被災した「家」を修繕することで生活の基盤を取り戻す

写真:談笑する「旅商人」のみなさん

平成30年7月豪雨では多くの住宅が浸水や土砂災害の被害に遭いましたが、住宅再建を支援するために被災地では様々な団体が活動しています。「災害NPO旅商人(以下、「旅商人」)」もそんな支援団体の一つで、1階や2階が浸水してしまった住宅でもリフォームして住み続けたいと考えている住民を支援しています。

「災害後すぐに被災地に入って災害ボランティアセンターのサテライト(※)運営を行いました。そこでボランティアを受け入れて、被災地でボランティアを必要としている住民のニーズとマッチングを行いました。今は家屋修繕の対応を行なっています」旅商人の原亮章さんが活動内容について説明してくれました。

旅商人は豪雨直後の7月12日に被災地に入りし、岡山県倉敷市真備町の下有井地区と旭町に災害ボランティアセンターのサテライト開設・運営を行いました。その後は被災した住宅をどうするか困っている被災者が多くいることを受けて、家屋修繕の支援をはじめました。

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旅商人の活動内容について説明する原さん
  • サテライトとは、災害ボランティアセンターとは別に被災した住宅が多い地域に道具やボランティアが集合できる場所などを用意し、支援活動をよりスムーズ行うために設置する拠点を指します。

「被災直後は住宅を解体しようと思っていたものの、今になってやはり解体ではなくリフォームにしようと考えを変える人も多いです。しかし、この段階でリフォームしようとしても、リフォーム業者に引き渡す前段階の洗浄や消毒などの作業を手伝ってくれるボランティアも減っていて、どうしたものかと困っている人が多いです。選択の早さや遅さで損得が出るのはおかしいと思います。じっくりと考えてリフォームすることを決めた人がボランティアに助けてもらえないのはおかしいです」原さんが家屋修繕の支援を行う理由について説明してくれました。

写真:修繕中の屋内の様子
当初は解体を考えていたものの今になってリフォームに考えを変える方も多い

旅商人には、この他にも住民からあらゆる相談が寄せられています。この日も、決壊した川の近くに住む方から、傾いた家に入っている荷物や使えなくなった家具を取り出すのを手伝って欲しいとの要望を受けて、駆けつけていました。

「家の近くの川が氾濫しそうになったので夜のうちに急いでコンビニに逃げました。水が引いてから家に戻ると家が斜めに傾いており、災害から半年近く経った今でも状況は変わっておりません。誰か助けてくれる人がいないかと隣の家の人に相談したら、旅商人さんを紹介されました。とても助かっています」旅商人に作業を依頼している被災者の方が話してくれました。

写真:被災して斜めに傾いたままの家
災害から半年以上経ってボランティアが減った今でも手助けを必要としている住民は多い

旅人によって運営される災害ボランティアセンター

「被災地を支援するために日本全国から旅人を呼ぼうと思い、SNSで“旅人こそ被災地に行こう”と呼びかけました。すると埼玉県やインドなどあらゆるところから旅人が集まり、災害ボランティアセンターのサテライトが社会福祉協議会ではなくて旅人によって運営されました。旅人はいろんなところで恩を受けているので、その恩を困っている人が多い被災地で返していこうという試みです」原さんが説明してくれました。
災害ボランティアは、長期的に支援できる人でなければ縦や横のつながりを持つことは難しいと言われています。時間的に余裕のある旅人であれば、土日だけの活動ではなく長期的に被災地に入ることができるので、旅人が災害ボランティアに来るのが当たり前という文化を作りたいとのことでした。

写真:円陣を組む旅商人のみなさん
旅商人は旅人をはじめ様々な人で構成されている

「私たち以外にも、災害の支援団体はいくつかありますが、災害がある度にそれらの支援団体は、お互いに呼び合って協力しながら活動しています。しかし、いつまでも既存の支援団体に頼るのではなく、次の大きな地震がきた時に備えて、新しい層を被災地に連れてくる必要性も感じています。私は旅をしている身なので、旅の中で出会った人たちを被災地に呼び込むことで、今までとは別の層を持ち込みたいと考えています。すでに存在している支援団体にいつまでもおんぶに抱っこではいけないので」原さんが胸の内を語ってくれました。

行政よりも近いお悩み相談として機能

「HAPPY SMILE PROJECT」も住宅再建を支援するために活動している団体の一つで、岡山県倉敷市真備町の川辺地区を中心にガレキ撤去及び片付けやボランティアコーディネートなどを行なっています。

「7月20日から住宅の修繕活動を行っています。まず住民の話を聞いて今後どうしたいのかを聞いてから対応を考え、家主・リフォーム会社・ボランティアの3者で協力し合いながら進めていきます。特にフォーム会社にはどこまで作業をすれば良いのかを事前に聞いておき、洗浄や消毒までして家主に渡すことが多いです」HAPPY SMILE PROJECTの今井健太郎さんと今井麻由さんが活動内容について説明してくれました。

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活動内容について説明するHAPPY SMILE PROJECTの今井健太郎さん(写真右)と今井麻由さん(写真左)

災害ボランティアセンターからの紹介や口コミで家屋修繕の相談がくることが多く、それを他の支援団体とうまくマッチングさせることも多いとのことです。相談者がお年寄りの場合だと、インターネットで行政が発信している情報を見ることもできないので、HPで公開されている情報を印刷して持って行き、仮にリフォームではなくて公費解体を選択した場合にも、必要な書類などを準備して持っていくとのことでした。そうすることで被災地では、行政よりも距離の近いお悩み相談できる場所として機能しています。

取材した日は、大阪からの支援団体が午前中は家屋修繕のお手伝いを午後にはたこ焼きの炊き出しを申し出てくれましたが、地域のつながりを維持するためにこういった被災者同士で交流ができる場の支援も積極的につなげるなど、地域のニーズに合わせて様々な支援を行っています。

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たこ焼きの炊き出しには多くの地域住民が参加していた

「浸水した水が引いてから自宅に戻ったのですが、その時は家の中で水が渦を巻いたかのように家具がぐちゃぐちゃになっており、唖然として声も出なかったです。家を修復するために、家族の協力を得ながら、畳をとって床板をはぎましたが、その時にボランティアが手伝ってくれて、壁板を剥がしたり、掃除をしたりしてくれたりしました。それまでは真備町に戻るか迷っていたのですが、ボランティアが入って前向きな気分になったので家に戻ることを決めました。これからもこの自宅で老後を暮らしたいと思います」HAPPY SMILE PROJECTに作業を依頼している住民の方が話してくれました。

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洗浄・消毒作業を行うボランティアスタッフたち

「支援活動は、住民が喜んでくれるというのが一番の動機になっています。だからこそ自分自身もいきいきと作業ができますし、これが自分の役割だと思っています」今井健太郎さんが支援を続ける動機について語ってくれました。

日本財団は「災害NPO旅商人」や「HAPPY SMILE PROJECT」の活動を、NPO・ボランティア活動支援を通じて支援しています。被災地で活動する団体を支援することで、被災地の復旧・復興に貢献できればと考えています。

取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト) 写真:和田 剛