すべてのミャンマーの人々とともに
人間の安全保障

民主化されたミャンマーに残された課題の解決に向けて


アウンサン・スーチー女史の解放、オバマ大統領の訪問など、「民主化」を印象づける出来事が続くミャンマーだが、中央政府と少数民族武装勢力の関係改善や、一部の都市住民以外の貧困対策も大きな課題だ。軍政下からミャンマーの人々への支援を続けてきた日本財団は、これらの課題解決に向けてさらなる取り組みを始めている。

2013.01.23

国境の少数民族が置かれる困難な状況

2011年3月に軍事政権に代わって文民政府が成立、ミャンマーでは急速に民主化が進む。海外からの経済進出も急激に増加し、ミャンマーについての報道は明るい内容のものが圧倒的に多い。

しかし、真の意味で「民主化」と呼ぶには、大きな課題が残されたままだ。

国境地帯の少数民族武装勢力と中央政府との武力対立が60年以上も続き、少数民族の居住地域では医療サービスや教育関連施設など社会インフラ整備が遅れている。また、政府軍の攻撃を受けた地域の人々は、自宅や農地を放棄して山岳地帯に逃げ込み、国内避難民として過酷な生活を強いられる。一方、軍事政権から弾圧を受けて国境を越え「ミャンマー難民」となった人々はいまも隣国のタイなどで帰国できる日を待つ。国内避難民やタイなどに不法滞在する難民たちは戸籍も持たず、国籍も認められず、貧困という共通の問題も抱えている。

中央政府が民主化された後も、こうした少数民族をめぐる問題には解決のめどが立っていない。約100万人と推定される国内避難民の問題は、国連や各国政府も認識はしているものの「国内問題である」との判断から手を差しのべるのは難しい状況。一方、隣国などに逃れて軍事政権に対する反政府活動を続けてきた難民たちにはこれまで、「民主化推進のため」だとして海外の支援団体から物資や資金の提供も行われていたが、文民政権が成立し、民主化のための支援の送り先は中央政府に変更されてしまった。

写真 少数民族のカレン族出身で、1988年の民主化運動に参加して軍事政権に国を追われたシンシア・マウン医師は、タイ側の国境近くのメソットに難民のための診療所を開設し、20年以上にわたり無料で医療サービスを提供してきた。 「(民主化により)難民たちは帰国を考える時期に来ています。帰還を望む人も多い。しかし村を離れて10年以上たてば状況も変わります。同じ場所に戻れるのか、仕事に就いて収入を得ることができるのか。戸籍がなくて子どもは学校に行けるのか。少数民族が本当の平和を勝ち取るまでに解決すべき課題はあまりにも多いのです」とシンシア医師。

民間だから可能になったユニークな支援活動

各国政府や国際機関が動きづらい中で、民間の立場で少数民族のための支援を続けてきたのが日本財団だ。日本財団では1976年からハンセン病制圧活動などでミャンマーへの支援を開始。教育、医療、農業の3分野を柱として、厳しい状況に置かれた少数民族が自立した生活ができるような支援を行っている。

教育では、少数民族が数多く暮らす、同国最大の州、シャン州を中心とした小学校の建設に取り組み、2012年までに約200校が完成、さらに100校の建設が予定されている。また、西部のラカイン州でも100校の建設を計画中。

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日本財団の学校建設支援の特徴は、単なる箱としての学校を建てるだけではなく、地域の住民が継続して学校を運営していくための事業の開発とセットになっていることだ。特産品栽培から発電事業まで、地域の特徴に合わせてさまざまな事業がスタートしており、勤勉なミャンマー人の国民性もあり、その多くが成功しているという。

一方、医療の面では、モンゴルなどでも成功をおさめた「置き薬プロジェクト」が進行中。西洋の薬剤よりも格安で入手できる地域の薬草などが原料の伝統医薬品を納めた薬箱を各村に配布し、一粒単位で購入できるようにした。2009年から実験的にスタートし、3年間で全14州に500カ所ずつ、計7000の村に薬箱が配布された。2014年までに4倍の2万8000村に拡大する予定だ。

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写真 軍事政権下から続けられてきたこれらの支援活動は高く評価され、2012年6月、日本財団の笹川陽平会長は、日本政府から「ミャンマー少数民族福祉向上大使」に任命された。同10月には東京で「日本財団ミャンマー少数民族支援会議」が開催され、少数民族武装勢力のうち10グループの代表が来日、日本財団で緊急人道支援計画の実施方法などが話し合われた。12月までに第一便の支援物資が調達及び配布されている。

笹川会長は大使就任にあたって「(政府の)民主化により外資が多く入ってきても、少数民族の生活レベルが上がらなければ、ますます格差が広がり、彼らの不満は解消されません。少数民族が民主化の利益を実感できる支援活動を行うことで、中央政府との和解についても説得していきたい。民族の和解を成功させて、ミャンマーのすべての国民の生活向上にも寄与したいものです」と述べている。

写真 ミャンマーを訪問した笹川会長は、テイン・セイン大統領、そしてアウンサン・スーチー女史とも個別に会談を行っている。立場の違う2人だが「少数民族問題の解決なくして、真の民主化はありえない」という認識は完全に一致している。 日本の民間団体の支援を受けながら、ミャンマーが真の民主化へのスタートを切ろうとしている。

日本財団ミャンマー支援の実績(2013年1月現在)

1976-2011年 37事業 計US$19,812,870
2012年度以降実施事業(準備中含む)25事業 計US$28,865,300

※内訳は以下の通り

保健衛生分野
国内避難民への緊急食糧医療支援 US$3,000,000 2012年12月〜
僻地の住民を対象とした医療サービスの実施 US$5,000,000 2012年9月〜
僻地の住民を対象とした義足配布事業 US$560,000 2013年1月〜
義肢装具師養成学校の設立 US$1,200,000 2013年1月〜
伝統医療置き薬配布事業 US$280,000 実施中
タイ・ミャンマー国境沿い医療クリニックへの支援 US$95,000 実施中
タイ・ミャンマー国境沿い医療クリニックファンドレイジング活動支援 US$20,000 2012年11月
薬草栽培に係る農業支援事業 US$500,000 2013年1月〜
中古福祉車両寄贈事業 US$1,000,000 2012年9月ヤンゴン到着
障害者支援分野
障害当事者リーダーの研修、障害者・自助グループの設立 US$73,300 実施中
障害者国際芸術祭の開催準備 US$30,000 実施中
障害と公共政策大学院との協働 US$100,000 2013年
ASEAN地域を対象にした聴覚障害者の中等教育環境整備のための国際ネットワークの推進 計画中 2013年〜
視覚障害学生の高等教育支援プロジェクト US$100,000 2013年〜
ヤンゴン障害児童の特別教育学校の新校舎建設 US$1,800,000 準備中
教育分野
学校建設を通じた地域開発及び農業指導(シャン州) US$700,000 実施中
学校建設、および保健衛生教育環境の整備(ラカイン州) US$5,000,000 実施中
学校建設を通じた地域開発(イラワジ州) 計画中 2013年〜
女性リーダー育成のための国際ワークショップの開催 US$25,000 準備中
公務員研修関連分野
公務員研修事業 US$156,000 実施中
ミャンマー連邦議会議員招へい事業 US$116,000 実施中
ミャンマーASEAN議長国支援事業 US$250,000 実施中
少数民族州の地方公務員研修 US$1,500,000 準備中
その他
技能ボランティアの派遣事業 計画中 準備中
第5回ASEAN伝統医療国際会議 US$200,000 2013年