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【10代の性と妊娠】若年妊娠率、全国平均2倍の沖縄が抱える根深い課題。おきなわ子ども未来ネットワークの取り組み

写真:妊娠検査薬で陽性反応が出て苦悩する少女
若年妊娠の背景にはさまざま要因が絡み、社会構造から見直す必要がある
この記事のPOINT!
  • 沖縄県の若年妊娠率は2.6パーセントと全国平均の2倍。その背景には、貧困など根深い問題が関わる
  • おきなわ子ども未来ネットワークでは、若年妊娠相談や特別養子縁組の支援を行い、全ての子どもが幸せに暮らせる社会を目指す
  • 妊娠を巡る状況は女子にとって圧倒的に不利。心のケアと併せて、避妊しやすい環境づくりが必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、妊娠をきっかけに社会の中で孤立してしまう女性が、若年層で目立っている。特に最近では、新型コロナウイルスによる休校などの影響で、10代女性からの妊娠相談が急増しているという。

日本財団はこれまでも妊娠SOS相談窓口(別ウィンドウで開く)への助成を行ってきたが、こうした背景を受け、2020年7月より妊娠SOS相談窓口推進事業(別ウィンドウで開く)に着手。予期せぬ妊娠をした女性に必要な支援を行うことで、生まれてくる子どもの未来を守ると共に、より良い子育て環境の実現を目指している。

批判されたり、タブー視されたりすることが多い「予期せぬ妊娠」。それは本当に、当人だけの問題と片付けてしまってよいのだろうか。

連載「10代の性と妊娠」では、妊娠相談窓口を行う支援団体への取材を通して、予期せぬ妊娠の背景にある問題、それを解決するためのヒントを探る。

今回は、沖縄県で若年層の妊娠相談窓口と特別養子縁組の支援を行う一般社団法人「おきなわ子ども未来ネットワーク」(別ウィンドウで開く)の代表・山内優子(まやうち・ゆうこ)さんに、そのリアルな現状について話を聞いた。

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親子の「関係性の貧困」を生む、根深い貧困問題

「今から5年前、沖縄県の団地敷地内で生後間もない女児が置き去りにされる事件が起きました。保護責任者遺棄の疑いで逮捕されたのは、中学3年生の女の子。一人で出産をした彼女は『どうしていいか分からなかった』と供述をしたそうです。また、その翌年にも那覇市の路上ベンチに乳児が置き去りにされる事件がありました。その子が4、5歳児の服を着せられていたことから、置き去りにしたのは子どものいる女性と推測されましたが、その後母親が名乗り出ることはありませんでした。名乗り出たら、上の子どもたちも育てることができなくなると考えたからではないでしょうか…」

おきなわ子ども未来ネットワーク代表の山内さんは、法人を立ち上げるきっかけとなった事件についてこう語る。「予期せぬ妊娠や出産をして、子どもを育てることができないとしても、気軽に相談できる場所があれば、そのような親子を救えたのではないか」という思いのもと、おきなわ子ども未来ネットワークは2018年2月に設立された。

写真
オンラインで取材に応じてくれた山内さん

「予期せぬ妊娠の背景はさまざまです。性行為やその先にある妊娠に関する知識不足、家庭の貧困問題、親からの暴力など、いろんな原因が絡み合っています。しかし、そんな子どもたちに共通するのは、親子間の『関係性の貧困』です」

妊娠相談窓口を通して出会った子どもたちの多くが寂しさを抱えていたという山内さん。寂しさから、夜の街を出歩いて、正しい知識を持たないまま異性や友人と関係を結び、妊娠に至るといったケースも少なくないという。

2020年は、新型コロナウイルスの影響とは明確に言えないものの、県外から訪れた男性と関係を持ち、その後妊娠が発覚するといったことも増えているという。

出生率が全国1位の沖縄県。厚生労働省が発表した2019年の人口動態統計によると1.82パーセントと、全国平均の1.36パーセントを大きく上回る。しかし、10代の妊娠・出産の割合も2.6パーセントと、全国平均の1.1パーセントの2倍以上。この背景には、子どもの貧困率が全国平均の2倍以上(2018年統計)という、先の大戦後から現在まで連綿(れんめん)と続く貧困問題が深く関わっていると山内さんは語る。

戦後、焦土と化した地で、住まいや仕事も満足にない中で子どもを育てなければいけなかった沖縄の女性たち。また、終戦直後から米軍の統治下に置かれ、祖国に復帰するまでの27年間、女性や子どもを救うための法律が適用されず、本土復帰後も沖縄にある広大な基地問題から派生するさまざまな事件・事故に振り回されてきた結果ではないかという。それが貧困の連鎖を生み続けてきたのだ。

第三者が間に入ることで、母と子の関係を結び直す

出産するか否か。産む場合は、学校はどうするのか。出産にかかる費用や養育費は?10代で妊娠した場合、決断しなくてはならないことが多い。当事者は一人でこれらの問題を抱え込みがちで、そこに社会からの冷たい目も加わる。

