復興中に再び起こった水害。もう一度武雄市が立ち上がるために、今、必要なこと
2021年8月、停滞する前線の影響で西日本を中心に大雨による被害が発生。佐賀県武雄市でも大雨による浸水で、最大避難者数677人、浸水家屋1,756棟という甚大な被害を受けました。
実は一昨年の2019年にも大雨による浸水で被害を受けていた武雄市。住民の皆さんにとっては、復興に向けて進みはじめていた最中での2度目の災害となりました。
「一昨年に水害が起きて、そこから安心して住み続けられる街づくりを合言葉に活動してきました。でも2回目が起きてしまうと……、正直心が折れそうになりました」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)
武雄市で災害救援事業に取り組む、一般社団法人おもやいは一昨年の水害がきっかけで発足。2021年の水害でも、浸水家屋の相談、支援物資や専門ボランティアスタッフの受け入れなど、多方面にわたり支援を実施しました。日本財団の災害復興支援特別基金の一部もおもやいの活動支援に充てられています。
おもやいの代表理事・鈴木隆太さんへの取材をもとに、2021年8月の水害の救援の現場を振り返ります。
令和元年の水害がきっかけで「おもやい」誕生
武雄市は人口47,694人(2019年時点)の佐賀県西部に位置する市。武雄市の山地から蛇行しながら有明海に注ぐ六角川は、有明海の干満差によって海水の遡上が見られるなど、治水の難しい河川です。そのため、これまでも大雨が降ると排水が追いつかなくなり、内水氾濫を引き起こすことがありました。
さまざまな対策を講じて、1990年以降30年近くは大規模な水害は発生してこなかった同地域ですが、2019年に記録的な大雨により内水氾濫が起きて、大規模な浸水被害を受けることになります。
武雄市にある曹洞宗東禅寺で住職をしている鈴木隆太さん。阪神淡路大震災でボランティアに参加して以来、被災地NGO協働センターで約10年勤務していた経験を活かし、2019年の水害発生時に地域の知人の支援を個人的にはじめました。
「例えば、被害を受けたときには支援を受けるためには、役所で、罹災(りさい)証明の申請手続きをする必要があります。被災度合いによって義援金が配られたり、利用できる制度があるのですが、知り合いのお宅のお母さんと話していると『何ば申請せんばいかんと?』という調子。高齢化が進んでいる地域なのもあり、災害時にどう対応すれば良いかわからず、多くの人が困っている状況でした」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)
「地元の人間として、何かできることはないか」と考えた鈴木さんは、地元で災害救援に興味を持っている人たちを集め、情報交換をしながら、自分たちに何ができるかを話し合うようになります。
その流れで民間のボランティアセンターとして発足したのが、現在のおもやいです。
「最初はいつまでやるとも考えていなかったのですが、さまざまな住民の方の相談を受けているうちに継続的な活動の必要性を感じるようになり、一般社団法人として法人化しました。
復興のフェーズに入ってからも、武雄市を安心して住み続けられる街にしていくために、家屋の清掃をしたり、生活改善の相談にのったり、防災講座をしたり、防災グッズを配布したり、さまざまな事業を実施していました」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)
2021年8月、再び武雄市で水害が発生
復興に向けて着実に進んでいた武雄市。その矢先の2021年8月、再び線状降水帯による記録的な大雨が発生しました。8月11日から9日間降り続いた雨により、またも内水氾濫が発生し、範囲にわたるエリアが浸水に見舞われることになります。
「8月13日くらいから、冠水する地域が出てきました。おもやいの事務所は1メールほど基礎を高くしているのですが、それでも床上40センチまで浸水してしまっていたような状態でした。
一昨年の水害で家屋を修繕したり、家財道具を新たに買い替えているご家庭が多くありました。ただ、それらの家財道具も流されたり、使えなくなってしまった状況で。
家屋の修繕では1,000万円ほどかかっていることもありますし、家財道具も100万円、200万円ほどかかっている世帯があります。それだけに住民の方の経済的負担が大きかったのが今回の水害でした」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)
おもやいでは住民の安否確認をしながら、少しでも経済的負担を減らすために生活支援物資の配布を積極的に行いました。
また、各支援団体に協力を要請して、総勢2,819人(延べ人数)のボランティアスタッフを受け入れ、被害を受けた住民のサポートにあたります。
地元の社会福祉協議会が開設しているボランティアセンターと役割分担をして、おもやいは主に専門的な技能を有するスタッフの受け入れを実施。
家屋修繕などの相談にのるために、建築士による建物相談チームを編成するなど、住民のさまざまな相談に対応できる体制を整えるために奔走しました。
もう一度、武雄市が復興に向けて立ち上がるために
短期間で2回目の大規模な水害──。まだ災害の爪痕が残る武雄市で、現在も届くさまざまな相談にのりながら、鈴木さんは「安心して住み続けられる街づくり」について次のように考えていると言います。
「一昨年の水害後、『安心して住み続けられる街』を合言葉のようにして活動をしてきました。その矢先に2回目の水害が起きてしまい、正直、一瞬心が折れかけました。
でも、それでも武雄に住み続けるという選択をしている人たちがいて、その人たちには離れたくない理由があります。武雄に住む人がいる以上は、私たちも『安心して住み続けられる街』をもう一度目指さなくてはいけません。
自分たちの地域の課題を自分たちで解決していく。そのために1つはおもやいに届く直接支援金の一部をファンドとして、地域で活動したいと思っている自治会に助成金としてお渡しするような取り組みを考えています。地域の人たちの『こんなことをやってみたい』という気持ちを後押ししていければと考えています。
もう1つは、水害が起こるかもしれないということを前提として考え、事前の対策を各家庭に啓発していくことです。それぞれの家庭の事情に合わせて、水に濡れない高さに大事なものを置いたり、そういった小さなことからはじめていく必要があります」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)
再び「安心して住み続けられる街づくり」に向けて、歩みを始めた武雄市とおもやいの皆さん。最後に2021年8月の水害におけるおもやいの活動資金となった日本財団の災害復興支援特別基金の寄付者の皆さんへ、鈴木さんよりメッセージをいただきました。
「私たちの災害救援活動はいろいろな人たちとのつながり、ご縁で成り立っています。その結果、私たちの目の前にいる人たちを笑顔にすることができているのだと思います。
いただいた募金の向こう側に多くの方がいらっしゃる。直接武雄市で活動をしている人たちだけでなく、その裏で多くの方がご支援してくださっているんですよね。そのつながりを日々感じながら活動させていただいています。
今後もどうぞ私たちの活動を温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです」(一般社団法人おもやい・鈴木隆太)