入院中の子どもたちに夢と希望を届けるテクノロジー

「ベットの上でスポーツを体験できる環境を実現したいとずっと思っていました。入院中は時間がたくさんあるので、もしスポーツを疑似体験できれば、退院後に挑戦してみたいスポーツが明確になり、希望が持てると思います。」と、パラアイスホッケー日本代表であり、D-SHiPS32の代表である上原大祐さんは言います。

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取材を受ける上原さん

上原さんは、障がい者の公共運動施設利用が制限される日本の現状に強く問題意識を感じており、北米へホッケー留学中に、子どもや障がいをもった方が心からスポーツを楽しんでいる光景に感銘を受けました。日本にも障がいの有無に拘わらず利用できるスポーツ施設を作りたいという想いからD-SHiPS32を設立。北米でスポーツの普及方法について学びつつ、子どもたちの為のスポーツ体験会を開催してきました。 
障がいがあることによってスポーツ施設の使用が制限されてしまえば、制限された子どもの自尊心を傷つけ、その子の将来に深く影響を与えてしまう。障がいの有無に限らず、全ての子どもがスポーツを楽しめる施設を増やしていきたい、という強い想いが上原さんの根底にあります。その想いのもと、D-SHiPS32では、障がいを持った子どもたちの夢や可能性を広げる活動を行っています。

D-SHiPS JOURNEYでの探索を楽しむ子ども

テクノロジーを用いて新しい社会教育の場を創出

今回、Google.orgからの寄付を受け実施した事業では、VRやARというテクノロジーを活用し、特別支援学校や入院中の子どもたちの体験機会を増やすことを目的に「D-SHiPS JOURNEY」の開発を行います。今回開発した「D-SHiPS JORNEY」は、「子どもたちの未来に船を出そう」というコンセプトに、特別支援学校や入院中の子どもたちにメタバースを通して、新しい社会教育の場を創出するものです。

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子どもたちにオンライン上で様々な社会体験を提供する「探索の島」

具体的には、全世界で5億人以上の登録アカウントを持ち、ゲームや作品をデザインするための幅広いサービスを提供しているFortniteを活用し、「探索の島」と「アクティビティの島」を作りました。
「探索の島」では、子どもたちが自由に探索を行いながら春夏秋冬の季節を楽しむことができるコンテンツを用意。探索の中では、“電車に乗ってみる”、“ピアノキーボードで演奏を楽しむ”、“サッカー場でスポーツを楽しむ”など複数の体験型コンテンツもあります。

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「探索の島」内の商店街

「アクティビティの島」では、足し算をしながら探索を行う“足し算アドベンチャー”など体験学習にフォーカスしたアクティビティを提供しています。

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計算能力を向上できる「アクティビティの島」

テクノロジーで子どもたちの知的好奇心を刺激

このような、テクノロジーを活用することで、入院中の子どもたちはスポーツ体験、植物育成、旅行など、様々な体験ができるようになります。近い将来、リアルとバーチャル、バーチャル同士で日本と世界を繋げることができるようになると上原さんは言います。
「入院中でもテクノロジーを活用することで、外の世界に興味を持つことができれば、子どもが主体的に情報を得てコミュニケーションが取れるようになります。繋がりを沢山作ることは非常に重要で、同じ病気を抱える子どもたちが仲間意識を持ち、支え合うこともできるようになります。実際に、仲間意識を持つことで免疫を上げガンが治癒した研究結果もあり、将来的には本事業を通じて子ども同士の免疫力が向上すれば病気を完治することもできるのではないか」と事業の可能性を語ってくれました。

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コンテンツを楽しむ親子

今回の支援により、子どもたちが利用するメタバース・VRによる体験コンテンツの開発ができました。現在、一部の特別支援学校で試験的に導入し、仕組みを作っている段階です。将来的には日本の全ての特別支援学校(生徒数15万人)、小学校や小児病院への導入を目指しています。 

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コンテンツを体験できるイベントを開催

企業が社会課題に取り組む意義と可能性

「特別支援学校等へ導入するためには、導入先の教員やスタッフのITスキルの向上も不可欠です。そのためには、職業上のスキルや経験を生かして取り組む社会貢献活動(プロボノ)をされる方の力が必要となってきています。既に、日本を代表するIT企業であるNEC、富士通のプロボノ部に協力してもらっているものの、支援を拡大するためには、企業の垣根を超え、各企業がプロボノ部を作り、各特別支援学校に教員への支援をしていただければ、導入時の課題を解消に繋がりそう」だと上原さんは感じています。 

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ベッドの上でも学習を続けることができます

「今後は日本財団とともに企業を超えたプロボノ部を作る可能性を模索していきたいです。企業が社会課題事業に参画することで、社内にインパクトをもたらすことができると思っています。自分の会社が取り組んでいる社会課題を社員が知ることで、社員が外に発信し、社外インパクトに繋がり、また、企業としても、社会課題を解決することによるビジネスインパクトも大きくなります。そのためにはまず、企業が社会課題について知ることから始めることが重要だと思っています。」

障がいがあっても、外出が難しい状況でも、メタバース上で体験が共有できる「D-SHIPS JORNEY」が、子どもたちの夢と挑戦精神を育てる夢の場所となることを期待しています。