【支援者の声】難病や障害のある子どもとご家族へ、歯の妖精から遊びとやすらぎ、そしてつながりを
認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワークが主催する、難病の子どもたちとそのご家族のためのサマーキャンプ「がんばれ共和国」が静岡県島田市川根町で8月4日から3日間にわたり開催されました。
同イベントの開催にあたっては、全国の歯科医師のみなさんのご協力で運営されている「TOOTH FAIRY」プロジェクトからの支援のほか、地元の榛原歯科医師会の協力による歯科検診ボランティアも行われました。
さて、子どもたちとそのご家族はどんな様子だったのでしょうか?
「TOOTH FAIRY」のロゴ入り気球が空を飛ぶ
難病や障害のある子どもたちとそのご家族は、医療的ケアが必要であるため、行きたい場所に出かけられなかったり、リラックスして過ごせる時間がとれないことが少なくありません。そのため、閉じこもりがちになり孤独を感じてしまうことも。
認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワークが主催するサマーキャンプ「がんばれ共和国」は、そんな子どもたちとご家族が、医療ケアの体制が整った環境で、自分たちと近い境遇の方たちと安心して交流できる貴重な場。
1992年に開始以来、現在は岩手、東京、静岡、愛知、兵庫、熊本、沖縄の全国7ヶ所で開催されています。
今回のイベントは静岡県島田市の川根温泉ホテルで8月4日から6日まで開催された「しぞーか(静岡)キャンプ」。
取材に伺った8月5日も乗馬、バーベキュー、物づくり・折り紙、花火とさまざまなプログラムが目白押し。そのなかでも参加者の多くが心待ちにしていた恒例の目玉イベント、それが気球です。
「TOOTH FAIRY」のロゴが入った気球は、車椅子やストレッチャーを乗せることのできる特別製。子どもたちは普段は見ることが叶わない空からの景色を車椅子やストレッチャーから楽しむことができるのです。イベント当日は早朝6時から気球のプログラムが行われました。
「昔からサマーキャンプでは気球を飛ばすのが恒例になっているんです。以前はある企業さんから気球をお借りしていたのですが、それが諸事情で使えなくなってしまいました。そのとき日本財団さんが車椅子のまま乗れる特別仕様の気球を支援してくださいました。子どもたちは本当に気球を楽しみにしてくれています」(認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク 専務理事 福島慎吾さん)
恒例の気球のプログラムが終わると、参加者のみなさんはそれぞれが自分のペースでプログラムに参加して、ひさしぶりの自由な時間を楽しみます。
しばらくの間、コロナ禍により大人数で集まることが難しい状況だったこともあり、一部の参加者の方たちにとってはひさしぶりの再会。会場では旧交を温める様子も見られました。
「キャンプへの参加は今回で5回目です。ここで知り合った人とLINEを交換して連絡を取り合うことも多いので、顔見知りの方もたくさんいらっしゃいます。この子は上手く言葉にはできないんですけれど、そんなちぐはぐなコミュニケーションの仕方でもここのボランティアスタッフやご家族のみなさんは話を汲み取って相手をしてくださるんです。本当にありがたいです」(参加者のご家族)
やっぱり気球が一番楽しかったというご家族。お母様のお話のように、上手く言葉で表現できないながらも、認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワークの事務局次長の本田睦子さんとこの日に撮影した気球の写真を見せ合いっこ。お気に入りの写真を指で指して教えてくれます。2人は以前もキャンプで顔を合わせていてLINEでもつながっている間柄なのだとか。
「がんばれ共和国」はさまざまなご家族にとって普段は体験できない遊びの時間であり、安息の時間であり、つながりが生まれ紡がれていく場にもなっているようです。
歯科医師の皆さまの想いを子どもたちへ
「がんばれ共和国」への支援を行っている日本財団の「TOOTH FAIRY」プロジェクト。歯科医院で治療の際に使った金属をご提供いただき、ミャンマーでの学校建設のほか、今回のような難病や障害のある子どもたちとご家族の支援にも利用させていただいています。
そしてお金の支援だけでなく、キャンプでは「TOOTH FAIRY」プロジェクトに賛同いただいている歯科医師の方による歯科検診ボランティアも。昨年も榛原歯科医師会として参加いただいた柴田歯科医院の柴田武士先生が今年もいらっしゃってくださいました。
歯科検診ボランティアだけでなく、「TOOTH FAIRY」プロジェクトのことを榛原歯科医師会に周知してくださり、金属のご提供にも協力してくださっている柴田先生。
「何か気になることはありますか?」
「はい、あーん」
子どもとご家族と丁寧にコミュニケーションをとりながら手際良く検診を進めます。多くの子どもにとって歯医者さんは多少緊張してしまうことの多い場所ですが、今回はキャンプの楽しげな雰囲気も手伝ったのか、怖がる様子の子どもたちが少ない印象。
会場となったホテルのロビーに訪れた親子が続々と検診の列に並びます。
柴田先生がおっしゃるには、車椅子やストレッチャーで移動する医療的ケア児にとっては、歯の検診をできる場は当たり前ではないのだそうです。
「歯科医院によっては車椅子やストレッチャーで入ることが難しい場合もありますし、子どもを診察台に乗せるのに人手が必要になるケースもあります。すべての歯科医院がすべての子どもたちを診ることができるとは、残念ながら言えません」(柴田先生)
診てあげたいという気持ちがあっても、さまざまな制約が生まれてしまうのは仕方のない部分もあるのかもしれません。そのなかで柴田先生は自ら積極的に県内のこども病院に研修に行くなどして、難病や障害のある子どもたちのケアについても学んでいるそうです。
「今日来てくれているような子どもたちは学校に通っているうちは検診がありますが、そこから離れてしまうと検診の機会は極端に減ってしまいます。そういう子どもたちを私たち歯科医師もできるだけ診てあげたい。行政とも協力しながら、できるだけ歯科医師側も敷居を下げられると良いですよね。その窓口に自分がなりたいという気持ちはあります」(柴田先生)
また今回のボランティアに歯科医師が参加することの意義を次のように話してくださりました。
「現場に来ると、こういう子どもがいるのかと発見や学びがたくさんあるんです。医院のなかにいるだけでは、わからないことがたくさんありますから。外に出てこういう活動をすることで、自分たちにもまだできることがあると感じられます。そういった意味でもボランティアに参加する意義は多いにあると思いますね」(柴田先生)
最後に柴田先生に今回の検診の結果について聞くと、とても健康な歯の子どもが多かったとのこと。ご家族のみなさんが大切にケアしてあげているおかげかもしれません。もし来年もサマーキャンプで歯科検診が開催されたら、また健康な歯で会いましょうね。