《インタビュー》会長 笹川陽平(3/3)“未来志向のユニークな組織にしたい”
「日本財団ここにあり」の評価広がる

方向性が正しければ国も動く

―先ほどお話があった北極海航路の開発を初めて知った時、素晴らしい取り組みだと驚いたのですが、その後の国の動きは不十分だった印象を受けます。すでに中国も韓国も砕氷船を持っていますが、日本には北極開発に使える砕氷船はありません。北極海航路の開発における日本のステータスも低いように思います。国と取り組みをどう思われますか。

会長:日本にも砕氷船はあります。しかし南極海で使っているので、空いている時に北極海で使うよう求めても法律で南極のために造ったものだから北極に使えない、というような議論になった。それならば北極海航路に伴う環境問題、未知の分野の環境破壊は大変な問題ですから、それを日本がリードするための調査船を造る必要がある、といったような議論を経て、ようやく予算がつき動き始めています。今後どう進むか、はっきりしない面もありますが、方向性が正しければ、時間差があっても国は動くということです。先程の電話リレーサービスも同じです。7年の時間差がありましたが、動き出しました。世の中には見ている人が必ずいます。あれは民間がやっていることだから国は知らん、というようなことはないと思います。
政治家も国民が思っている以上に勉強しています。今朝も国会議員の勉強会で、障害者による国会図書館のデジタルデータ化について話す機会がありました。関係者には「障害者にそのような仕事は難しい」といった思い込みがあったようですが、当財団の支援で障害者が現実にデジタルデータ化の作業をしている現実を説明すると、「障害者に対する見方が変わった」と驚いていました。子ども対策などに関する自民党の勉強会なども、ぎっしり満員でした。手話言語法の集まりなどには超党派で野党の人も来ておられます。政策に反映されるような取り組みを増やしていけば、政治にも反映され、民の活動が社会を変えていく力になると考えています。

プロとして一層の逞しさを

―日本だけでなく多くの国、特に東アジアでは急速な少子化が大きな問題になりつつあります。世界人口が70億人を超え地球温暖化や資源枯渇が問題となる中、人口増が世界的に鈍化する気配もありますが、あまりに急激な少子化は社会を支える若者やこれから生まれてくる子どもの負担が過大になり、社会の基本システムが不安定化すると懸念する声も多く出ていますが。

会長:一昔前まで世界の人口が100億人を超えると食料危機が起こると言われていました。最近は100億人に届かないまま減少に転ずるという見方も強いようです。「みえざる神の手」のようなものが機能しているのではないかという気もします。日本の人口は江戸時代の末期から明治初期は3,600万人ほどでした。どのような数字が適正なのか分かりませんが、歴史学者アーノルド・トインビーは国家には成長期、拡張期、衰退期というものが存在すると言っています。日本は76年前の第二次世界大戦までは拡張期で今は衰退期に入っているのかもしれません。

当財団が21年春に米国や中国、スウェーデンなど8カ国の18歳から69歳の女性各500人に理想の子ども数をインターネットで聞いたところ、最も低い中国が1.8人、日本は2.3人と最も高い数字でした。子どもを安心して産み・育てる環境が整えば今よりは出生率が高まり、人口減少がなだらかに推移する可能性も考えられるわけで、未来社会への投資の意味でも官民挙げて少子化対策を強化すべきだと考えています。

写真:笹川陽平会長

―そうした中で若い人の生き方・考え方にも変化が出てきていますか。

会長:私達の時代には一生懸命勉強して一流企業に入るという一つの方向性がありましたが、半面、画一的な生き方しかできなかった。今の若者は全然違って、自分達の好きな趣味の世界、こういう世界で生きてみたい、という思いが実現できています。コロナ禍の中でも多くの若者が多趣味で個性的に生きています。生きるっていうことがどういうことか、ちゃんと身に付いているということでしょう。そういう現実を前に私達の世代が人口統計を基に悲観論ばかり議論しても仕方がない気もします。
もっとも火事は火の用心をして初めて減るのであって、何もしなければ減りません。平和な国だからと言ってカギを掛けずに外出すれば空き巣が入ります。仮に人口が減っても社会全体で最低限の備えをして国を守ることは世代を超えて必要だと考えます。

―当財団の事業、例えば再犯防止でいえば職親制度、子どもに関するものでは子ども第三の居場所の整備や子ども基本法の制定に向けた政策提言といった取り組みが、国や自治体の政策に影響を与え、反映されるケースが増えてきているように思います。それだけ当財団の組織が変わり、力を付けてきたと見ていいですか。

会長:いろいろ変える努力をしてきた積み重ねが今の姿と思います。人も組織も常に未来志向で活動して変化していくことが大切です。口舌の徒では説得力を持ちません。「隗より始めよ」と言いますが、自分で考え、実践しなければ駄目です。行動を通じて訴えていくということです。給料をもらって働く以上、たとえ新人であろうとプロです。社会のために働きたいと考え日本財団の職員になった以上、社会にどんな問題があり、自分は何をすべきか、絶えず自問自答しながら、さらに逞しさを身に付けてほしいと思っています。