大阪北部地震の復興を支える「技術系プロボノ」
6月18日に発生した大阪北部地震は被災地に甚大な被害をもたらし、地震から半年以上経った今でも被災した住宅をどうすればよいのか困っている住民が多く存在しています。そんな被災者を支援するために、専門の知識を持った技術系プロボノが被災地では活躍しています。
半年以上経った今でも大阪北部地震の被害で困っている被災者の方がいる
大阪北部地震は最大震度6弱(マグニチュード6.1)を記録し、死者6名、負傷者443名の人的被害をもたらしました。都市型の地震だったために住家被害も甚大であり、全壊18棟、半壊517棟、一部破損5万7787棟(出典:消防庁、平成30年11月6日時点)と大阪府を中心に多くの住家に被害が発生しました。
2018年は大きな災害が日本各地で立て続きに発生し、7月には平成30年7月豪雨、9月には北海道胆振東部地震があったために、6月に発生した大阪北部地震や台風21号による被害について、報道で取り上げられる機会は少なかったものの、地震から半年以上経った今でも壊れた住宅をどうすればよいのか困っている被災者の方が多く存在しています。
災害要配慮者救援NPOレスキューアシスト(以下、「レスキューアシスト」)は屋根のブルーシート張りをすることで、そんな被災者の悩みを少しでも解決すべく、災害直後から支援活動を続けています。
「地震の影響で壊れた屋根を応急処置するためにブルーシートをかける作業を行なっています。各地で被害が相次いでいるために業者にお願いしても着工まで長くて2年かかると言われている被災者の方もいるようです。私たちの支援活動は、業者が本工事に入る前の段階で応急処置を行うことが目的です」
レスキューアシストの中島武志さんが活動内容について説明してくれました。
「台風で屋根の棟の部分が崩れてしまい、瓦も何枚か割れてしまいました。業者に相談をしても、ずっと順番待ちで全然対応ができない状態が続いています。レスキューアシストさんには、助けに来ていただいて本当に助かっています」
大阪北部地震で壊れた自宅屋根の修復が未だ出来ていない被災者の方が嘆くように語ってくれました。
被災地では地震によりあまりにも多くの住宅が壊れたために、ブルーシートを張る業者の手も足りておらず、かといって被災者自身が行うには屋根上の高所での作業になるために危険で対応が難しいという状態が続いています。また地震直後の6月に張ったブルーシートは既にボロボロになっており、それを取り替える必要も出てきています。
レスキューアシストでは少しでも効率的に屋根の応急処置を行うために、下地板を瓦に固定することでブルーシートが飛ばされにくくする「茨木方式」と呼ばれる新しい固定方法を開発しました。これによりブルーシートを抑えるのに必要となる土のうの量も格段に減ったそうです。
この他にもレスキューアシストでは、これまでの災害経験で蓄積したノウハウ・技術を共有するための講習会も行っています。屋根に登ってブルーシートを張る作業は危険を伴うので、専門知識を持った技術系プロボノの知見が必要になります。日本財団も講習会にかかる費用について助成を行い、活動を支援させていただいております。
都市型の災害が持つ問題について
「最初の頃は、タンスや本棚が倒れてきているので戻してほしいという依頼が多かったですが、すぐに台風がきたこともあって、雨漏りがするので屋根にシートを張って欲しいという依頼が一気に増えました」
茨木市社会福祉協議会の佐村河内力さんが説明してくれました。被災者から社会福祉協議会が運営する災害ボランティアセンターに相談がいくと、それをレスキューアシストに繋げて屋根の応急処置を行うという流れで、住民の不安を一つひとつ解決していったそうです。
「レスキューアシストと協力して作業が出来るようになってからは、これでやっと住民の暮らしが守れると思いました」
と佐村河内さんが発災当初の様子を振り返ってくれました。
大阪北部地震は都市での災害であったために、被災者同士でうまくコミュニケーションが取れていないという問題があります。隣人から「私の車にもし瓦礫が落ちてきたらどうするんですか。早くその壊れた屋根を何とかしてくださいよ」と言われ、業者に連絡をしても対応してもらえないので、危険を承知の上で自ら屋根に登ってブルーシートを張った被災者の方も多くいました。
普段から近隣との関係が希薄なため、他の家が被害を受けていても、自分の家が問題なければそれで災害は終わりと認識している人も多いそうです。それに加えて、都市部は核家族化が進み、そのため高齢者の独居世帯も多く、できるだけ子どもらの家族には助けを求めずに自分の力だけで対応しようと考える高齢者も多いとのことでした。
災害現場で活躍する「技術系プロボノ」
「災害のときには普段の生活の歯車が狂ってしまい、取り残される人が出てきます」
日本財団の災害現場担当の黒澤司はそう話します。黒澤は地震発生後すぐに東京を出発し、当日中には大阪北部の都市の災害対策本部を訪ね、避難所の運営等についてのアドバイスなどを行いました。その後は被害の大きかった茨木市に災害系NPOによる茨木ベースを普段から連携している技術系プロボノで構成される支援団体と立ち上げ、屋根のシート張りなどの活動を行いながら、重機を使っての危険なブロック塀の除去や土砂崩れによる二次被害の対応などの作業を行いました。災害発生時にすぐに支援活動を開始できるよう日本財団が助成している「震災がつなぐ全国ネットワーク」とも連携し高所作業における技術指導や安全対策のためのワークショップなども開催しました。
「いずれ来る大地震に備えて、今回の屋根の応急処置も含めて技術的な災害対応ができる技術系プロボノを増やして行く必要がある」
黒澤がこう語る背景には過去の災害経験があります。2004年の新潟県中越地震でのボランティア活動は、阪神・淡路大震災から10年という月日が経過していたにも関わらず、相変わらずスコップや一輪車などの人海戦術が主流で技術的にほとんど進化していない現状を目の当たりにしました。
「それまでは災害対応をするには一人でも多くの人を投入すれば良いと思っていたが、重機などを操れる技術系の人材がボランティアとして加われば、もっと効果的に処理することができると考え、そのための技術系災害ボランティアのネットワークづくりをした」
黒澤は語ります。
現場によっては、本来なら100人のボランティアが必要な作業であっても、重機が1台入ることにより10人以下のボランティアで済むこともあります。また、一般ボランティアでは危険なために作業ができない現場でも、重機などを活用することにより、一般ボランティアでも安全に作業するための環境を提供できます。
技術系プロボノと一般ボランティアが一緒になれば、日本の災害対応をより効果的にすることができます。そのためにも、震災がつなぐ全国ネットワーク、レスキューアシストのような技術系プロボノで構成される支援団体の活動を支援し、復興をよりスムーズに行うための環境を構築していくことが今後はより重要になってくると考えています。
取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト) 写真:和田 剛