてシェアハウス・さっちゃんちの内覧会が催されました。

7室の個室に7名が入居可能な同施設では、4人の看護師とICTを活用した体制で24時間365日のサービスを低料金で受けることができます。

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光が射し込むシェアハウス・さっちゃんちの共同スペース
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1人1部屋の個室。日当たりも良く、明るい印象。

施設の中でも関戸さんにとって特に思い入れが強いのが、取材時はまだ建設途中だったベランダの縁側。この縁側を通じて、ナーシングホーム猿橋との行き来だけでなく、地域の人たちに気軽に訪れて欲しいと語ります。

「核家族化が進んで、年を取ることを知らない子どもが多いんです。多くの人に年を取るのがどういうことなのか、その姿を見てもらいたいという思いもあります。自分たちも必ず通る道ですから、良い学びの場になってくれれば、と思います。入居者だって楽しいじゃないですか、いろんな人と交流できたらね」(関戸元彦氏)

また、シェアハウス・さっちゃんちでは入居者の方に「自由」でいてもらうことを大切しているそうです。そこにはやはり「人の最期」への関戸さんなりのこだわりがあります。

「リスクがあるから、転倒しないように座ってなさい、寝ていなさいなんて、つまらないですよね。最期の締めくくりだからこそ、自由にしたいじゃないですか。もちろん契約のときに相応のリスクがあることはお話します。でもやっぱり皆さん、自由であることを優先されますね」(関戸元彦氏)

お金だけではない、人の手による支援も

メットライフ財団からの寄付により開所に至ったシェアハウス・さっちゃんちですが、支援はお金だけではありません。メットライフ生命保険株式会社 コーポレートアフェアーズ部門 アシスタントバイスプレジデントの山下浩子さんから社員によるボランティア活動についてお話いただきました。

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メットライフ生命保険の山下浩子さん

「ラクーダさんからご要望を伺いながら、当社の社員ボランティアが活動を行う予定です。入居者の方々と一緒に散歩するなどの案をいただいています。
別のホームホスピスですでに始まっているボランティア活動もあります。『聞き書きボランティア』はその一つです。これは当社の社員が、ホームホスピスの入居者の方に、子どもの頃の思い出や家族のこと、友だちのことなどをお伺いして、1冊の本に仕上げ、ご家族やご本人にプレゼントする活動です。コロナ禍ではオンラインでお話を聞いて実施していました。すごく喜んでいただけました。
また、施設のなかでは雑巾が頻繁に使われると伺い、当社の全国の社員が雑巾を縫って寄付させていただくという活動も行っています。
今後も施設のニーズを伺いながら、人の手による支援でも貢献していきたいと考えています」(山下氏)

開所式に出席した山下さんはシェアハウス・さっちゃんちの印象を「地域に密着している」と語ります。開所式の最中には、何の施設ができるのかと物珍しげに覗き込む地元の子どもたちの姿が見えました。先々、入居される方々と彼らの間にも交流が生まれていくのかもしれません。

「『高齢者・子どもの豊かな居場所プログラム』は、地域に密着して、地域に誇れる場所を作りたいという思いで行っているプログラムです。まさにシェアハウス・さっちゃんちは理想通りの施設だと感じました。温かい雰囲気で、地域に開けている。今後、社員ボランティアが訪問させていただけるのが、とても楽しみです」(山下氏)