小規模農家と共に歩むアフリカ農業支援

写真
農作物をロバで運搬することも珍しくない(マリ)

アフリカにおける持続可能な食料生産への課題

アフリカでは、農業が国のGDPシェアの20%以上を占めている国が30カ国にも上り、また、人口の約6~7割が農村に住み、その多くが小規模農家だと言われています。そのアフリカでは2050年に人口は24億人(現在の2倍)まで増加し、穀物需要は3倍になるとの予想がある一方、ここ数年、気候変動と土壌劣化の影響により農業生産性は低下し、人口増や都市化により耕地拡大は限界を迎えています。さらに、このたびの新型コロナウイルス感染拡大により、アフリカの大部分の地域では、食料不安がより深刻になっています。12億人以上のアフリカの人々、特に地域の食料生産を担う農村部の人々が、安全で栄養価の高い食料を持続的に生産することは切実な課題です。

生産から消費までのバリューチェーン全体を意識した農業支援

日本財団のアフリカにおける農業支援は、エチオピアで起きた飢饉をきっかけに、1986年に元会長の笹川良一、ジミー・カーター元米国大統領、1960年代に南アジアで「緑の革命」を主導してノーベル平和賞を受賞した農業学者のノーマン・ボーローグ博士との先駆的な試みから誕生しました。当時、多くの国際的な援助機関やアフリカ各国政府を含む多くの組織は、アフリカの工業化や物資の支援に注力していたなか、私たちは一貫して農業のポテンシャルを信じ、小規模農家への農業技術普及に焦点をあて活動を行ってきました。アフリカで国民の半数以上である農家が自ら食料を作る技術を取得し成長すれば、食料問題を解決できるだけでなく、国民の生活水準の向上もできると考えました。これが私たちの原点です。以後、35年以上にわたり日本財団はササカワ・アフリカ財団と共に、栄養豊かな食料が十分に生産され、人々が手に入れられる世界を目指して、設立以来、既に支援を卒業した国を含めると、アフリカ17カ国で農業支援を行ってきました。現在、ササカワ・アフリカ財団は重点国である4カ国(エチオピア、マリ、ナイジェリア、ウガンダ)に事務所を構え、小規模農家の食料、栄養、所得の確保を目的とした支援を行っています。

ササカワ・アフリカ財団は、これまでに、現地で各国の農業省や研究機関と連携しながら、農家や農業普及員を対象とした技術研修、脱穀などの加工サービスを提供する若手起業家の育成、中堅農業普及員の再教育を目的とした現地大学農学部における農業普及カリキュラム開発などに取り組んできました。こうした活動を通じて、重点国においては約1,000万人の農家に農業技術普及を行い、9,000人以上の農業普及員が提携する農業大学で専門的な知識を取得しました。農村部の農家の畑をデモンストレーション圃場とし、新たな農業技術普及の場として実践的な研修を行う普及モデルは、特にエチオピアで高く評価され、1995年には、メレス暫定大統領(当時)の意向により、政府の農業普及システムとして採用され、現在の公的普及システムの礎となっています。活動開始から、エチオピアでは国全体のトウモロコシの単位面積当たりの平均収穫量が3倍以上となり、また、活動地域では主要穀物の収穫後ロスが44%減ったというデータも出ています。2018年にはウガンダで、独自に開発した地域密着型の種子・肥料ディーラーの育成を目的とした普及モデルがウガンダ政府に農業普及政策として採用されるなど、大きなインパクトを生んでいます。

日本財団はアフリカが農業を通して未来志向で夢と希望に満ちた大陸になることを確信しています。ササカワ・アフリカ財団への支援を通じて、アフリカの人々の生活をより豊かにし、より希望に満ちたアフリカを実現するまで私たちも不屈の精神で取り組みます。

強靭かつ持続可能な農業を「農家と共に」めざす

昨今の土壌劣化や気候変動、新型コロナウイルス感染症の蔓延など、地球規模の課題が深刻化する中、ササカワ・アフリカ財団はアフリカの食料生産から流通・消費に至るフードシステム全体を視野に入れ、食料・栄養・所得に関する3つの安全保障の実現を目指すべく、「環境再生型農業」「栄養に配慮した農業」「市場志向型農業」を活動の中心に据え、新5カ年戦略(2021-2025)を打ち出しました。新カ年戦略を効果的に実施し、強靭で持続可能な食料システムの構築に貢献することを目標としています。

