善意の鎖を繋ぐ「触媒」として、被災者の心に寄り添う~シャンティ国際ボランティア会の取り組み

能登半島地震による被災地の多くは高齢化率の高い地域ということもあり、復興にはボランティアのサポートが欠かせません。国内外で緊急人道支援を行う「シャンティ国際ボランティア会」では、被害の大きかった輪島市門前町(もんぜんまち)を拠点にボランティア活動を展開し、炊き出しから足湯の提供、「入浴・買物支援タクシー」の運行まで幅広い支援活動を発災初期から行っています。2024年5月、自らの役割を外部と被災地をつなぐ「触媒」と語るシャンティの皆さんに、取り組みの概要や今後の展望についてお話を伺いました。

被災者の笑顔を取り戻した、10日ぶりの温かい食事

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門前町のシンボルでもある總持寺祖院も大きな被害を受けた

能登半島北部に位置する、石川県輪島市門前町。その名の通り、曹洞宗の大本山「總持寺祖院(そうじじそいん)」の門前町として栄えたこの町も、令和6年能登半島地震で甚大な被害を受けました。震度7の強い揺れで多くの家屋が倒壊、初もうで客でにぎわっていた總持寺祖院でも国の登録有形文化財となっている16の歴史的建造物すべてに被害が確認されています。

總持寺祖院とも関係の深い「シャンティ国際ボランティア会」では、地震発生後すぐに職員の派遣を決定。緊急人道支援担当の中井康博さんは1月6日に石川県に入って準備を進め、天候の回復と道路の復旧を待って1月9日に門前町へ。避難所となっていた公民館で中井さんが見たのは、想像以上に困難な状況でした。

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シャンティ国際ボランティア会の中井康博さんと石塚咲さん

中井さんは「その避難所には約170名の方が避難していたのですが、避難所内でコロナやインフルエンザが流行しており、多くの方が隔離スペースでの生活を余儀なくされている状況。避難所運営スタッフもほぼ全員が感染していました」と当時を振り返ります。「1月13日には公民館の調理室を使って初めての炊き出しをしたのですが、調理室は地震後一度も使われていなかったらしく、ガラス片が散乱したままの状態でした。片付けにまで手が回らず、被災者の皆さんは食事を作る余裕がなかったんですね。避難所ではコンビニのおにぎりやお弁当など冷たい食事が多くなりがちですから、私たちが炊き出しで作った料理をご提供すると、『久しぶりに温かいごはんが食べられた』と言って、すごく喜んでくれました」。

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炊き出しで温かいごはんを提供

ボランティアをマッチング。外部の皆さんの善意を着実に被災者のもとへ

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県外からの学生ボランティアの受け入れ調整も担いました

炊き出しなど被災者へのサポートを行う一方で、中井さんらは外部ボランティアの調整にも尽力しました。というのも、地震発生直後は役所内も混乱しており、ボランティアの受け入れ態勢がうまく整っていなかったからです。例えば、炊き出しを手伝いに来てくれたすべての団体を1つの避難所で受け入れてしまい、せっかくの炊き出しが数百人分余ってしまったこともありました。そこで中井さんらシャンティのスタッフが炊き出しボランティアと市内の避難所とのマッチングを行い、無駄なく炊き出しが行われるように調整しました。このほか、県外からの学生ボランティアの調整なども手掛け、マンパワーを必要とする場所に人員が適切に配置できるように工夫しています。

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シャンティの役割は「触媒」と語る中井さん

「私たちシャンティの役割は、外部の方々の善意を被災者の皆さんとつなぐ「触媒」のようなもの。せっかくの善意が無駄なく確実に被災者の皆さんに届くように努力しています」と中井さん。3月から中井さんとともに門前町で活動するシャンティ国内事業課課長補佐の石塚咲さんは「自分たちだけでできることには限界がありますが、他のボランティア団体や寄付者の方と力を合わせれば、予想以上にたくさんのことができます。『被災地のために何かしたい』という共通の目的を持つ人たちと上手くつながって、いろいろなことに挑戦していきたいですね」と話します。

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「他団体や寄付者との連携が大きな効果を生む」と石塚さん

入浴・買物支援タクシーを運行、41日ぶりの入浴に感動する人も

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被災者の生活を支えた入浴・買物支援タクシー

シャンティでは、被災者の声を行政やボランティアに届ける役割にも力を入れています。それが功を奏したのが「入浴支援」の取り組みです。
震災後、門前町では水道が長く使えなかったため、被災者の多くがいわゆる「自衛隊風呂」を利用していました。シャンティでは自衛隊風呂から遠いエリアに住む被災者のために、日本財団の支援により車両を借り上げ、「入浴・買物支援タクシー」を運行していましたが、中には道路の交通規制のために16時になると交通が寸断されてしまう集落もありました。自衛隊風呂の利用は14時以降だったため、中には「家に帰れなくなるから・・・・・・」と入浴を断念してしまう被災者もいたそうです。そこで中井さんらは該当する被災者については13時からの入浴を認めてくれるよう自衛隊に交渉して承諾を得、時間を気にしていた被災者も安心して入浴できるようになりました。中には「41日ぶりに入浴できました」と涙ながらに喜んでくれた人もいたそうです。

