You are my HERO ― コロナ禍に28万人の医療従事者の心を癒やした「化粧品」の力
化粧品メーカーのコーセーがコロナ禍の最前線で働く全国の医療従事者に、感謝と敬意を込めて、約28万セットの化粧品を寄贈しました。
世間では「不要不急」「自粛」という言葉が飛び交っているなか、化粧品を渡して喜んで貰えるのか?そんな不安も抱えながらはじまったという「You are my HERO」プロジェクトは結果的に大きな反響を呼び、コーセーにはたくさんの医療従事者からの喜びの声が届いています。
緊張と不安を抱えながらの生活を強いられている最中に届いた化粧品は、医療従事者のみなさんにかつての日常を思い出させ、苦境を乗り越える活力を与えてくれたそうです。
「You are my HERO」プロジェクトに勇気付けられたという医療従事者の1人、熊本市にある江南病院の看護部長、木村仁美さんからメッセージが届きました。
「感染拡大がはじまった当初は私たちもみなさんと同じで、未知のウイルスへの強い恐怖心がありました。社会に溢れる不正確な情報に振り回されながら、とにかく患者さんを守らなければいけないという使命感だけで動いていたように感じます」(木村さん)
2020年春、まだ新型コロナウイルスに関する正確な情報を日本の誰もが把握できていなかったとき。江南病院の医療従事者のみなさんも、自身の感染、そして自らが感染経路となり家族や知人、患者さんに感染させてしまうことへの不安と日々闘っていました。
また一方で、新型コロナウイルス感染の診療を行う江南病院では、院内感染を予防するため、発熱外来を別棟に設けたり、用具や設備が利用されるたびに消毒したりと、通常の2倍の人手が必要な状況。しかし、それを通常の人員でやり切らなくてはいけないために多忙を極めていました。
そのなかでも、木村さんをはじめとする江南病院の医療従事者のみなさんは患者さんにできるかぎり寄り添うことを努めていたそうです。
「新型コロナの患者さんを搬送する際は、筒状のカバーで覆われてまるで袋詰めされたような状態になるんです。患者さんもすごく不安そうな表情をなさるんですよ。そういう患者さんには『大丈夫ですよ』とずっと声をかけ続けて、励ましながら付き添っています」(木村さん)
コロナ禍に化粧品会社だからこそできる支援を
2020年の夏頃、コーセーの社内では新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、未曾有のパンデミックに対してどんな支援ができるのか、部門を横断しての検討が重ねられていました。
コロナ禍では外出が制限されたり、マスクで顔を覆うことが多くなったり。「化粧品」というもの自体の意義が問われていました。
幼稚園や保育園、介護施設への消毒用アルコールの提供など、それまでもできる限りの支援はしていました。しかし、化粧品会社だからこそコロナ禍の時代に貢献できることはないのだろうか─。
「医療従事者のなかには私たちの商品を日頃からお使いいただいている方たちがたくさんいらっしゃいます。そんな方たちに対して何か支援することはできないかと考えました。
そこで、医療の現場の最前線で働いているみなさんに向けて感謝と敬意を込めて、スキンケアやメイクなどの化粧品を贈る『You are my HERO』プロジェクトがはじまりました。
医療従事者のみなさんは常にマスクを外すことができないため、肌荒れなどに悩まされていると伺いました。そのため、スキンケアアイテムであればきっと喜んでいただけるだろうと思ったのです。
また、コロナ禍で逼迫する現場にメイクアップする楽しみを再びお届けできれば、という想いもありました」(コーセー 経営企画部 経営企画室 今田氏)
当初は、日本全国にあるコーセーの事業所から周辺の病院に化粧品を直接渡すことを検討していました。しかし、コロナ禍で多忙な病院への直接的なアプローチは、逆に負担になってしまうかもしれません。
そこで、コーセーは『You are my HERO』プロジェクトの実現に向けて、日本財団へ協力を要請します。
