「THE TOKYO TOILET」
渋谷区内17カ所の公共トイレを刷新する(2/2)プロジェクト担当者による「思い入れトイレ」
プロジェクト統括:日本財団 佐治香奈
「神宮前公衆トイレ」

竣工前の検査で現場を訪れた際、無機質なビル群と明治通りに囲まれた一角に現れたこのトイレに、思わずチームのメンバーと歓声を上げました。NIGO?さんのデザインにはビビッドな印象を持っていたので、最初にこのレトロでかわいいお家のようなプランを拝見した時は少し意外な思いがしましたが、こうして実際に町の中に完成すると、まるで以前からそこにあったような安心感もあります。
NIGO?さんにとってこの交差点は東京で最も好きな場所。「めちゃめちゃ思い入れのある場所なので、すごくうれしかった」と話してくださいました。この地で育ち、この街を愛するNIGO?さんだからこそ、完成後のイメージも明確に描けていたのでしょう。
デザインするにあたり、トイレに関する書籍も買い集めて勉強をされたそうです。「型を知った上で破りたかった」と話すNIGO?さんの、世にも珍しい「ときめくトイレ」を、多くの皆さんに見ていただき、愛してもらえたら嬉しいです。
トイレ管轄:渋谷区 上田重孝さん
「はるのおがわコミュニティパークトイレ・代々木深町小公園トイレ」

思い入れ深いトイレは、はるのおがわコミュニティパークと深町小公園のトイレです。
私がデザイン確認や地元調整のすべてを担当した最初のトイレであったことから、関係者との打ち合わせが大変印象深く残っています。トイレ全体がガラス張りというデザイン。区が設置する場合には到底考えつかないようなデザインに衝撃を受け、当初、「このデザインの設置は無理!!」と否定的な目で見ていました。その後、設計者からデザインコンセプトについて説明いただき、視点を変えて見てみると、このデザインが公共トイレのもつ「汚い」「怖い」という負のイメージの解決策の1つであることを理解しました。本事業の目的にあるダイバーシティを誰よりも先に実感したと思っています。
本プロジェクトで建て替えたこの新しい公共トイレを誰にでもいつでも快適に使用してもらえるよう引き続き管理していきます。
設計施工:大和ハウス工業株式会社 平眞弓さん
「神宮通公園トイレ」

「大和ハウスよくやった!」竣工後の記者発表の際に、安藤忠雄先生からいただいた言葉で、今までの苦労が報われました。
本プロジェクトは施主・クリエイター・行政・近隣住民の方、様々なステークホルダーのご意見を調整しながら進めるものでした。中でもプラン調整は難航しました。神宮通公園トイレのコンセプトは、木々の緑の中にひっそりと佇む「あまやどり」です。コンセプトを活かしつつ、公園内の限られた敷地で建物を計画しなければならず、何度も納得いくまでやり取りをいたしました。行政による竣工検査でも指摘を受け、変更が発生しましたが、建物に対するこだわりについて最後まで妥協を許さないクリエイターの姿勢に感銘を受けました。
本プロジェクトに参画し、超一流のクリエイターの方々と共に創り上げた経験は、今後、自身が建築に携わっていく上でかけがえのない財産になりました。
設備監修:TOTO株式会社 増田大さん
「七号通り公園トイレ」

本プロジェクトで担当しました現場はすべて思い入れのあるものばかりでしたが、七号通り公園トイレは特に印象深い現場でした。
担当クリエイターの佐藤カズーさんから、「あらゆる動作を手だけではなく、声でも行える世界初の公共トイレ」というコンセプトをお聞きしたときは、技術的・時間的なハードルが高すぎるのではないか?という第一印象でした。
しかし、竣工まで毎週打ち合わせを重ねていく中で、佐藤カズーさんチームの熱い思いがひしひしと伝わり、私の中で何とかその思いに応えたいという気持ちが強くなっていきました。クリアすべきハードルは想像以上に高かったものの、関係者皆が一つになり課題を一つずつ解決しながら、試作・実験を繰り返しました。完成したときは想いが一つに結実した実感が湧き、とても感慨深いものがありました。
コロナ禍において、この「声でも動作を行えるトイレ」は近未来のパブリックトイレに向けた新たな提案となったのではないでしょうか。多くの方に是非、七号通り公園トイレを体験していただきたいと思っています 。
維持管理統括:一般財団法人渋谷区観光協会 八子卓也さん
「東三丁目公衆トイレ」

このトイレのプロジェクトに携わるまで、恥ずかしながら公共トイレは汚い、暗いというイメージと共に、無機質なもの、最低限なものというイメージを持っていました。色で言えば“グレー”。そのグレーが汚れていけば、さらにネガティブな印象が生み出されます。
その中で設置された本プロジェクトのトイレのうち、私の中で異彩を放つトイレ。それは、大胆に鮮やかな赤を使った外観で、勝手ながら親しみを込めて“赤いトイレ”と呼んでおります。
トイレの内装やピクトグラムに赤色を用いることは多々ありますが、外観に採用されるとは思いませんでした。調べると、赤色は緊急時に使われるアラートカラーであり、心理的に緊張感をもたらすとのこと。また、本プロジェクトにおける数少ない女性クリエイター・田村奈穂さんが手がけられたという点でも注目しております。
このトイレが街のアクセントに、渋谷~恵比寿の街歩きの経由地になれば幸いです。
清掃:東京サニテイション株式会社 森泰宣さん
「鍋島松濤公園トイレ」

THE TOKYO TOILETの清掃を担当している者として、すべてのトイレに思い入れがありますが、鍋島松濤公園トイレを選んだ理由は、夏休みの自由研究でTHE TOKYO TOILETの調査をする親子との出会いがそこであったからです。
鍋島松濤にて清掃中の私に、お母様から「普段公共トイレは使わないがTHE TOKYO TOILETはどのトイレも清掃が行き届いて安心して利用できます」と言っていただき、記念写真を撮っていただきました。一般社会において我々の「清掃業務」はフォーカスされることは少なく、その何気ない一言が私の一番の励みとなり、それ以来、鍋島松濤が一番思い出深いトイレとなりました。後日、その親子の自由研究が学校で表彰されたとお母様から報告を頂き、THE TOKYO TOILETが社会に及ぼしている大きな影響を感じることもできました。
弊社は創業58年になり、「公共物の長寿命化」という信念をもち清掃作業を行っています。このTHE TOKYO TOILETプロジェクトの中で、利用者の方々に公共物のみならずすべてのもの、資源を大切に使用することを「清掃」を通じて伝えていきたいと思っております。
診断:株式会社アメニティ 山戸伸孝さん
「西原一丁目公園トイレ」

プロジェクトの6番目にできた西原一丁目公園トイレが、私の思い入れのあるトイレです。
普通のトイレは、男子トイレ、女子トイレ、ユニバーサルトイレという3種のトイレになります。しかし、当トイレは、いずれも性別に関係なく使用することができます。また、全て車いすで利用することができ、誰もが使いやすい、多様性を追求した公共トイレであることにとても感心しました。
トイレの壁面は、ガラスに透過性フィルムを貼って作られています。外から見ると、少し青みがかった透明感のある壁に緑色のドアが映え、とても美しく見えます。中に入ると、部屋全体が気持ちよい外光に満ち、とても心地よい空間を作り出しています。
白い床がとても映えるトイレですが、トイレの状況を毎月チェックする診断士として、メンテナンスの面から見ても、清掃での復元性が高く、清掃しやすいトイレです。今後、ずっと長く地域の皆さまに愛されるトイレとして利用されることを望みます。