ミャンマーで芽吹く「自立」の種。8年間の学校建設プロジェクトは何と戦い、何をもたらしたか?

長年に亘るご支援に心より感謝申し上げます。 認定NPO法人れんげ国際ボランティア会 平野喜幸

いつも微笑みを絶やさず、陽気でおおらか。そんな風に評されることの多いミャンマーの国民性。一方で「自らの頭で考え、行動するのが苦手」と指摘するのは、長年ミャンマーへの国際協力に尽力してきた認定NPO法人れんげ国際ボランティア会の平野喜幸さん。

その根本にある問題は「教育」だと、平野さんは語ります。

そんな状況を変えるため、日本歯科医師会と日本財団による社会貢献プロジェクト「TOOTH FAIRY(トゥース・フェアリー)」は、ミャンマーでの学校建設支援を開始。金歯や銀歯、入れ歯に使う金属等をリサイクルによって換金し、国内の難病児の支援とあわせて、ミャンマーの学校建設の支援として寄付活動を行っています。

子どもたちに、そしてミャンマーに、自らの頭で考え、行動する力を──。「TOOTH FAIRY」と日本財団から届く支援金を元に、平野さんは長年ミャンマーの学校建設、そして周辺地域の「自立」のための支援に携わってきました。

そんな平野さんから、寄付者のみなさんへ。ミャンマーの人々に代わり、ありがとうのメッセージをいただきました。

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落成式で挨拶する平野喜幸さん

25年間の関わりで体験した、ミャンマーの抱える課題

高校1年生のときの地理の授業で学んだ南北問題。そこで平野さんは先進国と途上国の間にある経済格差を知り、いつか国際協力の仕事に就きたいと考えるようになります。大学卒業後、実家の農業を継いでからもその想いは消えず。30歳を迎える手前で、国際協力の仕事をはじめます。

平野さんとミャンマーの縁は遡ること25年前。いくつかの団体でミャンマーの国際協力に携わり、2004年に現在所属する認定NPO法人 れんげ国際ボランティア会へ。そして2013年、日本財団からの要請でイラワジ地域での学校建設プロジェクトに参画します。

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ミャンマーのヤンゴン中心部にある寺院、シュエダゴン・パゴダ

「ミャンマーでは慢性的に学校不足。校舎を建設しても、生徒数が増えて、また別の校舎が必要になるという状況が続いています。私がプロジェクトに参加した2013年当時で年間150から200の学校が建設され、2018年頃には年間400から500のペースで建てられていました。それでもまだ、学校の数は足りていません」(平野さん)

「TOOTH FAIRY」だけでなく、世界各国から支援が届き、学校の建設ラッシュが続いているミャンマー。しかし、ミャンマーの教育問題はそれで解決──、というわけにはいきません。「根本的な問題は学校の教育の中身にある」と平野さんは語ります。

「ミャンマーは長く軍事政権下にありました。軍事政権にとっては国民が自分の頭で物事を考えない方が都合が良い。そのためにただ試験に合格するための丸暗記させる教育が一般的でした。

たとえば、本を読んで作文するとか、問題解決するとか。そういった教育は行われてこなかったのです。学校の先生も同じような教育を受けて育ってきました。そのため先生自体も学び直さなければいけない状態なのです」(平野さん)

そして、これらの教育がもたらす影響は学校の中だけではありません。一部の権力者は不正や賄賂を行い、国民も自らの環境を変えるために動こうとしない。それらの現実を平野さんは25年のミャンマーとの関わりの中で身を持って体験したそうです。

この国に必要なのは何にも依存することなく、自分たちで立ち上がる力──。そこで日本財団と「TOOTH FAIRY」は平野さんと共に学校建設を皮切りに地域の「自立」を促そうと動き出します。

地域の「自立」を促す3つのプロセス

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2020年に落成式を迎えたレーゼイ高校

「TOOTH FAIRY」のスクールプロジェクトには3つのプロセスがあります。

まず第1段階は「学校建設」。「TOOTH FAIRY」や日本財団から届いた資金を元に学校を建設するわけですが、その際に費用の4分の1は村に負担してもらいます。一方的にこちらから『あげる』と、村の人はそれに頼ってしまい、自立心が損なわれます。だからあえて村のみんなに学校建設に参加してもらい、一緒に学校をつくるのです。

第2段階は開発プロジェクト。学校建設が終わると村から集めた4分の1の費用を返却します。そのお金を元手に、学校を拠点に自分たちで収益向上プロジェクトをはじめてもらうのです。田んぼを買って農業で収益をあげるなど、自ら働いて収益をあげる基盤をつくります。

