視覚障害者に対する教育と雇用の支援ネットワークオーバーブルック盲学校

世界視覚障害児教育会議(ICEVI)の会長を務めていたラリー・キャンベル氏(写真中央)と各国のプロジェクト関係者たち

視覚障害者に対する教育と雇用の支援ネットワークとは

日本財団は海外の障害者への支援を積極的に行っています。

「視覚障害者のためのオーバーブルック=日本ネットワーク事業(英語名:Overbrook-Nippon Network on Educational Technology)」(通称オンネット<ON-NET>)事業は、日本財団がアメリカのオーバーブルック盲学校(Overbrook School for the Blind)と協力して1998年からASEAN地域(※)で視覚障害者のために実施してきた取り組みです。

日本財団では、1998年よりこの事業の支援を行ってきました。現在も基金の運用益を通して、引き続き支援を続けています。

ON-NET(外部リンク)は、日本財団が米国のオーバーブルック盲学校(Overbrook School for the Blind)に設置した基金によって設立された、ASEAN諸国の途上国(タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー)の「視覚障害者支援ネットワーク」です。

ON-NETは、情報コミュニケーション技術を利用して視覚障害者の教育と雇用の機会を増やすことを目的としています。また、当事者リーダーの育成や、ネットワークを通じた当事者やNGOとの連携の強化に力を入れています。各国のニーズは経済や教育の事情により異なりますが、情報を集めるための国内委員会(Steering Committee)や、各国の代表からなる地域委員会(Regional Advisory Committee:RAC)を設立し、域内で共通する課題を検討し、優先順位をつけて取り組んでいます。

ON-NET事業の経緯と目的

オーバーブルック盲学校は、アメリカのフィラデルフィアにある3歳から21歳までを対象とした私立盲学校で、パーキンス盲学校と並んで国際協力活動に積極的であることで知られています。オーバーブルック盲学校では1985年から13年間にわたって、主に途上国の視覚障害留学生を積極的に受け入れていました。このプログラムに参加した学生や教員はこれまで300人以上にのぼり、英語、コンピューター、リーダーシップ養成の3つの分野を1年間集中的に勉強して、リーダーとして巣立っていきました。

タイの国会議員として活躍していたモンティエン・ブンタン氏やラチャスダ大学のヴィラマン・ニヨンポン氏もオーバーブルック盲学校の本校の卒業生です。

2010年まで世界視覚障害児教育会議(ICEVI)の会長を務めていたラリー・キャンベル氏は、1993年当時、オーバーブルック盲学校国際部のディレクターでした。

キャンベル氏は、帰国した留学生たちから多くの相談や支援のリクエストを受けるようになり、途上国のより多くの視覚障害者を支援するためには、それぞれの地域に根差したプログラムが必要だと考え、日本財団に事業を提案しました。

日本財団は1989年にオーバーブルック盲学校に途上国からの留学生のための奨学金を設置しており、さらにアジアの視覚障害者の支援を地域に根差して行いたいと考えていたため、この支援を決定しました。

こうして1998年にアセアン諸国のタイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、インドネシアを対象としたON-NET事業が開始されました。事業の目的は、コンピューターによるアクセス・テクノロジーの効果的な利用を通じて、途上国における盲人と視覚障害者の教育と就労の機会を拡大することと、東南アジア地域に視覚障害者支援団体のネットワークを確立することでした。

当初、毎年の助成を想定していましたが、日本財団は長期間にわたって事業を継続するために、基金の設置を提案。1997~98年に合計300万ドルの基金が設置され、1998年から現在に至るまで運用益で事業は実施されています。

各国での事業と成果

東南アジア諸国の中でも、視覚障害者への教育のインフラが整っているタイやマレーシアにおいては、支援を受ける立場ではなく、逆に支援をする立場として地域拠点や地域連携の強化に焦点を当てた活動を実施しています。タイのラチャスダ大学にASEANの地域拠点を設立し、事業全体のハブとしてさまざまなワークショップやトレーニングを実施してきました。

その次に、一定の成果を挙げていたフィリピンやインドネシアでは、オンラインの点字図書館やプログラミング講座、IT技術に特化したサマーキャンプの実施など、IT技術に特化した支援を実施しています。

カンボジアでは、事業開始当初、視覚障害者当事者団体がなかったため、カンボジア視覚障害者協会(ABC)の設立やその他の活動を支援してきました。また当初は特別支援学校が存在していなかったため、クローサットメイというNGOが視覚障害児に教育や点字教材を提供する支援を行っていました。現在は、政府による特殊教育学校が設立され、政府主導で教育が提供されています。

ベトナムでは、ベトナム盲人協会(VBA)がASEANの中でも最大規模の視覚障害者(7万人)を有しており、同団体および視覚障害者のエンジニアにより設立されたサオ・マイ・センターと協力し、ベトナム国内での支援を展開してきました。またベトナム教育省と連携し、事業開始当初、たいへん高価であった点字板をベトナム国内で生産できるような体制を構築したり、国内各地で異なっていた点字を統一したりするといった成果を上げました。現在は、情報技術を活用した電子書籍の図書館、ベトナム語の無料スクリーンリーダーの開発などを行っています。

教育的、職業支援のインフラが十分に整っていない、ミャンマーやラオスにおいては、特殊教育学校の教員の能力開発研修、大学内での職業支援センターの設立などの活動を現在も行っています。

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アクセシブルな電子書籍を読む学生

今後の展開と課題

ON-NET事業は、これまでも各国のニーズをうまく吸い上げて効果的な支援を行ってきました。

オーバーブルック盲学校の卒業生がキーパーソンとなって活躍したこと、各国にネットワークが形成されお互いが刺激を受け助けあっていること、また、これまでキャンベル氏やオーバーブルック盲学校の教員がコーディネーターとして頻繁に対象国を訪問し、人と人をつなぐ役割を果たしたことが成功要因として挙げられます。キャンベル氏は「最も重要なものは、フォーマルなものであれインフォーマルなものであれ、ネットワークだといえる。人々がお互いをよく知り、誰が何に強いか知っており、尋ねることができる」と語っています。

スマートフォンやAIなどの急速な技術の進歩により、アクセシビリティの現状は改善されつつありますが、読み上げや文字認識のソフトが英語中心であり、東南アジアの現地の言葉に対応していないことや、国ごとに普及のバラつきがあること、就労が厳しい状況についての課題などが残っています。今後はこうした課題に引き続き取り組んで、より多くの視覚障害者が技術を活用し情報を得て自立していけるよう、日本財団は支援を続けていきます。

  • ASEAN諸国のプロジェクト対象国:タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー

お問い合わせ

日本財団 特定事業部 障害インクルージョンチーム

  • メールアドレス:100_shougai_inclusion@ps.nippon-foundation.or.jp