サケの聖地・北海道標津町でサケパクッ!フェス開催!~日本財団「海と日本PROJECT」とは?
2025年に活動開始から10年を迎える「海と日本PROJECT」。豊かな海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げるため、日本財団の旗振りのもと、オールジャパンで推進するプロジェクトです。具体的にはどのような活動が行われ、どのような成果に繋がっているのでしょうか?日本財団で同プロジェクトをリードする海洋事業部長の中嶋竜生に聞きました。実際の活動事例として2024年10月に北海道標津町で開催された「標津サケパクッ!フェス」の様子もリポートします。
日本人の「海離れ」をSTOP!大切な海の問題を「自分ごと」として考えよう
―そもそも、「海と日本PROJECT」はどのような経緯で始まったのでしょうか?
中嶋竜生(以下、中嶋):日本は四方を海に囲まれた島国で、海から様々な恩恵を受けて暮らしてきました。今も日本の輸出入の99%以上は海運によるもので、私たちの便利で快適な生活は海によって支えられていると言っても過言ではありません。しかし、日本人の海への愛着度や興味関心は年々低下しつつあります。現に、日本財団が行った「『海と日本人』に関する意識調査2024」では、「海が好きだ」と回答した人は全体の44%(2019年は57%)、「海に行きたい」と回答した人は全体の59%(同73%)。こういった感情・行動両面での「海離れ」に歯止めをかけ、まずは海の恵みや楽しさ知ってもらうこと、そして海洋汚染、海水温の上昇など海が抱える問題を「自分ごと」として捉えてもらい、未来へ引き継ぐための「アクションの輪」を広げようという想いから始まったのが、「海と日本PROJECT」です。
日本財団は、活動の枝を広げる「旗振り役」。10年間で約2,000団体を助成
―プロジェクトでは、どのような活動を行っていますか?
中嶋:大きく①海を学ぼう!②海をキレイにしよう!③海を味わおう!④海を体験しよう!⑤海を表現しよう!の5つのアクションを推進しています。日本財団は直接これらの活動を行うだけでなく、各地で海に関する活動をする団体から事業ごとに申請を受けて審査し、プロジェクトの趣旨に沿う事業を選定、ボートレースの売上金をもとにした助成事業や寄付金による支援事業に積極的に取り組んでいます。選定の基準は、その事業が具体的なアクションやムーブメントに繋がるかどうか。申請団体内で完結する類のものではなく、地域の人々や関係者を巻き込んで、海に親しんだり守るための具体的な行動に結びつく活動であることを重視しています。2015年のプロジェクト始動以降、助成した団体は約2,000、事業数でいうと約6,000に上ります。年間のイベントは3,500以上、子どもたちを含め約250万人が参加しています。
―10年間を振り返って、どんな手ごたえを感じていますか?
中嶋:もちろん、まだまだ道半ばではありますが、単に助成するだけでなく、「旗振り役」として各団体の活動を周知・推進し、関係者を繫ぐ役割が果たせるようになってきていることに、一定の手ごたえを感じています。「旗振り役」といっても私たちがやっているのは、決して上から目線の「リーダー役」ではなく、「ここで面白い活動をしている人たちがいるよ!」という目印としての旗を立てる役、活動をする中でビジョンや目的を見失わないように旗を掲げておく役です。とかく縦割りになりがちな団体や自治体の活動を横に繋いで枝葉を広げ、今までつながったことのない人や組織をつなげて、よりスムーズに課題解決していくことを目指しています。言ってみれば、「次世代に豊かな海を引き継ぎたい」という大きな志を共有する皆さんのマッチング役ですね。すでに多くの企業に当プロジェクトへの協賛をいただいており、最近では寄付金だけでなく、インフラや人的資源による支援を継続的に行ってくださる企業も増えてきました。例えば、中学生を対象とした「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」では、海洋生物を取り巻く環境の研究に使う3Dプリンターやペレットを関連業界の企業の方が無償提供して下さったり、研究へのアドバイスを下さったりしています。このように活動団体と企業、自治体などが繋がることでまた新たなアイデアが生まれて活動の輪が広がり、中にはスポーツとして楽しみながらゴミ拾いをする「スポGOMI」のように、世界規模の活動にまで成長した例もあります。
「助成して終わり」ではなく、ともに次なるステージを目指す
―現状、どのような課題がありますか?
中嶋:最大の課題は、プロジェクトを継続していくことです。どんなに時代が変わろうとも、日本が海に囲まれた島国であり、私たちにとって海が不可欠な存在であるという事実は変わりませんから、海と向き合い、守るための活動を続けていく必要があります。社会の変化に応じて必要とされる活動の内容も変わってきます。常にアンテナを張って「今、何が必要なのか」を見極める力を磨き、適切な事業に対して迅速かつ柔軟な支援をしていくことが日本財団の使命だと考えています。ただ、特定の事業だけに助成を続けていれは枝葉は広がりませんし、新しい事はできません。より広く様々な事業をバランスよく支援し、かつ各事業を継続させるためには、「助成して終わり」ではなく、事業が次のステージ、つまり助成期間満了後も自走できるように一緒に考える必要があります。団体自身が寄付を募る、活動に参加した市民の声を聞いた自治体が予算化する、収益事業を立ち上げるなど、団体が当プロジェクトの助成金に代わる財源を確保できるようサポートすることも、私たち日本財団の大きな役割です。
「この活動、いいね。続けてほしい」と願う気持ちが、事業継続の原動力に
―具体的には、どのようにしてサポートしているのでしょうか?
