「俺、動くわ」。KISA2隊の若手医師たちは、なぜコロナ禍の在宅医療を実現できた?
有志の若手医師が集い、コロナ自宅療養患者の診療を行うKISA2隊。2021年2月に京都で発足されたKISA2隊の活動は大阪、滋賀、奈良、そして全国へと広がり、今ではコロナ感染症対策の重要な役割を担っています。
皆さんから寄せていただいた日本財団 新型コロナウイルス緊急支援募金の一部も、KISA2隊の活動資金として、コロナ自宅療養患者の健康と安心を守るために使われています。
KISA2隊の守上佳樹先生、小林正宜先生に発足の経緯と現状の活動について、お聞きしました。
今後、必ずコロナ患者の在宅医療が必要になる
「ちょっと思いついた構想があるんや。聞いてくれるか?」
守上先生が、旧知だった小林先生にかけた1本の電話。それは2020年7月のことでした。当時は新型コロナウイルスの第一波、第二波が過ぎ去った一方で、第三波がいつ訪れるかわからない状況。
比較的感染者数の少なかった第一波、第二波のタイミングでも医療体制が崩壊しかかっていたのに、海外のように莫大な感染者が発生したら、どうなってしまうのか。
「今後、必ずコロナ患者の在宅医療が必要になる」と考えた守上先生は、自らの構想を小林先生に打ち明けます。
「コロナ患者の受け皿としては、病院はもういっぱいになる。その時、自分たち診療所のドクターが自宅に往診するしかない状況が来る。誰もやりたくないやろうから、自分はやろうと思う。ただ、診療所だけじゃなくて、医師会、行政、市長や知事も、みんな巻き込んでやらなあかん」(守上先生)
その話を最初に聞いたときに小林先生は「えらいこと言いはるな」と感じたそうです。話していることには100%同意できる。でも、診療所の開業医である自分たちが医師会や行政を巻き込んで一体何をできると言うのか。
また、当時は新型コロナウイルスへの正しい知識も世の中に浸透していなかった状況です。その中で自分たちも感染のリスクを負いながら、感染防護服を来て、患者の家に往診するという発想自体が突拍子もないものに感じられました。仮に自分たちが感染したら診療所を休まなければなりませんし、風評リスクもあります。
「自分は京都を守るから、大阪は小林先生に守って欲しい」という守上先生の言葉もどこか現実味のない話に思えました。
しかし、第三波が猛威を奮っていた2021年2月、守上先生から再び小林先生に電話がかかってきます。
「前に話した構想あったやろ。小林先生、俺動くわ」
有言実行、KISA2隊が発足
2021年2月、医師会や行政と連携した在宅医療チームとして、守上先生を中心に地域の診療所・そのほか医療機関が連携したKISA2隊京都が発足しました。
保健所が往診の必要な患者の情報をすくい上げ、KISA2隊が24時間体制で要請に応じて、コロナ患者の自宅まで向かう。電話で聞いていた在宅医療のスキームを京都府知事が発表し、実現に向けて動いていく様子を、小林先生は「有言実行やな、すごいな」と感じていたそうです。
そんな矢先、第四波によって大阪の感染者数が急増します。コロナ患者への往診の恐怖感はまだありつつも、地域の若手開業医と何かできないか話し合っていたという小林先生。その背中を守上先生が押します。京都の在宅医療のスキームを大阪医師会に話して、その担い手として小林先生の名前を挙げたのです。
「自分たちも若手の開業医で集まって、絶対何かせんとあかんと、話していました。でも、感染リスクとか診療所を閉めなきゃいけないとか、いろいろなことを考えて一歩が踏み出せなかったんです。『生焼けのたこ焼きの会』なんて自分たちに名前を付けていました。
実際にやるとなっても、自分たちだけが在宅医療に手を挙げたら医師会との足並みを乱してしまわないか。自分が診療をすることができないときに頼れる横の連携はあるのか。守上先生が医師会とつなげてくださったおかげで、そういう課題を乗り越えることができました」(小林先生)
小林先生は、KISA2隊大阪の隊長として活動することを決めます。
伝播していく若手医師の志がKISA2隊を全国組織に
KISA2隊の活動に賛同する医師や診療所は徐々に増えていきました。京都支部は12〜13の診療所、大阪支部は11の診療所で構成される連合組織として、それぞれ拡大していきます。その後、滋賀、神戸にも支部が立ち上がり、現在では関西エリア外からも問い合わせが絶えません。
そして、各地域のKISA2隊のメンバーは、感染のリスクや恐怖を乗り越えて、訪れるコロナ感染者拡大の波に立ち向かっていきます。
大阪支部は、2022年3月までに、283人に往診、121にオンライン診療を実施。大阪市内全域をカバーしながら1日最大15件までの依頼に対応できる体制となりました。また、施設内クラスターが起こった際の医師派遣、外出できない自宅療養者に食事を届ける「ほほえみ隊」など、活動の枠を広げています。
京都支部でも第四波の頃には、1日30人ほどの診療を実施。これまですべての要請に応え、患者の死亡者数はゼロだと言います。
「最近では少し変わりましたが、以前は自分がコロナに感染をしたことを他人に言うのは憚られるような風潮がありました。そうすると、誰にも言えず、社会から分断されて、孤立の中に1つの家族が生きているような状況になるわけです。
そんな中で、往診すると本当に安心されるみたいで、ほぼ全員が感謝してくださいます。『あのときに往診してもれなかったらどうなっていたかわからないし、心が潰れていたかもしれない』と言われる方もいます。それが自分たちのやりがいにもつながっているんです」(小林先生)
安心して自宅療養できる医療体制がWithコロナを現実にする
「何とかしなければならない」という若手医師たちの志から始まったKISA2隊は、今ではコロナ禍における地域医療を下支えする、欠かせない存在となっています。
「ここまで広がっていった一番の理由は、若手の医師が自分たちで行動して見せたからなのだと思います。当時、コロナ患者の自宅に行くなんてことを誰も考えませんでした。ただ、それは無理なことだったわけではなくて、その一歩を踏み出す人がいなかっただけなんです」(守上先生)
まだ新型コロナ感染症は完全に収束していません。より多くの地域にコロナの在宅医療を届けるため、KISA2隊は今後も活動の範囲を広げていく予定です。
「京都、大阪、滋賀、神戸の他にも秋田、埼玉、大分でもKISA2隊の活動が始まっています。日本全国に広がっていくことで、与えられるインパクトも大きくなっていきます。自宅でも安心して療養できる体制が日本全国にできあがる。そうすれば、Withコロナが現実的なものになっていくんじゃないかと思います」(小林先生)
規模が大きくなっていくKISA2隊の活動を支えるためには医師だけでなく、事務局やそこで働く専任メンバーが必要。日本財団 新型コロナウイルス緊急支援募金はKISA2隊の持続可能な運営のために使われています。
守上先生、小林先生から寄付者の皆さんにメッセージをいただきました。
「みなさんからいただいた寄付が、多くの命を救っています。最前線で医療に携わっているからこそ、そのことを実感しています。本当にありがとうございます」(守上先生)
「みなさんの寄付のおかげで、療養者の方を支えることに集中することができています。またいただいたお金は全国に活動を広げていくための原動力にもなっています。本当に感謝しかありません」(小林先生)