再犯を防ぐ本気の取り組み

5割近い再犯者率

「令和2年度犯罪白書」によると、刑法犯により検挙された者のうち再犯者率の推移は、増加傾向にある。再犯者率は1997年以降上昇、2019年はわずかに低下したものの、2020年は過去最悪の49.1%であった。また、「平成30年保護統計年報」によると、無職者は有識者の約3倍の割合で再犯し、「平成30年度矯正統計年報」によると、再犯をして刑務所に戻った人の中で有職者の割合は約3割、無職者の割合は約7割となっている。
一度罪を犯すと、様々なハンディキャップを背負い、社会復帰を望んでもかなわないのが日本の現状で、それが刑務所出所者や少年院出院者の再犯要因にもなっている。

職親プロジェクト、2013年始動

当財団は2012年度から少年院出院者や刑務所出所者の再犯防止を目的に、「就労」をテーマとした「農業を活用した再犯防止プロジェクト」、「職親しょくしんプロジェクト」、「再チャレンジ奨学制度」の3事業を展開してきた。再犯防止には、少年院出院者や刑務所出所者が社会に復帰した後、就職先での定着がカギであり、矯正施設内での就労訓練に加え社会性やコミュニケーション能力を養う教育が必要になってくる。また、出院・出所後にも社会復帰のための教育を継続することが求められる。

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職親プロジェクト調印式(大阪府)

日本財団職親プロジェクトは「ひとりをみんなで支える」を活動理念に、2013年2月、関西の企業7社の協力を得て発足。就労支援を通じて刑務所出所者・少年院出院者の円滑な社会復帰を官民連携で取り組んでいる。
「職親」とは、刑務所出所者・少年院出院者を雇用し対象者の自立更生を「職」の「親」となって支えるという意味合いであり、再犯防止に意欲を持ち当プロジェクトに参加している企業のことを職親企業と呼んでいる。職親企業には、刑務所出所者等の積極的な雇用、対象者が出所者であることを社内へ公開すること、企業として協力雇用主企業であることを社外へ公開すること、職親企業間の連携を行うことを要請している。なお、雇用対象には制限を設けており、プロジェクト開始時は刑務所出所者・少年院出院者で就労意欲が高く、刑務所・少年院には初入であり、犯罪傾向の進んでいない者(重大事犯者、薬物事犯者、強制わいせつ事犯者などは除く)が対象であったが、現在は刑務所出所者・少年院出院者で就労意欲が高い者まで対象者を拡大している。

官民合同の活動と成果

当プロジェクトでは当初、刑務所出所者等1人当たり月8万円を6カ月にわたり支給する支援金制度を創設した。本制度は活発に活用され、結果として、2015年には法務省が本制度をモデルに刑務所出所者等就労奨励金として制度化に踏み切った。
2014年3月には面接機会の拡充として、仕事フォーラムを開始。職親企業のみを対象として各矯正施設において、企業紹介会、合同質問会、個別質問会、個別面接も行われた。
当プロジェクトでは法務省だけでなく、厚生労働省、文部科学省、国土交通省、民間団体や当事者団体等が参加する官民合同勉強会を開催。「就労」「教育」「住居」「仲間作り」について官民が互いに知恵を出し合い議論を行った。

この成果については2017年9月に上川陽子法務大臣(当時)へ要望書として提出し、その後3カ所の矯正施設でのモデル事業につながった。当プロジェクトは7年の間で174社の参加を得、うち48社が施設内で内定を出し採用につなげている。6カ月就労継続率は62.2%で、1年以上就労が継続している者は44.1%に上る(2021年3月時点)。

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矯正施設内にて職親企業による職業講話
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上川陽子法務大臣へモデル矯正施設および更生保護施設の機能拡充に関する要望書を提出
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モデル施設の一つとなる矯正施設(多摩少年院)

職親企業を増やし再犯を減らそう

一方で、これまでに当プロジェクトが取り組んできた中で様々な課題が浮き彫りになってきた。それらの課題を官民で協議すべく、2021年5月20日には再び上川法務大臣へ要望書を提出。受刑者の就職先の選択肢を広げる職業体験を実施すること、施設内での採用面接時間の十分な確保、就労予定地を考慮した帰住調整の実施、映像を使った職業紹介等を官民合同で連携して実施していくことを要請した。また、「日本財団職親プロジェクト参加企業数の目標を1,500社まで増やし、4,500人/年の在所・在院中の採用内定」をスローガンとして掲げた。当財団は、刑務所出所者・少年院出院者の就労機会の全国展開、職親企業および施設内での求人募集の充実、在所中の内定等々を、さらに官民連携で推進していく。
(冨樂 雄大/公益事業部)

本事業における「日本財団という方法」

再犯防止関連の行政機関の多くは地域単位の運営だが、所管は自治体でなく国であることが、柔軟な動きや変化が難しい要因の一つではないかと考える。当財団が官民のハブとなることで、現場で活躍する民間企業が持つ課題や良策を丁寧に抽出し、国と協議し、現実的な再犯防止施策へつなげることができる。これが当プロジェクトにおける日本財団という方法だと考える。

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冨樂 雄大