国連専門家会議「ICTと障害—アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ—」と国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会:日本の経験と国際貢献から」を開催

2012年4月19日(木)~21日(土)9:00~18:30(~12:30)
日本財団ビル 2階 大会議室および会議室

去る、4月19日から21日までの3日間にわたり、国連専門家会議「ICTと障害—アクセスと共生社会、すべての人のための開発へ—」が東京で開催されました。

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国連専門家会議

この専門家会議は、国連事務局経済社会局(DESA)と国連広報センター(UNIC)と日本財団の共催で行われ、世界各国から、障害やICT、また緊急災害時の支援に関する専門家など30名あまりが参加しました。日本からも専門家ならびにオブザーバーとして障害当事者を含め数名が参加し、昨年の東日本大震災での経験を発表するなど、活発な意見交換を行いました。

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国際フォーラムのようす

なお、この専門家会議の内容は、2013年に開催される国連ハイレベル会合「障害と開発」で報告される予定です。3日間にわたる会議のスケジュールは以下の通りです。

日時
2012年4月19日(木)~21日(土) 9:00~18:30(~12:30)
場所
日本財団ビル 2階 大会議室および会議室

プログラム

4月19日(木)

  • 全体会 9:00~13:00
    • 歓迎のあいさつ 日本財団 会長 笹川陽平
    • 歓迎のあいさつ 国連広報センター(UNIC) 山下真理
    • 開会のあいさつ 国連事務局経済社会局(UN DESA) 伊東亜紀子
  • 全体会議 司会:Mr. Clinton Rapley
    障害とアクセシビリティに関する傾向と課題、国際的な基準についての共有
  • 分科会 Part I 14:10~18:00
    • グループ1:社会と開発へのアクセスと政策
    • グループ2:情報コミュニケーション技術の規格とその応用
    • グループ3:災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス
    • レセプション 18:30~19:30

4月20日(金)

  • 特別セッション 9:30~13:00
    テーマ「障害とアクセスを組み込んだ自然災害・緊急事態への対応と政策」
    • 発表者:
      • 迫田朋子氏(NHK エグゼクティブ・ディレクター)
      • 藤井克徳氏(日本障害フォーラム 幹事会議長)
      • 松﨑丈氏(宮城教育大学 准教授)
      • Marcie Roth氏(米国連邦緊急事態管理庁 障害者担当)
    • スカイプによる発表者
      • Gerald Oriol Jr.氏(ハイチ 障害大臣)
      • Cucu Saidah氏(インドネシア ハンディキャップ・インターナショナル)
      • Helena Molin Valdes氏(国連国際防災戦略事務局(UNISDR))
      • Anatoly Popko氏(ロシア 視覚障害者協会)
      • Claudio Giugliemma氏(スイス ルーシーテック財団)
    • 司会:河村宏氏(DAISYコンソーシアム理事)
  • 分科会 Part II 14:30~18:30
    • グループ1:社会と開発へのアクセスと政策
    • グループ2:情報コミュニケーション技術の規格とその応用
    • グループ3:災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス

4月21日(土)

  • 全体会議 9:30~12:30
    • 各グループの議論の焦点等ならびに提言案の発表、提言案についての意見交換
    • 本会議における提言の採択
    • 閉会
写真:専門家会議の中で行われた特別セッションの様子

今回の専門家会議では、2日目の午前中に特別セッションが組まれ、昨年の3月11日に発生した東日本大震災における障害者の被災状況などが報告されました。
NHKの迫田氏からは、実際に放送された映像を使い、視覚・聴覚・肢体不自由・重度の病気の方々たちの震災当時の避難の様子、また取材を通して見えた障害者の被災状況などが報告をいただきました。また、日本障害フォーラムの藤井氏は、被災地における障害者の死亡率の高さについて言及し、自然災害などの緊急時の避難に関して、障害者に配慮した制度等の必要性を指摘しました。続いて、宮城教育大学の松﨑準教授は、被災地における聴覚障害者の情報アクセスの困難さについて、また、テレビやラジオなどに代わる情報取得方法としてスマートフォンやSNSなどのICT技術の活用事例などの報告を行いました。アメリカのRoth氏からは、ハリケーン被害にあった地域における、災害に備えるための地域間ネットワークの構築に関する取り組みについての報告がなされました。
これらの発表は、被災地からの生の声として参加者たちの大きな関心を引きました。また同セッション後半部分では、Skypeを用いた遠隔テレビ会議を実施し、近年大規模災害を経験したハイチや被災地支援を行った団体等からの専門家の発表や質疑応答などが行われました。

一方、専門家会議の分科会では、各グループのテーマに沿って今回の専門家会議としての提言をまとめるべく、議論が行われ、予定時間を大幅に越えて意見の取りまとめや文言の修正などをするグループも見られました。
本専門家会議には、日本から2名の聴覚障害者が参加しました。彼らに対する情報保障として、それぞれ英語/アメリカ手話通訳、英語/日本手話通訳、および、アメリカの遠隔文字通訳会社に依頼し、同時英語字幕通訳を導入し、会議への円滑な参加をサポートしました。
なお、本専門家会議の背景、参加者リスト、プレスリリースなどについては、国連事務局経済社会局(UNDESA)のホームページをご参照ください。
本専門家会議の結果である提言は、今後UNDESAのホームページや、国連広報センター(UNIC)のホームページにて公開される予定です。

