“生の芸術”アール・ブリュットがアート界を刺激する
豊かな文化

思うままに自分を表現する“生の芸術”


「アール・ブリュット」は、「生(き)の芸術」という意味。
技巧や流行に囚われず、ただ表現するためだけに生まれた作品は、第一線で活躍するアーティストにも影響を与えている。

アール・ブリュット支援事業は終了しました。

あらたに、「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS」として展開しています。

DIVERSITY IN THE ARTS TODAY外部サイト

2012.10.01

「アール・ブリュット」を体感してみよう!


「芸術とは?」「技法とは?」「人の心を動かすには?」といったこととはまったく関係なく、ただ「描きたい、つくりたい」という身体の内から溢れ出る衝動だけで生まれた作品を、あなたはどう感じただろう?
「アール・ブリュットの作品に接すると『好き』と『嫌い』にはっきり分かれることが多いように思います。でもそれが、心を揺さぶるということではないでしょうか。『これは何だ!?』という思いから、対話や議論といった、コミュニケーションが生まれる。それこそがアートのひとつの役割だと思うのです」と、高知市にあるアール・ブリュット美術館「藁工ミュージアム」を運営する、NPO法人ワークスみらい高知代表の竹村利道さんが話すように、これまで触れてきた芸術とは違う「衝動」を、あなたは受けとるかもしれない。

「アール・ブリュット」って何だ?

「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」と言われてピンと来なくても、「山下清」と言う名前を知る人は多いだろう。病気の後遺症で知的障害と言語障害を抱えていた山下清は、養護施設で貼り絵と出逢い、その類まれな美的センスで多くの人の心を動かす数々の貼り絵を生み出した。
「放浪の天才画家」と呼ばれた彼の作品のように、美術を専門的に学んだわけではなく、技巧や流行にとらわれずにただ自分の内側から湧き上がるまま無意識に表現した作品を、フランス語で「アール・ブリュット」と呼んでいる。加工されていない「生(き)の芸術」という意味で、美術界の伝統や潮流、世間の流行などの影響を受けない、独創的な絵画や造形のことを指す。日本では、福祉施設でつくられた作品が多いため「障害者アート」と思われがちだが、「障害があるのにこんな作品ができて、すごい」というのではなく、美術作品として価値を見出す市場が、欧米ではすでに成立し、アール・ブリュットを専門に扱うギャラリーも多数存在している。

パリで絶賛された日本の「アール・ブリュット」

欧米ほどには認知されていない、日本のアール・ブリュット。だが、2010年3月、フランスのパリ市立アル・サン・ピエール美術館で開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展では、日本のアール・ブリュット作家63名の作品、約800点が展示され、約12万人もの観客を動員、開催期間を延長するほど人々を魅了した。ブツブツの突起が無数に並ぶ縄文土器のような澤田真一さんの陶芸、強い逆光を浴びたようにモチーフを黒いパステルでゴリゴリと描く、舛次崇(しゅうじ たかし)さんの絵画など…彼らの作品は、芸術に敏感なパリっ子の心をしっかりと捉え賞賛された。その凱旋展示が日本各地の美術館でも行われ、これを機に、国内でもアール・ブリュットは、多くの人に注目されるようになってきている。

絵画

アール・ブリュット美術館に出かけよう!

まちに融け込むようなアール・ブリュット美術館を全国につくろうと支援しているのが、日本財団のアール・ブリュット支援事業だ。美術作品としてふさわしい展示機会を拡充すべく、アール・ブリュット美術館の整備を進め、2004年、滋賀県近江八幡市にオープンした「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を皮切りに、高知市の「藁工ミュージアム」、広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」、京都府亀岡市の「みずのき美術館」への助成を行った。またアール・ブリュットに対する知識を有する学芸員を養成するための講座への支援も行うなど、日本のアール・ブリュット振興に力を注いでいる。

写真 早くから日本のアール・ブリュット作品を見出してきたひとりで、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAのアートディレクターでもある、はたよしこさんは、アール・ブリュットの魅力についてこう話す。「人がアートに出逢うというのは、作品によって、自分の中に眠っている感情や、気づいていないけれど内包している何かが揺り動かされる、“開かれる”ということ。それがアール・ブリュットはより一層深く、深層の扉をノックする度合いが強いのでしょう」。ゆえに、芸術を体系的に勉強していないアール・ブリュット作家の作品が、現代アートの作家たちに影響を与えることも多々あるのだと言う。
日本のアートシーンでも、静かな流れではあるが確実に、アール・ブリュットは、ひとつの美術ジャンルとして認められてきている。

写真:広島県福山市の「鞆の津ミュージアム」の外観

撮影:染瀬 直人(オブジェクトVR製作・取材撮影)
   大西 暢夫(トップバナー、舛次崇さん作品)