寄付文化醸成のための実践

寄付受け入れのルール(業務規程)を制定

当財団は、NPOなど非営利組織が継続的な活動をするためには財源の確保が重要であり、そのための寄付文化の醸成が日本においても不可欠であると考えている。
こうした考えのもと、当財団は2005年度に寄付金による社会貢献プロジェクトを立ち上げ、寄付金の受け入れと寄付金による事業の実施を開始した。2012年3月16日には国土交通大臣の認可を受け、寄付文化醸成業務規程を制定。寄付受け入れを行う上で守るべきルールとして「寄付者に対し寄付目的・資金使途の事前説明」「寄付者の意向の遵守、会計報告の透明性確保」「実施事業の定期的な進捗報告」などの規定も制定し実践している。

ドネーション事業部の設置(寄付のハードルを下げる実践)

日本における個人の寄付金額は、2010年の4,874億円から2011年の東日本大震災を経て、2020年には1兆2,126億円、日本のGDPの0.23%と増加の傾向にあるものの、寄付先進国といわれる、米国との比較では28分の1以下であり、依然としてその差は大きいのが現状である。
寄付が進まない理由は、寄付しやすい仕組みや機会がないこと、安心して寄付できる団体が見つからないまたは判断できないこと、気軽に相談できる場所が不足していること、などがある。またスポーツ選手など影響力のある著名人の寄付が、寄付先進国と比較し充分に可視化されてないことも原因と考えられる。
このように日本では欧米と比べ寄付に対するハードルが依然として高いのが現状である。当財団は、2014年度よりドネーション事業部を設置し、寄付のハードルを下げ、日本における寄付のスタンダードを作るための実践を行ってきた。

寄付をより身近に感じてもらうために

(1)日本財団チャリティー自販機

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日本財団チャリティー自販機

2008年から全国各地に設置された「日本財団チャリティー自販機」。飲料1本あたり10円が当財団に寄付される仕組みで、2022年3月末現在8,179台設置されている。
2014年から2016年には、寄付の使い道について分野・ミッション毎に寄付者が投票する寄付者参加型企画「ゆめちょ総選挙」を実施。投票により「災害現場にもっと市民の力を!」「施設・里親出身者にセカンドチャンスを!」「食物アレルギーやアトピーの子ども達に夢のキャンプを!」などのミッションが選出され、実現に向けて事業を開始した。チャリティー自販機の設置者や寄付者が自身の想いを伝えることにより、社会貢献への参加意識の向上につながった。2017年からは、寄付者の意向に合わせて、国内の子どもに対する支援や災害復興支援などの5事業への寄付にも活用され、2021年には累計で1万台の設置を達成した。

(2)歯の妖精 TOOTH FAIRYプロジェクト

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ミャンマーで学校訪問をする歯科医師ボランティア(上)とその学校(下)

2009年からは公益社団法人日本歯科医師会と連携し、TOOTH FAIRYプロジェクトを実施。これは歯科治療の現場で撤去された金歯から金属を回収し、患者の了解を得て換金する取り組みであり、これまでに全国で約6,800もの医院が参加した。このリサイクルによって換金した金額は累計20億円(2021年3月末時点)にも上り、国内の難病を抱える児童を対象にした「施設建設」や「キャンプ事業」「イベント」の開催などに役立てた。また、ミャンマーでの学校建設事業では、50校あまりの新たな学校建設の支援にも役立ち、ミャンマーの子どもたちの教育環境の向上につながっている。
TOOTH FAIRYプロジェクトの特徴は、歯科医院による資金面での支援だけではなく、技術支援も実施している点が挙げられる。難病や障害を抱える子どもたちは、むし歯や歯周病などの歯科的疾患や外傷、摂食機能障害などを抱えるケースが多く、口腔ケアに特別な配慮が必要である。

また、ミャンマーの学校建設では建設地が無歯科医村であることが多く、口腔ケアが十分に行き届かないといった課題がある。歯科医師がボランティアで難病児の集まるイベントや学校へ訪問し、口腔チェックや歯磨き指導を行うことで、現地の子どもや親たちの意識向上にもつながっている。資金と技術の両方を実施しながら、歯科医師だからできるユニークな社会貢献の形を実践している。

(3)寄付手段の多様化と寄付報告の徹底

2016年から開始した「日本財団子どもサポートプロジェクト」では、経済的な事情等で困難に直面している子ども、難病や重い障害を抱える子ども、児童養護施設等の社会的養護のもとで育った子どもへの支援として、テレビCM等で広く寄付を呼びかけた。
寄付の方法も、従来のような直接現金を寄付するやり方や銀行振込だけではない。クレジットカードやスマートフォン等のキャリアでも寄付をできるようにした。今後さらに進歩するIT技術を活用し、より気軽に寄付ができる仕組み作りを進めていく。
また、寄付文化の醸成には、寄付者の行動・意識を変えるだけではなく、寄付を受ける側の姿勢も重要である。当財団のように寄付を受ける側は、寄付者へのお礼はもちろん、全ての事業について寄付者へ報告をし、透明性と説明責任を果たす必要がある。
寄付者へのお礼は当財団会長の笹川陽平直筆のお礼状を送付、寄付金の活用状況報告は毎月のメールマガジンや報告書、公式ウェブサイトの記事等を通じて行っている。また当財団は間接経費を取ることなく寄付を大切に届けている点も報告し、寄付して良かったと実感してもらえるように努めている。こうした丁寧な対応を積み重ねることが、寄付文化の発展につながると考えている。
なお、当財団は2017年に内閣府賞勲局より、褒章制度の一つで公益のために私財を寄付するなど顕著な功績があった方々へ贈られる「紺綬褒章」の公益団体認定を受け、受章者の伝達式は当財団で実施している。

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紺綬褒章伝達式の様子(2021年7月)

(橋本 朋幸・酒井 美峰・川部 育子/ドネーション事業部)