日本財団DIVERSITY IN THE ARTS-「アート」の力で多様性を認め合える社会へ

「福祉×アート」の可能性

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DIVERSITY IN THE ARTS PAPER(タブロイド紙 1~9号の表紙)

当財団は、多様性を認め合う社会の実現を目指し、その一環として「障害者と芸術文化」のあり方を社会に問う活動を通じ、障害福祉の現場で育まれたアート活動を支援している。
障害者に対する偏見や差別は、現代社会においても未だに存在する。アートを通じて障害のある人、ない人、すべての人々が交流し感動や喜びを共有できれば、こうした偏見や差別は解消できると考えている。障害者に自己の可能性を見出せるアート活動の機会を提供し、才能ある障害者アーティストの発掘と活動を支援し、さらに当事者の「声」も社会へ向け発信できれば、当財団が目指す「インクルーシブな社会」(※1)を実現できると考えた。

ところが、障害者と芸術文化の領域は、「エイブル・アート」「アウトサイダー・アート」「アール・ブリュット」「現代アート」など様々な考え方や言葉で表現され、時にそれらの言葉に縛られ、衝突することがあった。本来なら、言葉に縛られず、個人の意思で選択できる姿が望まれるはずであり、他人によって制限、強要されるものではない。大切なのは障害者を含む様々な人たちがアートを通じて集い、その中で障害者が社会とのつながりを持てることだ。
当財団は一朝一夕には進まない、こうした理念の実現に向けて、これまで様々な取り組みを実施してきた。

  • 1. インクルーシブな社会とは、社会を構成するすべての人が多様な属性やニーズを持っていることを前提として、性別や人種、民族や国籍、出身地や社会的地位、障害の有無など、その持っている属性によって排除されることなく、誰もが構成員の一員として地域で当たり前に存在し、生活することができる社会を指す。

アール・ブリュット・ジャポネ展

2010年以降、全国の障害者支援施設が、障害者がつくるアート作品を地域の人たちに身近に感じてもらおうと小さな美術館を整備してきた。当財団では、このような動きの後押しをすべく、地域で親しまれてきた古民家や歴史的な建造物の美術館へのリフォームや展覧会の開催、キュレーター育成にも取り組んできた。
2010年にフランスのパリで開催されたアール・ブリュット・ジャポネ展に出展された46名732点の作品を収蔵し、その保存と展覧会等への作品貸出を行っている。さらに、作品が生まれる創作現場を伝える映像制作や、アートやデザインを通じた仕事作りへの支援なども積極的に進めてきた。
この流れに呼応するように、国内では障害福祉の現場でアート活動を推進する動きが全国的に広がり、国内外から評価を受けると共に、様々なあり方が模索され、活発な議論が起きるようにもなった。

2016年、ターニングポイント

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Museum of Together Circus展(2018年)メインビジュアル

2016年、当財団は国内における障害福祉分野とアートのプラットフォームとなる一般財団法人日本財団DIVERSITY IN THE ARTS(ニッポンザイダンダイバーシティ・イン・ジ・アーツ)を設立し、公募展、企画展、メディアを通じた情報発信などを実施している。
公募展は、才能ある障害者アーティストの発掘を主な目的としている。これまで国内外から約8,000点もの応募があり、国内外の審査員によって入賞作品を選定している。この取り組みは当事者のみならず支援する人々にとっても、芸術作品が完成した喜びを共に分かち合う時間を提供している。
企画展は、アート作品を通じ障害者と健常者の接点を作ることを目的としている。障害者が参画し、自身の視点を取り入れたイベントであることが特徴だ。
2017年には『日本財団DIVERSITY in the ARTS 〜MAZEKOZE プロローグ〜』(来場者約4,000人)を開催。2017年以降、障害のある作家や現代美術家、タレントの香取慎吾氏などによる作品を展示した『日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー』(来場者4万人)、2018年には『日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 2020 ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス』(来場者4,000人)、『LOVE LOVE LOVE LOVE展 プレイベント』(来場者1,300人)を実施した。お気に入りの作家の作品を求めて展覧会を訪れる来場者も多く、ワークショップやジャンルを超えた著名人によるトークイベントでは、日常の中で「障害」や「アート」に直接的に関わりのない人々の関心も引き寄せる場となった。
なお、2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて『LOVE LOVE LOVE LOVE展』を企画したが、新型コロナウイルス感染拡大から実施を見送った。
大規模イベントの実施が困難な中でも、ウェブサイト「DIVERSITY IN THE ARTS TODAY」、タブロイド紙「DIVERSITY IN THE ARTS PAPER」は継続的な情報発信の役割を果たしている。この2つのメディアを通じて、創作が生まれる現場やアーティストの紹介、専門家によるコラムやインタビュー、イベント情報、最新トピックを取り上げ、ダイバーシティ・多様性を世に問う活動を続けている。

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公募展 審査の様子(多数の作品を体育館に並べての審査)
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Museum of Together Circus展(2018年)(写真左から)作家の竜之介さん、香取慎吾さん、安倍晋三総理大臣(当時)、当財団会長笹川陽平
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公募展 展覧会の様子(東京渋谷のBunkamura ギャラリーにて)

「アート」で社会を変える

日本財団DIVERSITY IN THE ARTSは、既成の形式にとらわれない多彩な企画を生み出し、積極的かつ横断的な情報発信を通じて多様性の意義と価値を考えるきっかけを社会に提起している。障害のあるなしに関わらず、誰もが互いの幸せを思い、共に歩むことが当たり前の社会を目指して活動していきたい。
(齊藤 裕美/公益事業部)

本事業・この社会課題への今後の期待

多様であることに対する社会の関心が高まっている現代において、人々の共感を得られる事業だと考える。いつの時代も、困難を乗り越え新しい価値観を生み出し続けてきた芸術文化の力を最大限に活用した事業を開拓していきたいと思う。

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齊藤 裕美