ROCKET~集え、異才たち!

本当の不登校の理由

文部科学省の調べによると、「年間39日以上欠席した者」と定義する不登校の小・中学生数は年々増加しており、2019年には18万人を超えた。(※1)ところが、2018年に当財団で中学生年齢の12~15歳を対象に実施した「不登校傾向にある子どもの実態調査」の結果では、「不登校傾向にあると思われる中学生」の数が文部科学省発表の3倍に上ることが明らかになった。

不登校の原因はいじめや学習でのつまずきなど様々だと言われるが、持っている能力が突出し過ぎているゆえ、現状の教育環境に馴染めず不登校傾向にある小・中学生がいる。そうした子どもたちに学ぶ場を提供するため、当財団は2014年より5年計画で、東京大学先端科学技術研究センター(以下、先端研)と共同で「異才発掘プロジェクトROCKET(以下、ROCKET)」を始動した。“ROCKET”は“Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents”の頭文字をとったもので、志あるユニークな才能を有する子どもたちが集まる部屋・空間を提供したいという想いから名付けた。現在の学校教育に対抗するものではなく、学びの多様性を切り拓く挑戦である

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ROCKET第4期生のオープニングセレモニー(2017年12月)

出る杭を伸ばすプログラム

ROCKETでは、参加する子どもたちに対し大きく分けて4つのプログラムを提供してきた。1つ目は「Activity Based Learning」(ABL)という、料理や工作など身近な活動を通し複合的な知力を養うプログラム。ユニークな子どもの中には、読み書きが苦手な子どもも多く、それだけで評価対象から外され本人が劣等感を抱くことが多い。そんな子どもたちに、“先生”が教えることだけでない学びを提供するプログラムである。2つ目は、プロジェクトを通して物事の進め方を学ぶ「Project Based Learning」(PBL)で、様々なミッションを通して、社会課題や人生の問題に立ち向かう力を養う取り組みである。このプログラムでは、1人では解決できないミッションを、プロジェクトメンバーと意見を交わしながら取り組む必要がある。子どもたちは、自分が思う正解を求めるだけではミッションが達成できないため、いかに仲間と協力すればゴールにたどり着けるかを学ぶ。3つ目は海外への研修旅行だ。参加を必須とはせず、応募した子だけが参加する。ヨーロッパ諸国やインドなど、世界の様々な国で研修を行った。日本から飛び出し五感をフル稼働させて学べる機会を創出するプログラムである。4つ目は「トップランナー講義」だ。科学技術や芸術、スポーツ界など様々な分野で活躍するトップランナーから話を聞き「突き抜けるとはどういうことなのか」を学ぶためのプログラムで、2019年度までに33名を講師に招いた。

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ドイツのアウシュビッツ強制収容所跡で海外研修を行うスカラー(2016年10月)
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為末大さんによるトップランナー講義(2015年2月)
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仲間と協力し助けあいながらゴールを目指す。ローカル線を乗り継いで鹿児島県の枕崎へ(2016年5月)

「人生の道は一つではない」

ROCKETの応募者数は、2018年度までのスカラー1~5期⽣で合計2,335名、プログラムの形態を少し変えて継続することとなった2019年度は407名だった。その中から、128名の子どもがROCKETに参加した。参加した子どもたちの変化は、学校との関わりという点から大きく2つのパターンに分かれた。
1つ目は、自分を見つめ直し不登校から抜け出したタイプである。2019年度時点で、「ほぼ毎日登校していた(いる)」子どもの割合は、プログラム参加前と後で28%から51%に変化した。
一方で、学校への出席や成績とは無関係に好きなことに突き進んでいくようになった子もいる。高校に在籍せずにロボット研究に打ち込む子や、部分不登校で絵画の道を極め、書籍を出版したり絵画展を開催したりする子も現れた。「学校に通えるようになること」が“正解”“ゴール”ではなく、プログラムを通した学びにより、各々が自らに合った道を選択するようになった。
年間の活動を終えた子どもたちにROCKETという存在について質問したところ、「私らしく呼吸ができる環境を作ってもらえた」や「学校以外の選択肢があるので、人生の道は1つではないと思えた」などの回答を得られ、ROCKETが子どもたちに安心感や勇気をもたらすスペースとなったことがうかがえた。

社会への影響とその後

ROCKETが社会にどのような影響を与えたのかを数値として計ることは難しい。しかし、ユニークな子どもたちの才能を発揮させる環境を提供する先行例となったと言える。2016年5⽉には、ROCKETのプログラムが先進事例として「特定の分野で特に優れた能力を有する発達障害・不登校等の課題を抱える子供たちの能力を伸ばす取り組み」として、教育再⽣実⾏会議の第九次提言に取り上げられた。また、2017年度には東京都渋⾕区が「特別な才能に着目した新たな教育システムの構築」事業を先端研に委託し、地域連携がスタートした。2020年度には連携先が渋⾕区以外に、東京都港区、群⾺県館林市、広島県と計4つの⾃治体にまで広がった。
(吉田 もも/公益事業部)

本事業を行う中で得た気づき

本事業は、担当者としてもとても挑戦的かつ意義深いプロジェクトであったと思う。と同時に、「突出した能力を持つ子ども」だけを特別視するような危ういものになってはいけないとも感じている。いくつかの自治体で連携事業もスタートしているが、異才発掘という名前だけが一人歩きしないよう、子どもたちの精神的な居場所となっていくことを願わずにはいられない。

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吉田 もも