新5カ年戦略を表した図。総合的土壌肥沃度管理と環境保全型農業を含む「環境再生型農業」を中心として、「持続可能な農業集約化」「栄養に配慮した農業」「市場志向型農業」が囲む。更にそれらを取り囲むように「食料の確保-作物生産性の向上」「栄養の確保-高栄養作物を含む農作物の多様化」「所得の安定-収益性の向上」の3つのポイントを軸とした「生物多様性及び二酸化炭素回収を含む土壌の健全性の回復」のサイクルがある。

<戦略的重点領域>

1. 強靭かつ持続的な環境再生型農業

更なる農業生産性向上と収穫後ロス削減に取り組むほか、環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業、更にはそこから一歩進んだ環境再生型農業(長期間に渡って土壌中の有機物含量を増やし微生物の働きを活発化させることで土壌を肥沃にする取り組み)の主流化を推進します。

写真
環境再生型農業の実演をするフィールドデーの様子(エチオピア)

【重点項目】

  • 強靭かつ持続的な農業集約化の推進
  • 保全型農業/総合的土壌肥沃度管理を組み合わせた環境再生型農業の主流化

2. 健康のための栄養に配慮した農業

現地で生産される主要作物のひとつであるメイズは必須アミノ酸であるリジンとトリプトファンが含まれておらず、それだけを食べていると低蛋白栄養失調症になることがわかっています。農業から食卓までの農業支援を重視するササカワ・アフリカ財団は、世界に先駆け、1980年代後半にはガーナで高たんぱくメイズ(Quality Protein Maize)の普及を開始しました。ガーナ政府の補助金などもあり、同国は今でもQPMの生産国となっています。2021年には生物学的栄養強化作物の開発と普及をリードする国際組織であるHarvestPlusと協力覚書を締結し、ビタミンAを強化したトウモロコシやキャッサバ、鉄分を強化した豆類、亜鉛を強化したコメなどの普及を促進していきます。これまでの両組織の知見や経験を活かし、深刻化する栄養不足人口の増加や子どもの低栄養を改善するため、これらの栄養価の高い作物の普及や家庭における栄養に対する意識を高める啓発活動を行っていきます。

写真
自らのパーマガーデン(小規模菜園)で育てた野菜に思わず笑顔がこぼれる(エチオピア)

【重点項目】

  • 高栄養作物(生物学的栄養強化作物や地場野菜)の効果的な普及
  • 農家による(離乳期)栄養補助食品ビジネス等の推進

3. ビジネスとしての農業を可能にする市場志向型農業

農家が『食べるために作る』から『売るために作る』というマインドを醸成することで所得向上と生活基盤改善をめざします。また、農家グループや組合を対象に組織マネジメントやビジネス開発、マーケティング等に関する研修を実施するほか、肥料や種子のディーラー、農産物仲買人や金融機関との連携を促進する取り組みを行っています。

写真
熱心に市場調査を行う農業普及員講師の様子

【重点項目】

  • 小規模農家のビジネス能力強化とアグリビジネス起業家の育成
  • SHEPアプローチと農協アプローチの効果的運用

現地からの声

<分野横断的事項>

重点領域に加え、分野横断的に以下の項目を重視しながら活動しています。

1. キャパシティ・ビルディング

  • 農業大学における普及員の人材育成

2.女性、若者、障がい者(PwDs)のインクルージョン促進

  • アグリビジネスにおける女性、若者、PwDsの能力強化
  • ジェンダー平等の推進
写真
若手の農家育成が今後のアフリカの農業の未来を変える(エチオピア)

3.農業普及のデジタル化(DX)

  • ICT(情報通信技術)を活用した農業普及のDX化
写真
スマートフォンアプリを活用して農業に必要な情報入手や情報交換をする様子

関連リンク

お問い合わせ

日本財団 特定事業部 グローバル・イシューチーム

  • メールアドレス:cc@ps.nippon-foundation.or.jp