誰一人取り残されない社会のため「ソーシャル・セクター×DX」で何ができる?

写真
『ソーシャル・セクターのDXを考える〜誰一人取り残されない社会の実現に向けて〜』シンポジウムの様子

今、企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)により、業務を効率化するとともに、既存事業とデジタルを融合したさまざまなイノベーションを生みだそうとしています。そして、DXが必要とされているのは企業に限りません。限られたリソースで社会課題の解決と向きあうNPOなどの非営利団体。これらソーシャル・セクターにおいても、DXは欠かすことのできないものです。

この度、日本財団はGoogleの慈善事業部門であるGoogle.orgより300万米ドルの寄付をいただき、DXでソーシャル・セクターを活性化する「デジタルトランスフォーメーション基金」を設立しました。デジタルの力はソーシャル・セクターにどのような可能性をもたらしてくれるのでしょうか。

Googleと日本財団で、ソーシャル・セクターのDXを支援

12月5日、日本財団はデジタルトランスフォーメーション基金の設立を記念して、『ソーシャル・セクターのDXを考える〜誰一人取り残されない社会の実現に向けて〜』と題したシンポジウムを開催しました。

写真
シンポジウムの会場には多くのメディア関係者、ソーシャル・セクターの関係者が来場した

「(特にソーシャル・セクターのDXにおいて)日本は他の先進国に大きく遅れをとっている。この遅れを挽回したい」

冒頭の挨拶で日本財団会長の笹川陽平が日本の現状への危機感とソーシャル・セクターのDXへの決意を語り、シンポジウムは幕を開けました。

写真
日本財団会長の笹川陽平

続くGoogle日本法人代表の奥山真司さんもまた、「非営利団体、子どもたち、障害のある方々がテクノロジーの恩恵を享受し、デジタルによって生み出される機会を活用いただけるようになることを望んでいます」「誰もが自分の可能性を自由に追求できるインクルーシブな社会を実現することが不可欠。そのためにGoogleはこれからも一丸となってサポートしていきたいと思います」とこれに応じました。

写真
Google 日本法人代表の奥山真司さん

今回Google.orgからの支援により日本財団が設立したデジタルトランスフォーメーション基金は、新型コロナウイルスによって打撃を受けた⽇本の⾮営利組織をエンパワーし、テクノロジーの導⼊によって困難を抱える⼈たちに社会的なインパクトを与える事業を⽀援するものです。

世界のITをリードするGoogleとソーシャル・セクターのプラットフォーマーである日本財団。両者が社会貢献という同じ志を持ちパートナーシップを結んだことに対して、シンポジウムで基調講演を行った初代デジタル大臣の平井卓也衆議院議員(自⺠党デジタル社会推進本部⻑)からも期待の言葉をいただきました。

「日本政府では、『誰一人取り残されないデジタル社会』というビジョンを掲げています。これは絶対に守らなければならない大原則。そして『誰一人取り残されない』ところにイノベーションは生まれます。
今はソーシャル・セクターに加え、社会貢献を目的としたインパクト・スタートアップも数多く生まれています。政府でもこれらを支援していますが、人助けの文化は日本の特長であり魅力だと思います。
今回のデジタルトランスフォーメーション基金では、Google.orgと日本財団の支援を受けて、ソーシャル・セクターの皆さんがその活動を広げていくことになります。この閉塞感のある日本において、皆さんの活動が取り残されてしまいがちな人に寄り添い、安心のベースを作ることにつながっていくのだと思います」

写真
平井卓也衆議院議員

なぜソーシャル・セクターのDXは進んでいないのか?

日本財団ではデジタルトランスフォーメーション基金の設立にあたり、ソーシャル・セクターのDX活用に関するアンケート調査を実施しました。担当した日本財団ドネーション事業部の伊藤麻里子は「資金」「人材」を課題に挙げます。

「一般的にソーシャル・セクターのDXは遅れていると言われています。全国アンケート調査では、約8割がDXの重要性を認識しつつ、約5割が導入の難しさを感じているという結果になりました。
その理由として回答が多かったのはまず資金面。現状、ソーシャル・セクターへのさまざまな助成金がありますが、その多くがDXは対象になりません。そして仮にDXをしたとして、それを担える人材がソーシャル・セクターにいないのも課題です。また、システムを導入すると定期的なアップデートや保守・メンテナンスなどが必要になります」

写真
日本財団ドネーション事業部 伊藤麻里子

ソーシャル・セクターのDXにおける課題については、シンポジウムの本編で、実際に取り組む非営利団体からも聞かれました。

障害者のアート活動を支援する特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパンの代表理事/事務局長の柴崎由美子さんは、「福祉施設はいまだにWi-Fiがつながっていないところが少なくない」と“誰一人取り残されない”ためにIT環境やリテラシーにグラデーションがあるのを認識すべきだと語ります。

子どもの教育格差をなくすために塾や習い事に使えるクーポンを発行している公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンは、紙で発行していたクーポンをデジタルで発行できるようにするなど、積極的にDXに取り組んでいるそうです。
そのため、代表理事の今井悠介さんは内部人材の必要性を感じているものの、「エンジニアの採用が上手くいかず、今在籍しているスタッフのスキルを育てていく方向で考えています」と人材面の悩みを語りました。

写真
シンポジウムの本編として行われたパネルディスカッションの様子

動き出した、「デジタルトランスフォーメーション基金」

今回設立を発表したデジタルトランスフォーメーション基金ですが、すでに支援の決定した3つの団体がDXを開始しています。シンポジウムの後半では、それぞれの団体が事業概要と今後の展望を語りました。

子どもにプレゼンテーション力を養う授業を提供する一般社団法人アルバ・エデュも基金からの支援を受けた団体の1つ。コロナ禍をきっかけに始まったオンライン授業を日本財団の助成を受けて子ども第三の居場所に展開していましたが、今回のデジタルトランスフォーメーション基金による支援で、さらに授業の提供先を増やす予定です。

写真
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事 竹内明日香さん

子どもたちが自然との共生と生きる力を学ぶ複合体験施設を運営する特定非営利活動法人MORIUMIUSも、2020年からオンラインプログラムを開始しています。今回の基金の支援で、オンラインプログラムをさらに拡大して子ども第三の居場所全国12拠点の子どもたちにも提供できるようになりました。

写真
特定非営利活動法人MORIUMIUS理事 油井元太郎さん

最後に、健常者と障害者が体験を共有する場を提供する特定非営利活動法人D-SHiPS32。特別支援学校や入院中の子どもたちにメタバース体験を提供するプロジェクトを、本基金を活用して継続することにしました。今後は子どもたちの遊び・学びの場として拡張したメタバース体験を提供していく予定です。

写真
オンラインで登壇した特定非営利活動法人D-SHiPS32理事長 上原大祐さん

今回のシンポジウムはオンライン視聴も含めると約90の団体から参加の申し込みをいただきました。前出の日本財団の伊藤麻里子は「ソーシャル・セクターのDXに課題を感じている方が多く、基金への期待値が高いのを感じる」と語ります。

「私たち日本財団も含めてソーシャル・セクターのDXは課題が山積しています。私たち自身、学ばせていただきながら、まだ導入の進んでいないセクターの皆さんの旗振り役になれれば、と思っています」