車いすバスケ・鳥海連志の思い。「オリパラの差をなくせるのは、パラアスリート自身」
「車いすバスケットボール界のスピードスター」と呼ばれ、目覚ましい活躍を続ける鳥海連志(ちょうかい・れんし)選手(WOWOW)。東京パラリンピックでは日本代表チームを史上初の銀メダルへ導き、男子大会MVPに選出されるなど華々しい成果を残しました。
しかし、ここまでのキャリアは順風満帆だったわけではありません。2016年のリオパラリンピックでは結果を残せず、苦しい思いをした経験も。
5年の時を経て、車いすバスケットボールへの注目度が高まった現状をどう感じているのでしょうか。「HEROs LAB」イベントで母校の生徒と交流する直前のタイミングで、東京パラリンピック後の変化について伺いました。
ようやく、競技外に目を向ける余裕ができた
今日のイベントでは、母校の生徒の皆さんと交流できるのをすごく楽しみにしています。
- ※ インタビューはイベント前に実施
HEROsさんの活動に興味を持ったのも、こうした機会を得られるからですね。今回は「HEROs LAB」という企画の一環で、講演会と車いすバスケ体験会を実施します。新たな出会いのきっかけになりますし、地元・長崎に貢献できることが何よりうれしいです。
東京パラリンピックが終わるまでは、こうした競技外の活動はほとんどしてこなかったんですよ。競技を始めた中学生の頃から、車いすバスケ漬けの生活でしたから。特にリオから東京までの5年間は、ほとんどチームメイトやスタッフと一緒。チーム外での交流は少なかったんです。
もっというと、「車いすバスケ以外のことを考える余裕がなかった」というのが正直なところですね。チームとして結果を残せず、僕自身も試合に出られず、切羽詰まっていましたから。
東京パラで準優勝という結果を残し、個人としては大会MVPをいただいたことで、競技外に目を向ける余裕がようやくできたと感じています。
東京パラは、日本の車いすバスケ界にとって大きな転機になりました。僕自身も大会前と打って変わり、テレビやアパレルの仕事をたくさんいただけるようになりました。車いすバスケ一本の世界から、様々な業界の方々と関わる機会が一気に増えましたね。
昔から、車いすバスケは「パラスポーツの花形」と言われていました。東京パラで結果を残せたことで、ようやく胸を張って「花形スポーツだ」と言えるようになったと思います。
競技を始めたばかりの選手からも、「いつか代表になりたい」という声を聞くようになりました。東京パラを通じて、車いすバスケと鳥海連志という存在を多くの方に知ってもらえたのは純粋にうれしいです。
もちろん現状に満足せず、引き続き競技力を向上していくことが何より重要だと理解しています。
オリンピックとの差を、もっと埋めたい
「気づきを持つこと」の大切さは、もっと伝えていきたいです。
パラアスリートは、健常者の方と比べてできないことがたくさんあります。その中で、助け合いながら生きています。周囲で困っている人がいないか気を配り、助けを求めている人がいれば手伝う。こうした「気づきを持つこと」は、生きていく上でとても重要です。
今回の「HEROs LAB」を通じ、健常者の方も「気づきを持つ」きっかけになればいいなと思っています。
例えば車いすバスケを一度体験してもらえば、車いすの方の目線を想像しやすくなると思います。車いすに乗っている人も、健常者の方と同じく身近な存在であると感じてもらいたいです。
そうなれば、助けを求める人に対してすぐ反応できるようになると思います。そういった“瞬発力”を培ってもらうのも、普及活動の目的の一つです。
こうした「気づき」は、障害の有無に関係ないと思います。例えば友だちが少し元気がないなと思えば声を掛けるとか、身近なことから始めればいい。気づきを持って生活することは、社会のあらゆる分野で生きてくると思います。
いちパラアスリートとしては、オリンピックとの差をもっと埋めたいですね。そのためには、まず自分たちがオリンピック選手と同じ意識の高いアスリートであることを証明する必要があります。
パラアスリートの「アスリートとしての自覚」は、僕を含めてまだまだ向上の余地があると思います。オリンピックとの垣根を無くせるように、例えば車いすバスケを自分たちからもっと発信し、知ってもらう必要があります。
最近は、障がいに関係なく「アスリートとして競技力を高めること」が当然視されるようになってきたと思います。この流れは、個人として歓迎しています。社会全体で、もっとパラリンピックとオリンピックの違いを無くしていく流れになっていってほしいですね。
パラスポーツ界を先導できる存在になりたい
ありがたいことに、東京パラを経てSNSのフォロワー数は大幅に伸びました。例えば僕のInstagramフォロワー数は大会前に1,600程度でしたが、大会後は18,000を超える方にフォローいただいています。
見ていただける方が増えた分、責任も感じています。誰かを不用意に傷つけないよう慎重に言葉を選んでいますし、自分の言葉で投稿することを心がけています。
参考にしているのは、僕と同世代の元パラ水泳選手・一ノ瀬メイ選手の発信ですね。彼女の発言からは、パラスポーツ界を先導していく気概を感じます。
僕に関しては、まずは障がいを持っている人が何に困っているのか、何を助けてほしいのか、などを発信していきたいですね。もちろんパラスポーツや車いすバスケの魅力、ファッションなど僕の好きなことも発信していきます。
僕自身がどういう人間なのか、深く知ってもらえるとうれしいです。投稿頻度はもっと増やさないといけないですね、マメに更新するのが苦手なので(苦笑)。
オフコートでの活動は、まだまだ手探りです。自分自身、何ができて何が難しいのか見えていない部分があります。今年は「これならできそうだ」ということをどんどん進めて、活動の幅を広げていきたいですね。
オンコートでは、所属チーム・パラ神奈川SCの一員としてB1リーグの横浜ビー・コルセアーズさんとたくさんコラボさせていただく予定です。今年3月にもビー・コルセアーズさんのコラボイベントに参加しましたし、ホームゲームで車いすバスケ体験会をさせていただいています。
こうした活動を通じ、より多くの方に車いすバスケを知ってもらえるとうれしいです。地域の繋がりは、選手にとって大きな力になります。パラ神奈川SCが横浜のチームとして知ってもらえるよう、引き続き活動を続けていきます。
東京パラを通じ、多くの方に車いすバスケのことを知ってもらえました。今後は僕自身が、オフコート・オンコートともにパラスポーツ界を先導できる存在になりたいと思います。
「HEROs LAB」当日の様子はこちらから!