中嶋:イベント開催、メディア、学校との協働プロジェクトの実施などを通じて各団体の活動を広く周知すること、そして企業や自治体とのマッチングをサポートすることです。地域の方や関係者に活動の存在を知っていただき、「この活動いいね」と思っていただくことが事業継続の第一歩。皆さんの「一緒にやりたいね。続けていってもらいたいね」という気持ちが寄付やボランティアという形に代わってくると、その事業が継続する、または新しい地域の活動が生まれる可能性がぐっと高くなります。そのために、日本財団では広報活動を積極的に行い、企業や自治体、他団体とのマッチングによるイベント開催やプロジェクト実施のサポートに力を入れています。
―個人として、海と日本PROJECTに支援・参画したい場合は、どうすればいいですか?
中嶋:まずは、海に興味・関心をもっていただくことです。一口に「海」といっても、海水浴、海産物、絶景、環境問題、生物多様性、海底資源など様々な側面があります。実際に海に出かけて魅力を体感していただきたいですね。その上で、当プロジェクトのHPなどをご覧になって、今、どんな課題があり、どんな活動が行われているのかを知っていただきたいと思います。もしお住いの地域で当プロジェクトのイベントなどを開催している場合は、ぜひ参加してみてください。近くでイベントがない、具体的にどうしていいかわからないけど何かしたい!という方は、「海と日本プロジェクト推進基金」へのご寄付もご検討ください。海洋プラスチックごみ対策など海洋環境の保全活動や全国で実施している海洋体験イベントの支援に活用させていただきます。皆さまからの温かいご支援をお待ちしております。
事例紹介「標津サケパクッ!フェス」/2024年10月5日開催(北海道標津町)
日本財団では2023年、「海と日本プロジェクト」の活動に共感した北海道日本ハムファイターズからご寄付をいただきました。翌10月5日に、この寄付金を主たる財源としたサケを題材にしたイベント「標津サケパクッ!フェス」を初開催しました。
会場は同町内にある「標津サーモン科学館および標津サーモンプラザ」。イベントの運営は北海道の水産業の活性化を目指して活動する一般社団法人「DO FOR FISH」、地元・標津町で漁業の6次産業化を通じた地域活性化に取り組む現役漁師の会「波心会」の皆さんの協力を得て行われました。
誰もが参加しやすい「フェス」という形式をとることで、子どもから高齢者まで幅広い世代に対して、海の恩恵や海洋問題に対する興味・関心を喚起することを目指しました。
標津の海の恵み満載!浜ピザ&サーモンバーガーを提供
イベントでは、海を「食べる」と「学ぶ・体験する」をテーマに、様々な企画が行われました。
「食べる」の主役は、サケをはじめ標津町で水揚げされた新鮮な魚介類。サーモン科学館前の駐車場で開催された「キッチンカーマルシェ」で波心会特製の「浜ピザ」(標津町で取れた魚介類のソーセージや、スモークサーモンをトッピング)が提供されたほか、隣接するサーモンプラザ内にあるカフェ&レストラン「テラス」では「ビッグサーモンフライバーガー」も。家族連れや観光客の皆さんが、出来立てのピザやバーガーを美味しそうに味わっていました。
サケの遡上数が激減。サケの聖地の「今」を実感
「学ぶ・体験する」の主役は、やはり標津町を象徴する魚・サケ。イベント開始間もない11時から会場近くを流れる標津川でサケの遡上観察会が開催されましたが、この日、遡上するサケの姿はまばらでした。解説役を務めたサーモン科学館の市村政樹館長によると、標津川では近年、サケの遡上が減少傾向にあり、今年はここ30年間で最も遡上が少ないとのこと(2024年10月5日イベント時点)。参加者からは「遡上が少ないとは聞いていましたが、本当に減っているんですね」と驚きの声が聞かれました。
そもそも、サケってどんな魚?人工授精と解剖を見学
午後からは館内に移動して、「サケ人工授精×解剖見学実習」。標津川で捕獲されたサケを使った人工授精の様子を見学します。「産卵前のメスの体重の2割を卵が占めている」、「オス同士がメスを巡って戦うように、メス同士もより良い産卵場所をめぐって戦う」など、サケの専門家である市村館長の解説を聴きつつサケの解剖を見学して、サケの生態系や人との関わりについて学びました。
その後は、波心会のメンバーによる活動報告、町内の北海道標津高等学校自然科学部の皆さんによる「オショロコマプロジェクト」(オショロコマの飼育・人工授精プロジェクト)の活動報告もあり、まさに産官学が一体となった学びの機会となりました。
まずはサケを取り巻く現状を知ってほしい
今回のイベントについて市村館長は、「オホーツク海に面する標津町は、その地名(アイヌ語でサケのいる場所の意)のとおり古くから国内有数のサケの産地として知られているが、最近は道内の他の地域と同様にサケの遡上が非常に少なくなっている。原因としては、温暖化や海洋環境の変化など複合的な要素が指摘されているが、まだはっきりとわかっていない。これからサケの遡上数回復を目指して、川の環境保全などいろいろな取り組みが行われると考えられるが、まずは現状を広く知っていただくことが大切。その意味で今回、気軽に参加できるフェスというスタイルで皆さんに標津の状況を知っていただく機会を得られたのは、大変ありがたいこと。これからも皆さんが日本の漁業や海洋環境を考えるきっかけづくりができるよう、標津からも情報発信を続けていきたい」と話してくれました。
「海と日本PROJECT」では、人類の宝である海を未来に繋いでいくためのアクションの輪を広げるべく、今後もさまざまな角度から支援活動を行ってまいります。