「遊び」を通じて心の栄養を。おもちゃでWithコロナのコミュニケーションをつなぐ。

写真:特定非営利活動法人芸術と遊び創造協会の磯さん。写真下側に「皆様のご寄付のおかげで、全国で「おもちゃの広場」が開催されます。ぜひ近くの広場に遊びに来てください。芸術と遊び創造協会 磯 忍」の文字。
特定非営利活動法人芸術と遊び創造協会の磯さん

「不要不急」という言葉が飛び交ったコロナ禍。日本全体が命と健康の危機に直面するなかで、二の次にされてしまっていたことがあります。「遊び」もその1つ。コロナ禍では大人だけでなく、子どもたちの遊びも少なからず制限されることになりました。

「遊びは心の栄養」と語るのは特定非営利活動法人芸術と遊び創造協会の磯忍(いそ しのぶ)さん。同団体が運営を支援しているおもちゃを介した交流イベント「おもちゃの広場」もまた、コロナ禍で開催を制限されました。

日本財団は皆さんからいただいた寄付金を活用して、Withコロナになり、おもちゃセットの無期限レンタルを通じて少しずつ交流の場を増やそうとしている同団体をサポートしています。

おもちゃセットはどのように必要としているみなさんのもとに届くのでしょうか。芸術と遊び創造協会の磯さんにWithコロナでの取り組みについて伺います。

芸術と遊びを通じて多世代に心の栄養を

東京都四谷にある東京おもちゃ美術館をご存知でしょうか。メディアでも取り上げられることの多い、良質なおもちゃが集まる遊びの宝庫。この東京おもちゃ美術館を運営しているのが、芸術と遊び創造協会です。

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東京おもちゃ美術館にある赤ちゃん向けの遊び場

東京おもちゃ美術館の運営のほか、遊びのスペシャリストである「おもちゃコンサルタント」の養成・認定、毎年良質なおもちゃを表彰する「グッド・トイ」の選定など、さまざまな事業を通じて、豊かな社会を実現することを目指しています。

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NPO法人芸術と遊び創造協会の磯さん

「私たちは芸術と遊びを通じて、多世代に心の栄養を提供したいと考えています。コロナ禍では、みなさん自分たちが生きていくことに精一杯だったため、芸術や遊びが置いてきぼりになってしまいました。でも、高齢者もそうですが、特に子どもが成長していく過程では、遊びはとても大切なものだと思うんです」(磯さん、以下同)

そして、芸術と遊び創造協会によるもう1つの取り組みが「おもちゃの広場」です。おもちゃコンサルタントがグッド・トイで選ばれたおもちゃの魅力を伝えてくれる、親子、そして多世代ふれあいの場。

誰もが気軽に集うことのできる子育てサロンを地域に開くことを目的に2004年にスタートしたおもちゃの広場は、北海道から沖縄まで全国200ヵ所以上で開催されるようになりました。

「おもちゃはコミュニケーションツールにもなります。おもちゃの広場は、子どもの遊び場であるだけでなく、親子で共に楽しんで遊んでいただくことを大切にしています。18年前に17人の会員ではじめた取り組みですが、今ではおもちゃの広場の開催をしたいという要望が各地域から届くようになりました」

コロナ禍に、遊びは“不要不急”?

おもちゃをきっかけに、地域の人々が遊び、つながり、育っていく場所。おもちゃの広場が地域の人たちにとっても、広場を主催するおもちゃコンサルタントにとっても、かけがえのない場所になってきた矢先、コロナウイルスが日本で猛威を振るい始めました。

おもちゃコンサルタントたちからの戸惑いの声が数多く協会に届きました。

「会場が借りられなくなってしまったり、そもそもこの時勢に人を集めて良いのかという疑問があったり。そういった声が協会に届くようになりました。おもちゃの広場も一時は開催を見送らなくてはならない状況になったのです。
それでも、子どもの成長は待ってくれない、ママたちを孤立させてはいけないと、何とかして地域の広場を続けようと模索する方がたくさんいらっしゃいました。
おもちゃを入れ替えて消毒しながら使えるようにしたり、オンラインで遊ぶ方法を工夫したりと、たくさんの試行錯誤があって、コロナ禍でもおもちゃの広場は続いてきましたが、国内の感染状況に応じて、小規模に開催したり、また延期・中止にしたり、そういったことを繰り返してきました」