そんな状況を少しでも変えたいと、山内さんたちは活動している。

「私たちに寄せられる相談の大多数が、中高生からの『生理が来ない』というものです。避妊はほとんどがしていません」

問い合わせは、中高生が気軽に相談をしやすいようにLINEで受け付けている。妊娠の疑いがあれば、秘密厳守で妊娠検査薬(無料)を相談者のもとにサポーター(約30名)が届け、検査を行う。

陰性の場合は、性に関する教育や注意事項をしっかり伝える。山内さんはこれを「生きた性教育」という。陽性の場合は産婦人科に同行し、産むかどうかの決断に寄り添う。

「妊娠=出産したら必ず自分で育てないといけないと決めつけないでください。選択肢はもっとたくさんあります。産みたい場合は、家族との関係の調整や、支援機関を活用した自立支援などをしっかり行います。産みたくないけど産むしかないときは、里親や特別養子縁組のサポートもします。出産は、あなた一人の問題ではありません。ぜひ私たちにお手伝いをさせてください」

おきなわ子ども未来ネットワークのサポーター養成研修の模様。写真左が山内さん

おきなわ子ども未来ネットワークのLINE登録者数は、2020年の4月以降120人以上増えた。その中から山内さんは、とある母と娘のエピソードを聞かせてくれた。

「高校3年生の女の子のケースです。この子は、卒業間近で県内の優良企業に就職が決まっていました。しかし、妊娠検査薬の結果は陽性。彼女は出産することを決めましたが、お母さんは反対でした。私たちも自分たちにできることを考え、彼女とお母さんのお互いの意思疎通がしやすいよう、まずお母さんの気持ちを彼女に伝えてから、お母さんに自分の気持ちを伝えるシミュレーションを一緒にした結果、お母さんが首を縦に振ってくれました」

また、本人ではなくお母さんから相談を受けたことも。

「その時は『娘さんはこれまで寂しかったのではないでしょうか?』とできるだけ、娘さんの立場に立ってお話しさせていただきました。お互い、とても近い間柄だからこそ、言えないことや気付かないことも多いのではないでしょうか。そこをお手伝いできたらと考えています」

当事者と母親との関係を見直すことが重要だと語る山内さん。

「例えば自分で産んで育てるとなった場合、なかなか一人では子どもの世話をできるものではありません。そんな時、出産経験のある母親の手助けが彼女と子どもにとって一番の支えになるのです」

女の子が避妊を選べる環境づくりを

「沖縄に生まれた全ての子どもが、夢と希望を持って、未来に向かって進んでいけるようすること」を目指し活動する、おきなわ子ども未来ネットワーク。しかし、解決しなくては行けない課題は山積みだと山内さんは語る。

「若年妊娠という問題に、男性の役割が見えてこないことが大きな問題です。繰り返しますが、妊娠は一人でできるものではありません。避妊をしない男性とは関係を持たないといった考えを広める必要があります。私たちの活動について、学校など教育機関にもチラシを設置させてもらってはいますが、もっと多くの方に知っていただきたいと考えています」

若年妊娠は電話相談や親子間の関係修復の手伝いといった対人サポートが中心ではあるが、根本的な問題を解決するには社会的な「女性側が避妊できる仕組みづくり」が欠かせないという。

「現在、日本では女性側が避妊をするのは男性側に比べてかなり難しい状態です。ピルは保険適用外ですし、継続して飲み続ける必要性を考えると出費が大きい。アフターピルも5,000円〜2万円とかなり高額です。しかし、実際の妊娠リスクを負うのは女性のみ。この状況は変だと思います」

穏やかに話す山内さんだが、女性たちを助けたいという強い意志が伝わってくる。おきなわ子ども未来ネットワークでは、予期せぬ妊娠を避けるために地域の保健師と協働し避妊リング(※)を送る取り組みなども行っている。

  • IUDと呼ばれる子宮内避妊器具
写真:患者にピルについて説明する看護師
女性自身が避妊に取り組みやすい環境づくりが必要

「少しでも女の子が避妊をしやすい環境ができたらという思いで活動しています。今後も、現在の活動と併せていろいろな取り組みができたらと考えています」

若年妊娠問題の根深さを感じた今回の取材。相談や人と人との関係性をつなぐソフト面のサポートと併せて、避妊を巡る社会制度や性教育などハード面の整備が急がれる。

プロフィール

山内優子(まやうち・ゆうこ)

おきなわ子ども未来ネットワーク代表。琉球大学を卒業後、沖縄県庁に入り、児童相談所や婦人相談所といった福祉の現場で勤務。中央児童相談所所長、福祉事務所長などを歴任後、退職。沖縄大学で児童福祉論を担当し、「沖縄こども未来プロジェクト」の運営委員会委員長も2020年3月まで務めた。『誰がこの子らを救うのか 沖縄─貧困と虐待の現場から』著者。
おきなわ子ども未来ネットワーク 公式サイト(別ウィンドウで開く)

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