パラリンピック支援(2/2)担当者手記
金子知史(出向当時:ソーシャルイノベーション本部パラリンピック特別チーム)
パラサポの取り組み 6年半を振り返って


日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)の設立のきっかけは、2014年6月に当財団内部に日本財団パラリンピック研究会を立ち上げ、パラリンピックに関する課題調査を行ったことから始まる。大規模な資金と、東京2020パラリンピックに向けてスピード感を持った対応が必要であったことから、当財団外部に専門組織を立ち上げることとなった。
私はパラリンピック研究会の運営業務、パラサポ設立業務を担当し、2015年6月にパラサポへ出向。より現場に近い位置から、東京2020パラリンピックという最初のゴールに対して最短距離で走り抜けるため、当財団の強みを活用しつつ、次の2点を意識した。
1点目は、最大の強みである資金力を活かして、誰も取り組めていない分野にダイナミックに切り込んでいくこと。当時、パラリンピック競技団体に対する運営支援の必要性は多くの関係者が認識していたものの、各団体の自助努力に任されていた。そこで、パラサポでは競技団体を横断的に支援するため、共同オフィス・助成金・バックオフィス支援の制度を2015年11月に開始した。結果、パラサポオフィスはパラリンピック競技団体の一大拠点として認知され、パラスポーツ界における一定のポジションを獲得することができた。
2点目は、獲得したポジションパワーを基に、当財団が持つハブ機能をフル回転させたことだ。ムーブメントの醸成には分野を超えて人々をつないでいくことが重要であり、「あすチャレ!」や「パラ駅伝」・「ParaFes」などのイベント、WebマガジンやSNSを含めて展開してきた事業は、パラアスリート・アーティスト・芸能人・YouTuber・企業・省庁・自治体・メディア、そしてパラスポーツファンなどあらゆるカウンターパートがつながる場として機能した。独自のプログラム開発やイベント企画など、様々なことにチャレンジした結果、パラサポが前面に出ながらハブ機能も担ってこられたことを感じる。これも、業界最大の課題であったパラリンピック競技団体の運営支援に注力していることから生まれた信頼によるものであり、競技団体支援とあすチャレ!はどちらの事業もゴールに最短で向かうための車の両輪である。
2015年の団体設立から約6年半の間、まず、現場の課題に正面から向き合って解決を目指してきた。解決策となる事業創出のポイントとして意識してきた前記の2点は、「日本財団という方法」の一例になるのではないか。関係者の参考になることがあったらうれしく思う。
「あすチャレ!」展開の中核となる講師育成
パラサポの最も特徴的な事業である「あすチャレ!」は、パラスポーツを通じて新しい価値観を生み出すユニークな教育・研修プログラムとして、以下の5つが展開されている。
- 教育:「あすチャレ!スクール」「あすチャレ!ジュニアアカデミー」
- 研修:「あすチャレ!Academy」「あすチャレ!運動会」
- 講演:「あすチャレ!メッセンジャー」
いずれのプログラムもパラアスリートを中心とした講師で構成されており、全プログラム合わせて延べ約100名を数える講師陣はパラサポの大切なファミリーである。
全てのプログラムは独自に開発されており、担い手となる講師育成に力を注いでいる。特に74名が登録されている「あすチャレ!メッセンジャー」は、パラスポーツへの注目が高まりパラアスリートの講演機会が増加する中、「パラスポーツの普及に尽力したい」「多様性のある社会にしていきたい」という想いのあるパラアスリート等を対象にスピーチトレーニングを実施、伝えるスキルを習得した講師(メッセンジャー)を派遣している。スピーチトレーニングは、「聴衆を惹きこむプレゼンテーション」をコンセプトに、アクセンチュア株式会社とパラサポが共同開発しており、好評を博している。
「あすチャレ!」は、講師育成のプロセスにおいて、パラアスリートのさらなる能力開発に寄与しているだけでなく、一定の講師謝金を支払っていることから、プログラム自体がセカンドキャリアにもなっている。競技だけでなく、競技生活で培ってきた能力が社会に活かされていくことで、D&I社会の実現が加速していくと考えている。




