カンボジアにおける教育支援

カンボジアにおける教育支援とは
日本財団は1992年以降、カンボジアの発展に向け多岐にわたる協力活動を展開してきました。
カンボジアにおける助成事業の8割以上は、教育支援、青少年支援、障害者支援等といった社会開発分野を対象としており、とりわけ教育分野は「カンボジアの子どもたちが基礎教育を通じて将来の選択肢を広げ、希望を持って生活を送ることができるように」という思いから、都市部と農村部の教育格差是正を目指し、教員養成、英語教育、保健教育といった数多くの事業を展開しています。
日本財団が支援をする背景
カンボジアでは1970年~1990年代の内戦と混乱により、教育施設は破壊され、学校の教員を含む多くの知識人が粛清されました。
1990年代に入り、パリ和平協定が締結され、長い内戦が終わり、以降海外からの支援を受けつつ、基幹インフラの復興が始まりました。教育分野では学校設備の再建、整備が開始され、日本財団も2000年までに100校の校舎建設支援や寄贈を行い、今日までその支援を継続しています。
学校、教育機関等の設備が整えられてきた一方で、いまだ教育の質については十分とはいえない状況です。
特に、義務教育であるカンボジアの英語教育は、義務教育にもかかわらず、英語を教えるための研修を受けた教員が不足していることから、英語の授業が実施されていない学校が多数あります。さらに、就学レベルに対応した教材がなく、一部の子どもたちは十分な英語の授業を受けることができません。
これらの事情を背景に、日本財団は、カンボジアにおいて教育の質の改善を目的に、教員養成と英語教育の課題解決についても貢献すべく、以下の事業を展開しています。
支援プロジェクト
<過去の実施事業>
1. 教員養成校の学生を対象とした奨学金(2008年~2020年)
2008年当時、カンボジアでは、教員を目指す地方出身の学生が経済的な理由でアルバイトに時間を費やさなければならず、教員課程の取得のための学業に専念できない、また教員になった後も教材の不足や生活維持のため、アルバイトを続けざるを得ないという状況でした。そこで、日本財団は現地の事業パートナーであるNGO Education Support Center “KIZUNA”(※)と連携し、教員養成校の学生の学業への専念の促進を目的として、生活補助の奨学金の支給を行いました。
- ※
NGO Education Support Center “KIZUNA”とは、地方の教育開発を行っている事業団体。
活動概要
- プノンペン教員養成校の全学生(プノンペン他5州の出身)へ、月額$15の奨学金支給
- 全学生を対象としたアンコールワット遺跡群見学スタディツアーの実施
- 成績優秀な学生を対象とした海外研修の実施(タイ等の東南アジアの学校現場、1週間)
- 卒業生(現職教員)による教育研究発表会の実施(年数回)
成果
- 約2,400名への奨学金の支給=教員の輩出。プノンペン他5州の中学校に勤務
- 上記2,400名の教員を通した教育現場の課題調査、および改善に向けたパイロットプロジェクトの実施
2. 英語教育の支援(2010年~2021年)
カンボジアでは、1990年代に海外の援助を受け、中学英語教科書を作成しました。しかし、読み書き主体に作られた教科書は、内容も難解で、生徒のみならず教師にも理解するのが難しく、教育現場の実態に即していないものでした。さらに、他の教科に比べ、地方で英語を教えられる教師が不足していたこと、教科書が行き渡っていないことにより、都市部と地方の教育格差が拡大していきました。また、生徒の英語能力は就職に少なからぬ影響を及ぼしていることから、都市部と地方の生徒の進路の選択肢の格差にも繋がることが懸念されていました。
このような状況を受け、日本財団と現地の事業パートナーであるNGO Education Support Center “KIZUNA”は、英国BBCの協力を得て、2010年より会話能力の向上を目的としたラジオ英語プログラム(EiF※)の作成に取り掛かりました。15校のモデル中学校を対象にトライアル事業を開始、2014年に対象校を40校までに拡大、EiF実施校の生徒の英語の成績が都市部の学校の生徒の成績を上回ったという結果もあり、EiFは2016年に教育省が公式認可、以降は全国の中学校で活用されています。
また、リスニングとスピーキングに特化したEiFの効果に注目した青年教育スポーツ省より、同様のリーディングとライティングを効果的に教えられる英語の教科書作成の要請を受け、2016年に中学校、2021年に高等学校用の検定教科書を開発、教育省へのハンドオーバーを行いました。現在、カンボジア全国の公立中学・高等学校では、日本財団と“KIZUNA”によって作成された英語の教科書が使用されています。
- ※ English is Funの略称。「English is Fun」とは、中学生向けの英語の副教材で、2010年より始まった会話能力の向上を目的としたラジオ英語プログラムのこと。


