【寄付者の声】佐賀県で50年行われてきた「歯の供養」が、時を超えて子どもたちの笑顔に

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佐賀県の小城・多久歯科医師会の皆さん

日本歯科医師会と日本財団が協働で運営する「TOOTH FAIRY」プロジェクト。歯の治療で不要になった金歯や銀歯を全国の歯科医の皆さまから募り、換金することで、さまざまな社会貢献活動に活用させていただいています。2009年のプロジェクト開始後、2023年4月27日時点でこれまでに累計6,961医院に参加いただき、換金総額は2,229,576,165円になっています。

昨年夏、「TOOTH FAIRY」宛に6,574,666円という多額のご寄付をいただきました。送り主は佐賀県の小城・多久歯科医師会の皆さま。バケツ半分ほどの歯牙に着いた金属をご自分たちで換金してご寄付いただいたそうです。でも、その大量の歯はどこにあったのでしょうか。小城・多久歯科医師会の会長、木下務先生にお話を伺いました。

佐賀県の小城・多久に根付く「歯の供養」の慣習

佐賀県の中心部に位置する小城市と多久市。小城市は、小城羊羹で有名な商業地であり、佐賀市とも隣接したベッドタウンでもあります。歯の供養を行っている地元のお寺は、この小城市の北側の山間部に位置します。多久市は、古くは江戸時代中期から採掘を開始した多久炭鉱により、多くの働く人たちで賑わうエリアでした。しかし、1972年に炭鉱が閉鎖して以降、同エリアでは人口減少・高齢化が徐々に進んでいます。木下先生が歯科医院を開業して以降も人口の減少は進み、歯科医院の数も減少傾向にあるそうです。

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佐賀県の小城市、多久市にまたがる天山から見た風景

同地域の歯科医院で構成される小城・多久歯科医師会は、講習会の開催、会員の事務サポートなど、さまざまな活動を通じて地域の医療を支える存在です。そんな同会には、50年以上前から続くある慣習があります。それは全国的にも珍しい「歯の供養」をするというもの。

「6月4日、虫歯の日の前後1週間は全国的に歯の衛生週間とされています。この時期に毎年、亡くなられた歯科医師会の諸先輩方の供養と一緒に、治療で抜いた歯の供養をする習慣があるんです。
1968年頃に始めて、1977年には地元のお寺のご厚意で歯の供養塔を建立。毎年6月になると、会員の先生方が1年間の抜去歯牙を持ち寄ります。塔の前に並べてお経も上げてもらい、順番にお焼香もするんです。それから塔の裏の納歯箱に歯を納める。これが一連の流れです」(木下先生、以下同)

小城・多久歯科医師会の恒例行事として行われてきた歯の供養。はじまったのは木下先生を含む現在の会員の多くが入会する前の話。それにもかかわらずこの習慣は脈々と受け継がれていきました。縦のつながりが強いという小城・多久歯科医師会。1年に1度、歯に向けて揃って手を合わせるこの行事が、会員の絆を深める役割を果たしていたのかもしれません。

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地元のお寺にある歯の供養塔

45年分の歯で保管庫がいっぱいに

しかし、供養塔が建立されてから45年経過した2022年。ある問題が立ち上がります。保管庫が45年分の歯牙でいっぱいになってしまったのです。

「納歯箱はコンクリートで固めたスペースをつくって、鉄板で蓋をして鍵付きで保管していました。でも、もう入らないくらいパンパンになってしまい、これはそろそろ整理しなくてはいけない、と」

そこで会長である木下さんが対応策を思案しているうちに思い出したのが、「TOOTH FAIRY」のことでした。小城・多久歯科医師会は、まだ木下さんが会長になる以前のTOOTH FAIRYの発足当初から参加していました。

「かなりの量の歯が保管されているので、その中には金属が着いたものも相当数あるだろう、と。ただそれはある意味、会員の先生方が持ち寄った歯科医師会の財産ともいえるものです。皆さんに寄付の賛同を得るため総会の決議にかけたところ、快く承認いただきました」

総意で「TOOTH FAIRY」に寄付することが決まると、木下先生と会員の若手歯科医師数名は歯の供養塔へ向かいました。

供養塔があるのは山の中。天気の良い夏の日、木下先生たちは45年分の歯を取り出し、ブルーシートの上にそれらを並べて、金属が着いてるものとそうでないものを1つずつ仕分けていきました。

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納歯箱から、歯を取り出す作業の様子
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取り出した歯はブルーシートの上で金属が着いているものを仕分けしていく

作業を開始してから約3時間。金属が着いている歯はバケツ半分ほどの量になりました。

「大量でしたので、そのまま送るのは大変だということで、私たちの方で買取業者を手配して換金化することにしました。『TOOTH FAIRY』には現金をそのまま寄付しよう、と。業者の方もあまりの量に驚いていましたね」

換金した結果、納歯箱に眠っていた歯から取り出した金属は6,574,666円という多額に。小城・多久歯科医師会はその全額をご寄付くださいました。

時間と空間を越えて、想いがつながる

「TOOTH FAIRY」では皆さまからいただいたご寄付をもとに、ミャンマーでの学校建設のほか、国内で重い病気や障害を抱える子どもたちの支援プロジェクトなど、さまざまな社会貢献活動に活用させていただいています。

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寄付金による支援によって建設された学校の開校式
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早速子どもたちが楽しんでいる遊具もご支援によって設置されました

木下先生にミャンマーでの学校建設の写真をお見せしたところ、次のような感想をいただきました。

「私たちももちろんですが、きっと抜歯した患者さんたちも喜んでいらっしゃるのではないでしょうか。歯を抜くということは、決して喜ばしいことではないケースが多いです。でも、仕方なく抜いた歯牙が結果的に子どもたちの笑顔につながっているわけですから、供養としては最良の形になったのではないでしょうか。

今、写真を見せていただきましたが、やはり歯科医師会の取り組みが、海を越えて学校という形になって残るというのは喜ばしいことですね。今後の『TOOTH FAIRY』の活動にも期待していますし、私たちも微力ながらその助けになれればと思います」

TOOTH FAIRYプロジェクト

日本歯科医師会と日本財団が共同で運営する社会貢献プロジェクト。歯科治療や入れ歯に使う金属をリサイクルし、子どもたちを支援する資金に、累計で6,900を超える歯科医院が賛同し、累計金属リサイクル金額は2,229,579,165円(2023年5月15日時点)に達する。

それを活用し、難病児とその家族を支援するチャレンジキッズプロジェクトとミャンマーの学校建設等を行うスクールプロジェクトを行っている。