被災地で子どもが自由に遊ぶことができる場づくりをする
平成30年7月豪雨では様々な支援がされていますが、被災した子どもの心のケアの取り組みも重要です。「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」は、東日本大震災や熊本地震、九州北部豪雨の際にも被災地の支援を行なっており、今回の災害でも被災地で子どもが自由に遊ぶことができる場所が無くなっていると感じて、地域の会員団体との連携・協働による被災地の子どもたちが自由に遊べる「場づくり」を行なっています。今回の災害は広域ということもあり、岡山県、広島県、愛媛県の被災地を中心に会員団体と連携して、不安やストレスを抱える子どもを中心に遊びを通じた「心のケア」の機会をつくる活動を展開しています。
被災地では子どもの心のケアが重要である
平成30年7月豪雨では被災地のニーズに応えて、炊き出し、避難所支援、ガレキ撤去・片付け、浸水した家屋の応急処置など様々な支援がされていますが、被災した子どもの心のケアの取り組みも重要です。岡山県倉敷市を中心に活動する「遊び場を考える会」は「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」の連携団体の1つです。
「災害時に大人が感じる不安は子どもにも伝わり、親や周りの大人に心配をかけまいと子どもがいい子になることがあります。しかし、本来、子どもは駆け回ったりはしゃいだりするものです。一見元気そうに見える子どもですが、実は大人と同じ、或いはそれ以上に不安やストレスを抱えているのではないでしょうか。そんな心の内の不安やストレスに対して、遊ぶことで自ら癒したり、困難を乗り越えていったりする力を子どもは持っています。」「遊び場を考える会」の岡本和子さんが災害時の子どもが自由に表現し発散できる遊びの重要性について説明してくれました。
岡山県倉敷市真備町の被災された方の多くは、仮設住宅や町内から離れた「みなし仮設住宅」に移っています。そこでの生活は、子どもたちにとっても様々な困難が伴う環境です。例えば、仮設住宅の壁は薄いため、隣家の迷惑にならないよう大きな音はたてないようにする、近所に遊ぶ友達がいない、スクールバスで学校まで通うため、帰宅が遅く遊ぶ時間や自由な時間が無い等です。また、三世代同居や親戚と同居することになり、家も手狭で気を遣うため、おとなしくするように言われて、のびのび自由に遊べないという話も耳にしました。
このように災害によって生活環境が変化することで、子どもはストレスを抱えます。そのようなストレスや心の内に抱えている不安を少しでも軽くし、乗り越えるためにも、思いきり遊ぶことができる「場づくり」が重要です。
そこで、「遊び場を考える会」では、子どもたちがペイントした車(プレーカー)に遊び道具を積み、真備町内でも、浸水していない場所や被災後の片づけが終わり、子ども達が安心して遊べる4か所を定期的に訪れ、子ども自身が「やってみたい!」と思う遊びができるようにしています。この日は年末ということもあり、プレーカーに積んでいた藁を使ってお正月のお飾りを作る子がいると思えば、藁人形で厄払いをしている子もいました。
「私の子どもが通っていた小学校は災害で使えなくなったので、今は他の小学校の近くにプレハブの校舎を建ててそこに通っており、既存の小学校の空いている時間帯を活用して学校生活を送っています。子どもは学校で思いっきり遊ぶことができていないようなので、このような遊ぶ場所があるのは助かります」参加者のひとりが感想を聞かせてくれました。
「子ども自身の“やりたい”という気持ちと発想を大切にする」活動をしている
「遊び場を考える会」では、平時から、地域の大人が見守りながら、そこにある道具や端材、自然にある素材などを使って、子どもが自由に外で遊ぶことのできる場づくりをしています。大人がプログラムしたものはありません。なるべく禁止事項をなくし、子どものやってみたい!を実現するために一緒に考える姿勢をとっています。
「子どもは遊びの天才です。子どもたちは遊び込むことでいろんな経験をします。遊び場には、年齢や生活環境も様々な、多様な人たちが集まる場で、対等な関係を築くことや相手を認め合うことも出来ます。遊びの中で火をくべ、煮炊きが出来たり、そこにある物で代用出来たりすることは災害時大変役に立ちます。でも、本当の力は、『なんとかなる』と思えることだと思います。」と岡本さんが語ってくれました。
愛媛県松山市を拠点に活動している「NPO法人みんなダイスキ松山冒険遊び場」(以下、松山冒険遊び場)も平成30年7月豪雨の被災地支援で「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」と協働している団体の1つです。愛媛県内の被災地で出張プレーパークを開催するなど、定期的に子どもの遊び場づくりをしています。
松山冒険遊び場では、自然の中で遊べる「プレーパーク」を開催しています。「自然と人と地域がつながって、子どもたちがのびのびと元気に育つ社会の実現のために」というキャッチフレーズの松山冒険遊び場では、子ども自身の“やりたい”という気持ちと発想を大切にし、そこにある道具や端材、自然にある素材などを使って、子ども自身が自由に遊びをつくり出すことができること、そして、禁止事項を極力なくし、遊びを見守る大人がいる自然の中で「場づくり」をしているという特徴があります。
「遊びは子どもが成長していく上で大切なことで、大人が与えるものではなく、子ども自身が考え、作り出していくことが、本来の「遊び」だと考えています。愛媛県は本当に自然豊かな場所です。今回の災害は自然の脅威を感じるものではありましたが、自然に親しむ遊びを通して、自然に感謝する気持ちも育んで欲しいと思っています。」と代表の山本良子さんが語ってくれました。
日本財団では被災地から今なお残る不安を少しでも取り除くために、「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」をはじめとした、被災地で活動している団体に支援しています。支援を通して、被災地の一刻も早い復旧・復興に貢献できればと考えています。
取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト) 写真:和田 剛