また、入浴に介護が必要な被災者のために、地域の介護職の方々と連携して自衛隊風呂での入浴介護サービスの提供もスタート。「ある高齢女性が入浴介護サービスを利用されたときに、一緒に来ていた娘さんが『いつもは母を介護しながら入浴しているが、今日は母の介護をボランティアの方にやってもらったので、久しぶりにゆっくり入浴できた』とおっしゃってくださって、私たちもすごく嬉しい気持ちになりました」と中井さん。「高齢化が進む地域では、誰が高齢被災者の介護やサポートを担うのかを考えて、平常時から準備しておく必要があると思います」と指摘します。

足湯+おしゃべりで、被災者の前向きな気持ちを応援

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足湯とハンドマッサージでひとときのリラックスを

実際、今回の震災でも、「寒くて自衛隊風呂まで行く気力がない」、「避難生活で着替えが少ないので、なるべく風呂に入らないようにしている」、「知らない人ばかりの避難所でストレスを感じている」など、介護までは必要なくとも、何らかのサポートが必要な高齢者が目立ちました。
そういった人たちのためにシャンティが行ったのが、「足湯サロン」の取り組みです。避難所や仮設住宅、特養老人ホーム等で暮らす被災者を訪ね、湯を入れたバケツに足を入れて温まってもらいながら、手にハンドクリームを塗ってマッサージ。足湯の後には、ボランティアたちと一緒にお茶を飲みながらおしゃべりをする時間を設けています。

「シャンティのボランティアスタッフは、仏教の僧侶や大学生が多いのが特徴。門前町の皆さんは總持寺祖院の身近に暮らしていらっしゃるためか僧侶に親近感をお持ちの方が多く、『ボランティアさんだからこそ話せる悩みがある』とおっしゃってくれるんですよ」と中井さん。利用者からは「温かいお湯が気持ちよかった」、「避難生活が大変で手のケアなどできなかったので、ハンドクリームを塗ってもらえてうれしい」、「話を聞いてもらえてすっきりした」という声が聞かれるそうです。毎週金曜日にはシャンティが活動の拠点としている門前町の「禅の里交流館」前でもサロンを開催、好評を得ています。石塚さんによると「世間話のついでに、被災した住宅の片づけニーズをヒアリングしたり、公的支援を受けるための方法をレクチャーする場にもなっています」とのこと。「建物や道路が復旧しても、人の心が前向きにならないと本当の意味での復興は始まらないと思います。足湯やサロンで人と話したり交流したりすることによって、被災者の方に少しでも前向きな気持ちになってもらえたら嬉しいですね」。

進まない復興。一番の理由は「プロの不在」

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震災から半年。町内にはまだ倒壊したままの建物が目立つ

そんな中、中井さんたちには気がかりなことがあります。それは、今までの経験から比較して復興が目に映る形で見えにくいこと。仮設住宅への入居が進み、避難所で暮らす人が当初の100分の1程度(6/24現在、約20人)に減るなど、少しずつ前向きな動きもみられる一方、町内では倒壊したまま、手つかずで放置されている住宅が目立ちます。

「他のNGOや学生ボランティアの皆さんと一緒に、倒壊した家屋の片づけにも取り組んでいますが、あまりに倒壊家屋の数が多く、復興には程遠い状況です。先日も再びボランティアに来てくれた学生さんが『以前と町の風景があまり変わっていない』と驚いていたほど。テレビなどで復興に関する良いニュースばかりが目につき、未だ納屋で生活している等厳しい状況にいる方に目を向けられないことに危機感を覚えますね」と中井さん。

中井さんが復興の遅れの原因の一つとして指摘するのは、プロフェッショナル人材の不足です。
「倒壊した家屋の解体や撤去には高度な技術や専門の道具・機材が必要で、ボランティアによる作業では限界があります。プロの方が被災地に入って主導してくれれば、倒壊家屋の片づけや住居の建て替えはもっと速やかに進むのでは」と指摘する中井さん。「ただし、被災者が自費で依頼することは経済的にも困難ですし、そもそもこの地域では現状プロ業者の母数が圧倒的に足りていません。今回のような自然災害に備えて、復興にあたるプロの業者を育成・連携しておくなど、何らかの準備をしておくべきではないでしょうか」と訴えます。

今いる場所で被災地のためにできることを

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全国から集まった衣類やタオルなどの支援物資。無償で提供されている

シャンティの門前町での支援活動は、年内は継続していく予定。これからは、コミュニティや文化、本を通じて関わっていく予定です。「予想以上に復興のペースが遅いと言われる中、果たしてどのタイミングでどのように活動を終えるのがベストなのか、正直とても悩ましいですね」と石塚さん。「元気な人が多いとはいえ高齢世帯が多いので、地元の方だけでの復興は難しいはず。活動終了後も、何らかの形で門前のためにできることを続けていきたいです。特にテレビなどでは復興が順調に進んでいるかのような報道がなされることが多いので、輪島の今を知る者の一人として、正しい情報発信をしていきたいと思います」。

震災発生直後から半年以上、門前町での支援活動を続けてきた中井さんは「被災者の皆さんの日々の生活が少しずつ前に進んでいく様子を見ることができ、それが、ここで活動をする上での大きなモチベーションになりました。今後もシャンティの一員としてはもちろん、個人的にも門前町とつながりを持ち続けていきたいと思える魅力的な町です。今後も復興のためにできることを続けていきたいですね。そして様々な形で被災地のためにできることがたくさんあるんだということを、一人でも多くの方に伝え続けたいと考えています」。