活動の制限を余儀なくされたおもちゃの広場。磯さんはこれを仕方のないことだと思いながらも、こういったときだからこそ遊びが必要なのではという葛藤もあったそうです。

「コロナ禍で子育て中の親御さんたちは他の人と話すこともできないし、息抜きもできない。おもちゃの広場は、遊びの場であると共に、ちょっとした子育ての悩みを持ち込める場所でもあるんです。子育ての悩みを抱えながら、もう数ヵ月24時間子どもと家で過ごしているなんて状況は、親子お互いにとってストレスですよね」

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おもちゃの広場のプレ開催を行ったときの様子

全国のおもちゃコンサルタントから届いたメッセージ

現在も新型コロナウイルスの脅威は完全にはなくなっていません。しかし、世の中が少しずつWithコロナに向けて日常を取り戻そうとする中で、おもちゃの広場もまた、その活動を再び活発化させようとしています。

そんな折、日本財団は新型コロナウイルス感染症拡大に伴う支援として、芸術と遊び創造協会がイベントで提供するおもちゃとコロナ対策用品(おもちゃ専用消毒剤)の購入のサポートをすることに決めました。

従来は同団体が用意したおもちゃセットを、おもちゃの広場主催者であるおもちゃコンサルタントがリレー形式で使用していたのに対し、今回のサポートを通じて購入したおもちゃは継続的に利用できる無期限レンタル方式です。

「これまでのリレー形式では各地域の主催者でおもちゃを使い回していたのですが、細かい調整が必要なので、どうしても開催できる回数に制限が生まれてしまいます。ただでさえコロナ禍によって親子でつながる場所がなくなってしまっていた状況だったので、なんとかして開催回数を増やしたいと思っていたところに日本財団さんからご支援のお話をいただきました。
無期限レンタルであれば、対象になった主催者はいつでもおもちゃの広場を開催できるので、感染状況に応じて柔軟にイベントを実施できるようになります。おもちゃの広場を開催したいという人材はたくさんいたので、あとはおもちゃさえあれば、という状況でしたから」

芸術と遊び創造協会は、おもちゃの広場で使用してもらうために子ども用と高齢者用、2種類のおもちゃセットを準備しました。多くはグッド・トイにも選出された良質なおもちゃです。

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無期限レンタルで送られるおもちゃセットの一部

そして、全国のおもちゃコンサルタントに向けて無期限レンタルの募集をかけたところ、定員120人に対して、233人からの応募が集まります。

「私がおもちゃ美術館で感じた感動を地域の親子にも提供したい」
「コロナ禍でも子育ての楽しさや子どもの成長を見る喜びを感じられる社会を作りたい」
「自らのコロナ禍での育児経験から、地域でつながることの大切さを感じた」
など、その応募にはおもちゃコンサルタントのさまざまな想いが綴られていました。

2023年には今回の応募を経て選定された全国のおもちゃコンサルタントのもとへおもちゃセットが送られ、各地で開催されるおもちゃの広場で、子どもたち・親御さんたち・高齢者の方々が手にとって遊ぶことになります。

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おもちゃの広場のプレ開催を行ったときの様子

おもちゃの広場の開催を希望する全国のおもちゃコンサルタントの想いを受け止めながら、磯さんは事業への決意を新たにしています。

「やっぱり人がいる場所に来て、誰かと話すだけでホッとできることってありますよね。コロナの感染拡大の初期の頃に生まれた子どもたちはもう3歳になります。その子どもたちは人とのコミュニケーションに制限があったと思うんです。また自由にママ友・パパ友同士で集まりましょうということができなかった親御さんたちもそうです。
おもちゃを通じて、子どもたちは人とコミュニケーションする力を養ったり、親御さんたちは子育ての不安や楽しさを共有することができる。おもちゃの広場が開催されることで、みなさんが地域とつながっていると感じてもらえればと思います」