難病の子どもと家族、みんなの笑顔が集う場所一般社団法人幹

気軽に相談ができる居場所を

和歌山県和歌山市冬野に「幹らんど」という施設があります。エントランスを入ると壁一面に木のイラストが描かれたカフェがあり、酸素吸入をつけている子どもや気管切開をしていても元気に走り回っている子ども、バギーで寝ている子どもが共に過ごし、地域の人とも交流できる場になっています。

一般社団法人幹(以下、幹)は、2018年以降、在宅看護センターや共生型看護小規模多機能型居宅介護施設「幹はうす」などを運営し、0歳の赤ちゃんから100歳以上のお年寄りの在宅看護、看取りを対象に、心身共にあらゆるケースに対応してきました。
今回日本財団の助成を受けて、2023年4月に地域連携ハブ拠点「幹らんど」を開所。幹が新たに設立した一般社団法人幹らんどが運営を担い、児童発達支援と短期入所、日中一時支援を行っています。

交流スペースとして一階に設置したカフェは一般の人も入りやすい開放的な空間です。地域の子どもも立ち寄れて、スタッフが楽器演奏を披露することも。ご飯の大盛りを注文するとその追加分の料金が寄付になるなど、様々な試みを模索中です。

代表理事の丸山美智子さんはカフェを併設した思いをこう語ります。
「難病の子を育てる親御さんとの交流会をしたところ、これまで相談をする場所がなかったという声が参加者全員からあがりました。病院などに相談する窓口が設けられていてもなかなか行けなかったと。普段からあそこに行ったら聞いてくれるよという場所を作り、そこで専門的な質問や相談もできたらと思ったのが発端でした」。

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カフェの前には砂場があり、子どもたちの遊ぶ姿が見られます

介護者ではなくてママでいてほしい

気管切開をしている子どものお母さんは、入浴サービスを希望することが多いです。そこで幹らんどでは、入浴施設を用意して入浴支援も行っています。体の大きな子どもも通っていて、とても喜ばれています。

丸山さんは、これまでに看護師として重症心身障害児施設や大学病院の救命センターに勤務し、障害のある子どもを看てきました。

「お母さんに普通の子育てをしてもらいたかったのです。みなさん大変な思いをしていますが、お母さんには介護者ではなくてママでいてほしいと思っていました」。

幹はうす・幹らんどでは、保護者と一緒に子育てを楽しむという感覚を大切にしています。
母親が社会にでて働きたいという思いを叶えるための場所でもあり、仕事への復帰率は高く、利用者の母親の約7割は働いています。

「子ども同士が一緒にいることはとても大事。ここでは子どもがよく成長するんですよ」と丸山さん。
生後4か月のダウン症の子どもが幹らんどに通いだして半年で寝返りができるようになる、難聴の三歳の男の子の発達指数が高いなど、子どもたちの成長に前職で重症心身障害児のデイケアに勤めていたスタッフが驚くことも。

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幹らんどのお隣の幹はうすでは、お年寄りと2歳児の男の子が一緒に過ごします

女の子との出会いが今に繋がる

丸山さんには忘れられない女の子がいます。
NICUから出てすぐに幹の訪問看護サービスを受けていた18トリソミーの女の子です。その子が2歳になる時にお母さんから仕事をしたいという希望が語られました。その子を預かるために幹はうすができ、そのお母さんに働いてもらうために居宅介護のケアプランセンター幹はうすを始めました。これが今回幹らんどを開設するきっかけになったのです。

「重症心身障害児の子でしたが表情が豊かで、最初は戸惑いを見せた歯科衛生士も、『可愛い可愛い』と言って抱っこをしていました。保育士や介護士、みんなが抱っこをして絵本を読んだり歌を歌ったりしていました。どのスタッフもお風呂に入れることができ、呼吸器も扱えるようになりました。その後4歳で亡くなってしまったのですが、その子がいてくれたおかげで私たちの小児看護を確立することができたと思っています」。

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5月の開所式では、多くの親子と関係者が訪れて賑やかにお祝いをしました

子どもの力を信じて、笑顔の瞬間を引き出す

幹はうすでは、精神科医や臨床心理士と連携して、発達障害や引きこもりの子ども、貧困や虐待の心配のある子ども、不登校の子どもたちの受け入れをしています。
「ゆくゆくは働きたいという子が多いので、近い将来に就労支援もしていけたら。その人に合った環境を整えて働き方を提案すれば働けるようになるのです。みんな能力があるのに勿体ないです。そういうこともしていきたいです」と丸山さん。

幹の理念は「笑顔の瞬間を提供する」。創業時にこれを決めたのは、みんなの笑顔を引き出したいと思ったから。その思いはスタッフの中にしっかり浸透しています。

「我々が繋がっている人はみんなしんどい人たちだから、そんなに『笑って笑って』とは言えませんが、一瞬でも笑顔になってもらうことを目指して理念を「笑顔の瞬間」としました。『おはよう!』と声をかけた時に重度の障害がある子でもその表情が分かると、とても嬉しい。それはその子の力を心から信じて寄り添っているから感じとれるのだと思っています」。

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開所式の集合写真。みんなの笑顔が弾けました

「難病の子どもと家族を支えるプログラム」

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。

一般社団法人幹

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。

文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム