スポーツの力で社会課題解決を-HEROs-Sportsmanship for the future

社会貢献活動参加のハードルを下げる

山積する社会課題を解決するには、自助・公助だけではなく、支援の手からこぼれ落ちる人たちを救う共助の精神、すなわち「みんながみんなを支える社会」が必要となる。こうした社会の実現に欠かせないのが、助け合いの精神であり、社会貢献活動やボランティア活動が不可欠だが、日本では、こうした活動は、特に意識の高い特別な人が行うものと考える方が多いのではないだろうか。
2017年にスタートしたプロジェクト「HEROs」は、「スポーツの力」を活用し社会課題解決を促進するプログラムだ。アスリートの知名度や発信力を用いて社会課題への関心を呼び起こし、より多くの人に社会貢献活動への参加を促している。

ACADEMY・ACTION・AWARDの3つの柱

各競技から1名ずつ選出された21名のアスリートがHEROsアンバサダー、そして6名のHEROsメンバーが、スポーツと社会をつなぐ旗振り役として活動に取り組む。その活動は、「HEROs ACADEMY」、「HEROs ACTION」、「HEROs AWARD」の3つからなり、スポーツマンシップを世の中のために活用することを目指している。

写真
HEROs アンバサダー&メンバー

「HEROs ACADEMY」では、アスリートがスポーツから学んだ力を、社会に活かす方法を学ぶための講座としての「HEROs ACADEMIA」を主催するほか、「HEROs SCHOLARSHIP」を設置し、アスリートの力を社会に活かすための様々なプログラムの受講料等に対し奨学金を支給している。
「HEROs ACTION」では、「ヒーロー」たちに活躍の場を提供するため、2017年度から様々なイベントを開催してきた。献血骨髄バンクドナー登録を推進する「HEROs FESTA」、被災地支援、パラスポーツイベントでアスリートが子どもたちに経験を語る「HEROs LAB」などだ。

2019年11月に代々木公園(東京都渋谷区)で開催した「HEROs FESTA」は、子どもたちが会場で夢中になるものを見つけることで、新しいことに挑戦するきっかけ作りとなることを目指した。総勢20名のアスリートがトークショーや子どもたちとスポーツ交流を行った。また井上康生氏(柔道)や萩原智子氏(水泳)らアスリートが、高齢化の進む骨髄バンクドナーへの登録者を若者に呼びかけ、2日間で延べ236名が献血、112名が骨髄バンクドナーに登録した。

写真
イベント運営をした当財団職員とボランティアの集合写真(2019年11月)

被災地支援では、2018年10月に17名のアスリートが「平成30年7月豪雨」で被災した広島県坂町の小中学校や仮設住宅を訪問し被災者と交流を行った。HEROsアンバサダーの中田英寿氏は「私たち一人ひとりができることはそれぞれ違うけれど、困っている人にどれだけ寄り添っていけるかが大事。仲間を大切に。」と継続的な支援を呼びかけ、被災地にエールを送った。
また、「令和元年東日本台風」で被災した栃木県鹿沼市には、2019年10月と2020年1月の2回にわたり、18名のアスリートが訪問。この活動には学生ボランティアも多く参加し、アスリートと共に瓦礫除去等の支援を行った。多くの学生たちにとって、これが初めての被災地ボランティア活動であったが、アスリートからの呼びかけが参加のきっかけとなった。

写真
写真(中田氏)
被災地支援で広島県坂町を訪れた中田英寿氏が地元小屋浦小学校の子どもたちと触れ合う(2018年10月)

HEROsのオンライン授業

「HEROs LAB」では、中高生を対象に、アスリートがスポーツで培った価値観や経験を伝えるオンライン授業を2020年度より実施。ケガや挫折を乗り越え自身の可能性に挑戦し続けたアスリートの経験談は、将来に不安を持つ若者に大きな勇気を与えた。34回の実施で、登壇した総勢46名のアスリートが計4,628名の中高生の悩みや質問に答えた。

写真
村田諒太氏ら3人のアスリートが語る「今中高生がやるべきこと」(2020年10月)

HEROs AWARD & HEROs FUND

「HEROs AWARD」はアスリートの社会貢献活動を称え表彰する式典で、2017年度より年に1度開催している。社会貢献活動は本来優劣をつけるべきものではないが、ロールモデルと言えるアスリートの活動を表彰することで、社会における「スポーツの価値」の向上を目指している。式典には、受賞者やアンバサダーをはじめ、様々な競技のトップアスリートが参加し、競技を超えたアスリートの出会いや、新しい社会貢献のアイディアが生まれる場として活用されている。

写真
社会のために活躍したアスリートを表彰(2021年)
写真
HEROs AWARD2021には150名以上のアスリートが集まった(2021年)

その他、アスリートや非営利団体が「スポーツの力」を活用して社会課題に取り組む事業に支援する「HEROs FUND」(寄付金)もある。累計36件の事業に対して総額47,262,820円を支援した。

HEROsが目指す未来

2021年度で5年目となったHEROsの活動には、延べ約900名のアスリートが参加し、現在もネットワークを拡大している。アスリートによる社会貢献活動をサポートすることで、社会貢献を「楽しい」「かっこいい」活動として発信し続け、社会貢献参加へのハードルを下げることを目指す。スポーツには、人をつなぎ、心を動かすなど、様々な力がある。社会のために活躍する「ヒーロー」を育成し、活躍の場を提供し、活動を広く知ってもらうことで、社会課題解決の輪が広がる。HEROsはアスリートと共に社会貢献活動の輪を広げていくことに取り組んでいく。

写真
子どもの生きる力を養うキャンプでの井上康生氏(左)と五郎丸歩氏(右)(2019年3月)

(植木 美保子/経営企画広報部)

本事業・この社会課題への今後の期待

社会貢献活動は「余裕のある人」や「意識が高い人」がするものという風潮がある。その風潮こそが、人々の社会貢献に対する意識により大きな差を生み出しているのではないだろうか。相手へのリスペクトなどスポーツマンシップを備えたアスリートが自ら社会貢献活動を実践することで、多くの人を巻き込みその風潮を変えることができる、そう期待できる事業であると考える。

写真
植木 美保子