国際フォーラム「障害者の情報コミュニケーションアクセスと共生社会:日本の経験と国際貢献から」

前述の国連専門家会議の開催にあわせて、会議終了後、日本財団、国連事務局経済社会局(UNDESA)、日本障害フォーラム(JDF)の3者は共催で、直前まで行われた国連専門家会議の報告を兼ねた国際フォーラムを開催しました。
本フォーラムは、第一部では、国連専門家会議の報告を、第二部では、日本の経験と国際貢献と題して、障害者を取り巻くICTの状況や国内政策に関すること、ならびにICTと障害について現在行われている国際的な動きや活動などを4名の方から発表いただきました。本フォーラムのプログラムは以下の通りでした。

日時
2012年4月21日(土) 14:00~18:05
場所
日本財団ビル 2階 大会議室
参加者数
約70名

<プログラム> 司会:山崎恒成氏(TBSテレビ 政策推進部長)

  • 開会挨拶 14:00~14:20
    • 伊東亜紀子氏 (国連事務局経済社会局社会問題担当官)
    • 小川榮一氏 (日本障害フォーラム代表) 代理 森祐司氏
  • 第1部 国連専門家会議「ICTと障害」報告会 14:20~15:30
    1. 分科会1:社会と開発へのアクセスと政策 Mr. Clinton Rapley
    2. 分科会2:情報コミュニケーション技術の規格とその応用 Ms. Jutta Trevinarus
    3. 分科会3:災害と危機管理における情報コミュニケーションアクセス Ms.Marcie Roth
    4. 総括 Mr. Clinton Rapley
  • 質疑応答・休憩 15:10~15:45
  • 第2部 日本の経験と国際貢献 15:45~17:10
    1. 日本の障害者の経験から:権利条約、障害者基本法、情報アクセス
      • 新谷友良氏 (全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事)
      • 金政玉氏 (障がい者制度改革推進会議担当室政策企画調査官)
    2. 日本と国際貢献:障害者支援とインクルーシブな開発
      • 河村 宏氏 (DAISYコンソーシアム理事)
      • 石井靖乃(日本財団国際協力グループ長)
  • 質疑応答、まとめ 17:10~18:05
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国連専門家会議に参加した専門家のみなさん

フォーラムに先立ち、UNDESAの伊東氏より、専門家会議の位置づけ、実施する目的・背景などについての説明がありました。伊東氏は、日本の先端技術立国としてのこれまでの実績、また昨年の東日本大震災の被災経験を通して明らかになった課題を提言に盛り込むという意味で、この時期に日本でこの専門家会議を行う意義を強調しました。

第一部の専門家会議の報告では、3つの分科会からそれぞれ報告がなされ、グループから挙げられた提言についての説明が行われました。提言では、情報アクセシビリティーを現在よりもより重要なテーマとして扱うこと、世界各国においてインクルーシブなICT利用についての政策を実施している国が少ないため、当事者参画のもと政策立案実施を図ること、すでに普及しているWebサイトなどのアクセシビリティーを向上させるために、統一規格や国際規格など障害者がアクセスしやすいものを元から組み込むような仕組みの開発を進めることなどが挙げられました。また、災害や緊急事態発生時に関する提言としては、電源を喪失しても使える機器の開発や日ごろからのコミュニティーレベルでの訓練などにおける情報アクセシビリティーへの配慮、災害等の発生前から対策を練り、備えることの大切さなどが強調されました。

第二部の日本の経験と国際貢献では、まず、新谷氏から、聴覚障害当事者としての立場から発表がありました。新谷氏は、聴覚障害者として緊急情報を含め、テレビ番組への字幕付与の運動の経験から、情報コミュニケーションへのアクセスは、すでに社会生活や経済活動の制限にとどまらず、人権を守るためにも必要なものであるとの見方を示し、近年の国際条約や国内法改正の動きなどから、障害者のみならず、社会の成員すべてが情報コミュニケーションにアクセスが可能となる社会が必須であり、それが本当の「共生社会」であると述べました。

次に、金氏から、日本における障害者権利条約の批准に向けた障がい者制度改革の動きと情報アクセスについての発表がなされました。現在同条約の批准に向けた国内法の整備が進められている中で、昨年改正された障害者基本法とそれに盛り込まれた情報コミュニケーションに関する内容について注目すべき点についての解説がありました。

続いて、河村氏からは、DAISY規格の紹介および活用方法についての発表がなされました。DAISYは、障害者権利条約にも書かれているアクセシブルなマルチメディアの一例である無償の公開国際標準規格の情報システムで、世界各国で視覚障害者のためのデジタル録音図書として普及しています。このDAISYの活用方法として、精神障害や知的障害のために文字などが読みにくい、学習などが困難な方に対してDAISYを用いた緊急時避難マニュアルを導入した事例が紹介されました。

最後に、当財団の石井靖乃が、国際援助活動を通した障害者援助について、これまで携わってきた事例を踏まえながらの発表を行いました。援助を円滑に進めるためには、援助の受け手側に事業などを取りまとめられる障害当事者が必要であり、このような人材をどのようにして増やすかという課題があることを指摘しました。同様に、国連の専門家会議のような場にも、障害当事者の参加が不可欠であり、人材育成についても今後の課題であると主張しました。

本フォーラムには、同日午前中に終了した国連専門家会議から、報告者以外にも10名弱の専門家が引き続き参加し、報告や質疑応答に熱心に耳を傾けていました。