2020年12月21日にプロジェクトを開始し、日本財団サイト内に申し込み窓口を開設。すると、全国の医療施設から多数の応募が集まり、半月で予定数の倍以上の申し込みがありました。
クリスマスから年始にかけ、趣旨に賛同いただいた一般の方からの寄贈分も含め、第一弾となる7万セットの化粧品を各地の病院にお届けしますが、現場から多くの要望があったことも踏まえ、2度にわたり合計21万セット分の追加を決定します。
そして、2021年5月末。全国811施設、合計28万セットが対象となった『You are my HERO』プロジェクトのすべての配送が完了します。
「コロナ禍で逼迫する医療の現場ですから、メイクどころではないのでは?という不安もありました。マスクや感染防護具ではなく化粧品となると、二の次、三の次なのではないかと。
しかし、はじまってみると予想を超える反響で。受け取った医療従事者の方からお手紙をいただいたり、感謝状をいただいたり。SNSでも多くの反響がありました。
ここまで喜んでいただけるものなのか、化粧品とはここまで多くの皆さまに求められているものなのかと思いましたね」(コーセー 経営企画部 経営企画室 今田氏)
化粧品を通じて医療従事者に届いた「楽しんでもいい」のメッセージ
確かに当時、化粧品は「不要不急」なものではなかったかもしれません。しかし、化粧品のセットが届いたときの様子を木村さんは次のように語ります。
「新型コロナウイルスの感染拡大がはじまってからは、常にマスクをする生活で、どこにもお出かけもせず、お肌に気を遣ったり、お化粧をしたりすることも忘れてしまうような毎日でした。
患者さんを守りたい一心で仕事をしているわけなのですが、職場と自宅を行き来するだけの楽しみの少ない生活の中で『何をやっているんだろう?』と、ふと疲弊感が襲ってくるときもあります。
化粧品のセットが送られてきたのはまさにそんな時期で。私たちは日常を取り戻してもいいんだ、と思えた瞬間だったんです。
いただいたシートマスクは、本当にみんなすぐに使わせていただいてました。本当にうれしかったんですよ。ふっと肩の力が抜けて、みんな口々に『癒やされた』と話していました。
いただいたチークの色も明るかったのですが、本当に職場の雰囲気がぱっと花が咲いたように明るくなったんです」(木村さん)
多くの人がさまざまな日常の楽しみを自粛することを余儀なくされているコロナ禍。特に医療従事者は背負う責任の重さから、他の一般の方々以上に緊張感を保ちながら生活しています。
そんなときに贈られてきた化粧品の存在が、医療従事者のみなさんにとって「楽しんでもいい」「もう少し楽になってもいい」というメッセージに聞こえたのかもしれません。
また、今回の「You are my HERO」プロジェクトは、寄付者であるコーセーにとっても、化粧品の力を再認識するきっかけになったと言います。
「医療従事者のみなさんが喜んで下さっているのを知り、化粧品で人の心を潤すことや、前向きな気持ちになっていただくお手伝いができるのだと。今回のプロジェクトで化粧品の社会における役割を再認識できたこと、お役に立てたことを、とてもありがたく感じています」(コーセー 経営企画部 経営企画室 今田氏)
非日常の連続のなかで「自分たちにも日常がある」と思い出させてくれた
最後に、木村さんから今回のプロジェクトに対して、感謝のメッセージをいただきました。
「本当にうれしすぎて、日本財団を通じてコーセーさんには感謝のお手紙を送らせていただいたんです。
私たちに心を寄せてくださったように感じて、それが私たちにも日常があるんだということを思い出すきっかけを与えてくださいました。ありがとうございました。
今、全国でワクチン接種が進んでいる最中ですが、これをきっかけにコロナ禍が収束していくことを信じています。そのためにも、私たちは今できることを常に考えて、前に進んでいきたいと思っています。
一方で気は緩めず、予防対策をしっかりと行いながら、みなさんに安心を届けられるように努めていきたいと思います」(木村さん)
(撮影:衛藤久朋)