第3段階が自立プロジェクト。この段階になると村でお金を集めて、収益をあげて、村のために使うというサイクルが自発的に回るようになります。道路を舗装したり、また学校を建設したりということが、村人主導で行われるのです。

「これまでミャンマーの村の人々は、学校が必要になると、地元の国会議員などの権力者に上申をするという方法をとっていました。あえてきつい言い方をすれば、自分たちは楽をして、学校を『もらう』という発想です。

ミャンマーに根付いてしまっていた、この考え方をどうやって変えていくか。私が携わったスクールプロジェクトの8年間の歩みは、この『ミャンマー・シンキング、ミャンマー・ウェイ』との“戦い”でもありました」(平野さん)

それぞれの段階で1年ずつ。約3年の期間を要する自立までのプロセス。

最初の1年間で学校を建設するまでは良いものの、次の『開発』『自立』という段階に進む中で、村の人々がいつの間にか楽の方に流れてしまっているということも少なくありません。

そうすると時には厳しく接して、再び村の人々に自立を促す。そんなことを根気強く繰り返してきた8年間だったと、平野さんは語ります。

芽吹きはじめる、ミャンマーの「自立」の種

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チュードー高校での始業前の祈りの時間

これまで「TOOTH FAIRY」は47の学校を建設(2021年3月時点)。2021年度も3校を建設予定です。

学校建設だけでなく村落の自立支援までを目的とする本プロジェクトは長い期間を必要とするものですが、その中でもいくつかモデルケースになる村が現れはじめました。

「ここ2年ぐらいですかね。自立まで順調に進んでいるケースがあります。

ガラマークインという村では、学校を寄付してもらった後に、自分たちの力で学校をもう1校建設しました。先生の寮をつくり、学校までの道の舗装も自分たちでしています。

開発基金で6エーカーの田んぼを購入したのですが、村人全員が田植えや稲刈りに参加し、その収益をきちんと村のために使っています。

印象に残っているのは、村の人が『政府に学校を恵んでもらうより、自分たちで動いた方がすぐできるじゃないか』と言ったこと。本当に意識が変わったと思います。

チュードー村でも毎年100万円ほどのお金を自分たちで集めて、道路の舗装をしたり、自分たちの村をより良くするために自立して活動しています。

教育への意識も変わっていて、図書館で上級生が下級生の子どもに読み聞かせをしたり、作文コンクールが開催されたり。自分たちの頭で考える機会が増えているように感じます」(平野さん)

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本の読み聞かせをするチュードー村の子どもたち

また、他方では教育の質を向上させるため、「TOOTH FAIRY」の資金を活用してイラワジ管区内の学校の先生を集めた人材育成研修を実施。直接研修を受けた270人の先生が自分たちの地域に戻り、そこで再び同僚の先生方を対象に研修を行う。草の根的に広がった研修に参加した先生の数は総勢680人になるそうです。

ミャンマーに蒔かれた「自立」の種が、今、少しずつ芽吹きはじめています。

長期にわたる支援が、プロジェクトをムーブメントに

本プロジェクトへの「TOOTH FAIRY」からの寄付金は年間約4,000万円。それに日本財団からの助成金を加えた資金を元に、平野さんは8年間、ミャンマーの「自立」を支援しています。

ミャンマーに事務所を開設し、まったくゼロからプロジェクトを推進してきた平野さんにとって「頼りになるのは日本財団からの助成金や寄付金だけだった」と言います。

「長い間、継続的に支援いただいたことを感謝しています。おかげで、ミャンマーでの取り組みも学校を建設するだけの一過性のものではなく、地域を変えるムーブメントへと変わりつつあります。

自分たちが努力した分だけ、協力した分だけ、村は良くなるんだと。そして、自分たちの背中が次世代の子どもたちに生き方を伝えるメッセージになるのだと。

イラワジだけでなく、広くミャンマーに伝えていきたいと思います」(平野さん)

寄付団体

TOOTH FAIRYプロジェクト

日本歯科医師会と日本財団が共同で運営する社会貢献プロジェクト。歯科治療や入れ歯に使う金属をリサイクルし、子どもたちを支援する資金に、累計で6,800を超える歯科医院が賛同し、累計金属リサイクル金額は1,950,801,048円(2021年3月19日時点)に達する。

それを活用し、難病児とその家族を支援するチャレンジキッズプロジェクトとミャンマーの学校建設等を行うスクールプロジェクトを行っている。