<実施中の事業>
1. 学校建設プロジェクト
日本財団は、2000年までに支援が行き届きにくい国境地域に100校の学校建設を支援してきました。
さらに、2023年からは、NPO法人環境修復保全機構をパートナーに、ミャンマーで長年実施してきた、コミュニティ主導の学校建設を通じた地域開発事業をカンボジアで展開しています。
この事業は単なる学校建設ということではなく、地域住民たちもその建設作業に主体的に取り組むことで教育環境の持続的な改善を目指しています。
これにより地域住民全体が教育の重要性を理解し、子供たちを支える体制が構築されることが期待されています。具体的には、学校建設へ貢献してくれた住民の労働力の対価を、日本財団が「コミュニティ開発基金」として地域に還元し、村がその基金を活用して、養鶏事業やマイクロファイナンス(※)といったコミュニティビジネスを展開しています。さらに、ビジネスの運用益の一部を教育環境の改善に充てることで、政府に依存しないコミュニティの共助による持続的な教育支援を実現しています。
2024年までにトボンクムン州には6校が建設され、地域での認知度も向上してきました。今後も、学校建設を契機に地域社会全体が教育の価値を再認識し、子どもたちを支える仕組みが根付いていくことを目指します。
- ※
マイクロファイナンスとは、貧困層の人たちが行っている事業などへ小口の融資や貯蓄などのサービスを提供し、「経済的自立=貧困からの脱出」を促すための金融サービスのこと。


2. 保健教員養成プロジェクト(2020年~)
カンボジアの教育・青年・スポーツ省は、2025年より保健教育を初等・中等教育の時間割に導入することを決定し、各学年用の教科書を開発しました。教員がこの新設科目の教員資格を取得するためには、「教員養成課程」を大学で取得する必要があります。しかし、これまでの教員養成課程には、この「保健体育」が導入されていない状態でした。
そこで、日本財団は東京学芸大学と連携し、全国の小中学校における保健教育の普及を目的にカンボジアの教員養成課程(プノンペン教員養成大学・バッタンバン教員養成大学)へ保健教育の導入を行い、保健教育の指導ができる教員養成を支援しています。
活動概要
- 教員養成大学2校への保健教育の講義の導入
- ※小学校・中学校教員養成課程、それぞれでの保健教育の講義開講に向けた準備(カリキュラム・教科書開発、大学教員の研修等)
- 開講後の講義実施フォロー、及び卒業生=若手教員のフォロー
これまでの成果
- 小学校教員課程への講義導入完了
- ※受講した卒業生=現役教員600名(2025年1月時点)
- 中学校教員課程への一部講講義導入


3. 図書室・保健室導入プロジェクト(2022年~)
内戦の復興から30年以上が経過した今日でも、カンボジアの中学校では、図書室や保健室の設置基準が体系化されておらず、運営マニュアルもなく、教師たちへの運営研修がなされていない状態です。
図書室は書物に触れる機会が少ない開発途上国の生徒たちにとって大切な読書習慣形成の場であり、保健室は生徒たちが安心して学校生活を送ることができる貴重な教育施設です。
日本財団は、現地の事業パートナーであるNGO Education Support Center “KIZUNA”と連携し、将来、カンボジア全土の中学校における図書室・保健室の普及を目指し、コッコン州の全中学校を対象としたトライアル活動を実施しています。
活動概要
- 教育青年スポーツ省・コッコン州教育局と連携した図書室・保健室の設置基準・運営マニュアルの作成
- 空き教室を利用したコッコン州全32中学校への図書室・保健室の設置、および書籍・応急処置セット等必要備品の供与
- 運営に向けた管理職・担当教員研修
これまでの成果
- 全32中学校への図書室・保健室の設置
- 各校3名(管理職・図書室担当・保健室担当)の教員研修(実施中)


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