《インタビュー》会長 笹川陽平(1/3)“未来志向のユニークな組織にしたい”
「日本財団ここにあり」の評価広がる

60年史の刊行にあたり本インタビューが行われた2022年1月当時、パンデミック(世界的な大流行)となった新型コロナウイルス禍が3年目を迎えてなお収束が見えず、国内も国際社会も混迷を深めていた。インタビュー後にはロシアがウクライナに侵攻する事態も起きている。こうした中で笹川会長は当財団の将来について「チャレンジングな精神で未来を志向するユニークな組織体を目指したい」、さらに年史に関しても「過去より将来を語る内容にしたい」と意欲を語った。これを受け、インタビューは過去より「将来の日本財団」に重点を置く異色の構成で行った。(聞き手:特別顧問・宮崎正)

写真:笹川陽平会長

―60年史の編集にあたり、まずは当財団の哲学を含め、現在・今後に対する考えを、お聞かせください。

会長:年史を作るのは大変有意義であり、過去を振り返るのも重要なことだと思います。しかし組織は常に未来志向でなければなりません。組織の責任者として単に過去を振り返るのではなく、過去を踏まえ未来志向の話をしたいと思います。
私は当財団を世界で他に存在しないユニークな組織体にしたいと考えています。ノンプロフィットの組織はアメリカで大企業や富豪が財団を作って世のため人のために活動をする形でスタートしました。様々な社会活動をしている団体から申請を受け付けて資金を提供する助成事業が中心です。
しかし60年前の日本は、社会のために活動する組織は未整備で、まずは日本の将来に必要な組織作りから始めました。ブルーシー・アンド・グリーンランド財団や高齢化社会に向け高齢者がスポーツを通じて元気な老後を過ごす日本ゲートボール連合のような組織がそれです。次いで社会活動をしている方々への支援を第一に、足らないところは自ら組織を立ち上げてきました。今では日本科学協会や日本音楽財団、笹川保健財団、笹川平和財団、東京財団政策研究所など多くの組織があります。企業形態でいえばホールディングスに似たユニークな形で、日本財団がリード役を務め自らも活動しています。

自分たちが行った仕事はもちろん助成先に対しても監査を行う総合監視部門を財団の中に設けています。こうした機能を備える組織は世界でも日本財団だけでしょう。多くの財団の構成員は社会で様々な経験を積んだ人、平均年齢50歳位が普通ですが、当財団の平均年齢は現在39歳くらいでしょう。女性の社会参加の必要性が指摘される中、58%は女性職員。先進的な組織だと思っています。関係団体にはすでに女性の役員がいますが、当財団でも女性幹部を増やしていくのが私の使命だと思っています。

時代を先取りし変化する組織が生き残る

私はよくダーウィンの進化論の話をします。強いものが生き残るわけではない、賢い人が残るわけでもない、常に時代を先取りして変化していく人や組織が残っていく。進化論をそのように理解しています。昨日より今日、今日より明日、働く人も組織も常に変化していかなければなりません。これは大変、厳しいことです。慣れたことをやるのが一番楽ですが、それでは組織は衰退します。常にチャレンジングな精神を持って未来志向で仕事をしていく必要があります。
当財団は複雑な社会の中で生まれてくる問題をいち早くとらえ、それに対応をするモデルを作り、国につなげていく形を目指しています。行政とのプラットフォームの役割を目指すということです。聴覚障害者のための電話リレーサービスに7年間取り組んだ結果、受け皿となる法律が作られ、日本財団電話リレーサービスが一括して引き受けることになりました。ミャンマーの関係でも避難民に対する人道支援活動費として国からすでに130億円をいただいています。過去60年間の活動実績を踏まえ今後も未来志向で仕事をし、あらゆる社会問題解決のプラットフォーム、同時に公的資金も受け入れていくプラットフォームになりたいと思います。

共助の精神取り戻し新しい国づくり

戦後75年以上を経て我が国は核家族化の進行や地域社会の崩壊で「自助」が後退し、財政の悪化に伴い「公助」にも陰りが見えます。少子高齢化の進行に伴い今後の日本には難しい課題が増えます。それに備えるためにも私たちは、かつて日本人が持っていた素晴らしい共助の精神を取り戻し、助け合いのもとで新しい国作りを進める必要があります。何よりも次代を担う子供達、若い人達への政策をきちっとやっていくことが国家100年の計を立てる上で基本になると思っています。
「政治屋は次の選挙のことを考え、政治家は次の世代のことを考える」という言葉があります。当財団は次の世代の人達により良い日本国を伝承するには何をすべきかを考えながら、次世代の人達に勇気と自信と情熱を持ってもらえるような取り組みを打ち出していきたいと考えています。

―それでは以下は各論をうかがいます。まず、「備えあれば憂いなし」という言葉をしばしば使われますが、課題先進国と言われる日本には、多くの課題が山積し何から手を付けるべきか難しいという指摘もあります。この点との関係は如何でしょう。

会長:日本財団は様々な課題解決のモデルを作り、社会の考え方を変えていく組織だと思っています。社会、国民から信頼される組織にならなければ何を言っても口舌の徒になります。有り難いことに日本財団は、実際に行動し成果を作り上げることができる説得力を持った組織体です。一人ひとりが、そういう自覚をもって働くことが日本を変えていくことにつながると信じています。亡父・笹川良一は防火協会のコマーシャルで「大火事もただ一本のマッチから」と言いました。地道に提言し活動していけば社会を変える大きな存在感を持った組織になると考えています。

―「民」の活動で当財団の存在は確かに大きいと思います。健全な海を守る活動では世界の民間活動の中心的立場にいます。ただし現実に社会に影響を与えていくには同じような団体や別の新しい力がもっと必要と思いますが。

会長:最近、新聞投稿でも触れましたが、近年、日本には社会のために尽くしたいという情熱を持った新しいタイプの若いオーナー経営者が次々と誕生しています。大企業とか一流企業という概念は薄れつつあり、経団連の存在感も希薄になっています。「財界総理」などという言葉も死語になりつつあるのではないでしょうか。「お金を社会のために使いたい」「人が喜ぶ顔を見たい」「困っている人達を助けたい」という若い人達が社会を変えていく時代が到来しつつあるように思います。