縮小社会の中でも持続可能な仕組みづくり

地方創生への挑戦

地方では、東京一極集中の流れから、公共交通や医療、教育機関の縮小といった問題に直面している。特に山間部では、スーパーマーケットや病院がなくなり、買い物や通院に支障をきたすなど、生活基盤を支える機能が年々弱まっている。
当財団では、県内の人口減少が続く鳥取県と連携し、2016年から約5カ年にわたり、こうした問題解決の糸口を探ってきた。その結果、課題として挙がったのが以下の3つであり、いずれも全国に共通するものと考えられる。

  1. 持続可能な地域交通
  2. 持続可能な地域医療
  3. 障害者の社会参画・人材育成

持続可能な地域交通

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永江カーシェアリングで活躍されるドライバーの方々

今後も現在暮らしている地域で生活するための条件として、約4割の住民が、「身体機能が低下しても、通院や買い物などで外出できること」を挙げている(※1)
そこで、2016年、当財団では鳥取県全域を対象に、高齢者や障害者が利用しやすいユニバーサルデザインタクシー(略称:UDタクシー)200台の導入を支援し、効果を検証した。結果は、UDタクシーを利用し外出する障害者や高齢者が大幅に増え、高齢者に関して言えば、免許を返納する割合も導入前の約4倍に増加した(※2)
さらに、地域住民たち自らの手で移動手段を確保する取り組みにも支援した。これは1台の車を登録された複数の住民ドライバーが、地域住民の通院や買い物などの際に、運転手になるという一種のカーシェアリングだ。道路運送法に基づき、人の運送に伴う対価は取れないが、ガソリン代等、実費相当額を住民の積立金から徴収している。現在では10名のドライバーが登録されており、毎月100回以上の送迎に利用されている。

  • 1. 2018年「地域生活実態調査」鳥取県・日本財団による共同調査(配布数2,620世帯、回答率37.6%)
  • 2. 高齢免許返納者のタクシー利用者が2020年度の8,381名から2019年度の32,893名まで約4倍に増加(鳥取県庁調べ)
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UDタクシーに乗車しようとしている障害者の方(新日本海新聞社提供)

持続可能な地域医療

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廃校舎を使って整備された俣野の「まなび舎」にて、地域住民に向けて説明を行う鳥取大学の医学生(鳥取県江府町提供)

高齢化が急速に進む中、特に山間部では地域医療や福祉、看護を担う人材が不足している。こうした地域に公共サービスを届けるのは困難であり、人材や事業継続性の確保が大きな課題となっている。
鳥取大学では、2019年から鳥取県江府町俣野地区に医学生を派遣して、地域住民との関わりを通して、将来にわたって地域医療を担う人材育成プログラムを展開している。学生は患者の症状だけでなく、その暮らしや環境にも理解を深め、より広い見地から医療に携わることを目指している。当財団は、こうした同大学の取り組みに注目、これまで連携して地域医療の人材育成と拠点整備を行ってきた。
廃校舎を活用して、学生らが中長期的に滞在できる拠点を整備し、さらに拠点内に診療所を設置。山間部においても一定程度の問診や簡単な治療を行える環境作りをしている。こうした取り組みによって、2019年度には1,783人が受診や研修目的に利用した。

障害者の社会参画・人材育成

人口減少が続く地域で、一定の生産性を保っていくためには、障害者を含めたより多くの人が「人材」として社会に参画していく必要がある。
ところが作業所で働く障害者の月額賃金(これは工賃と呼ばれている)は約1万7,000円程度だった。当財団ではこれを3倍に上げることで障害者の自立と社会参画の促進を目指せると考えた。
高単価・多ロットで製品受注できるよう、当財団では作業所における製造ラインを組み替えるなどハード面の整備に取り組み、県内10カ所の事業所を支援。これにより、鳥取県における月額工賃は2016年度から2019年度にかけて2,312円増加した(※3)
さらに、スポーツを通した障害者の社会参画を促す試みとして、障害者スポーツの拠点整備を行った。障害者の程度や内容に応じて、適切なスポーツ指導ができる人材育成を目的とし、県内における障害者スポーツの実施率を約50%に上げることを目指している。
人材育成という観点では、若者の地域定着を促す取り組みも重要だ。当財団では、高校や自治体と連携し、勉強のサポートに加え、高校生が地域との関わりを持てるようなプログラムを展開する公営塾の立ち上げも支援した。
当財団では、こうした取り組みを通じ、中長期的に地域を支える担い手が増えることで、地方の活性化を促せると考えている。

  • 3. 2019年度の工賃月額は19,481円で全国6位(厚生労働省「令和元年度工賃(賃金)の実績について」より)

(木田 悟史/公益事業部)

本事業を行う中で得た気づき

地方に駐在し、行政組織と大規模に連携したプロジェクト展開は財団としても初の試みだったが、鳥取県で実施してきた取り組みの中から、一部でも他の地域や自治体に展開・発展できるものがあれば良いと思う。今回の経験を財団として他の業務にも活かしていけるよう、今後も努力を重ねていく。

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木田 悟史