【田渡凌】プロアスリートとして“与えられてきた”感謝を社会に還元したい

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取材に対応いただいた田渡選手

2023年8月7日、HEROsの支援事業として、一般社団法人日本バスケットボール選手会(以下、JBPA)による小学生から20代までの障害のある人たちを対象にしたバスケットボールクリニックが開催されました。

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開催されたバスケットボールクニックでの集合写真

当日、ボランティアとして参加してくださったのはアルティーリ千葉の選手であり公認会計士でもある岡田優介選手と熊本ヴォルターズの小林慎太郎元選手。さまざまな障害のある参加者は、それぞれが自分たちのペースでバスケットボールを楽しみました。

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リンク近くまで持ち上げてもらってシュート
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イベントでは選手からサインをもらえる機会も

今回の活動には皆さんから日本財団へ預けていただいたご寄付を使わせていただいています。JBPAはなぜ、こういった活動に取り組んでいるのでしょうか。
同団体会長でHEROsプロジェクトを共に推進するHEROsメンバーでもある現役プロバスケットボールプレーヤーの田渡凌選手からJBPAの取り組みについて教えていただきました。

僕たちも楽しませてもらっているし、学んでいる

「JBPAではもともと自分たちを必要としてくれる方々の力になるため、プロバスケットボール選手にきて欲しい人たちからの公募で全国各地へ赴く『JBPA ASSIST』という活動をしています。
その活動のなかでも未来の子どもたちのための活動は大きなウェイトを占めていて、子どもたちとの交流をとても大切にしています」(田渡選手)

今回、HEROsの支援による取り組みとして、子どもや若者を対象に3つのプロジェクトを実施しましたが、そのうち、「熊本市白坪小学校バスケットボールクラブでのプロ選手との交流」「流通経済大学スポーツコミュニケーション学科を対象にしたバスケットボールに関連するキャリア講義」には田渡選手も自ら参加をしています。

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熊本市白坪小学校バスケットボールクラブでのプロ選手との交流の様子

「流通経済大学に訪問したときはバスケットに関わる仕事を志している学生たちにキャリア講義ということで、僕が1人で伺い、自分の経験やこれまでの人生の選択についてお話させていただきました。

白坪小学校への訪問は僕の他に2名の選手も参加してくれたのですが、コーチがいないというチームに、スキルや練習方法などについて教える機会をいただきました。

どちらにも共通しているのが、結局自分たち自身が子どもとの交流で楽しませてもらっているし、逆にいろいろ学ばせてもらっているということです。そういう意味でもとても意義のある取り組みになったと感じています」

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熊本市白坪小学校バスケットボールクラブとの交流時の田渡選手

田渡選手は残念ながら冒頭ご紹介した障害のある方を対象にしたバスケットボールクリニックには参加できませんでした。しかし、会長としてJBPAが障害者向けの取り組みを行うことの意義について次のようにお話してくださいました。

「僕自身はその活動には参加できずに、岡田選手と小林元選手が訪問してくれました。これは僕の考えになるのですが、これまで僕たちはバスケットボールをはじめてからプロになった今も、たくさんのものを与えられてきた存在だと思うんです。与えられてきたものが多いからこそ、それを還元しなきゃいけない義務がある。

バスケットボールをしていると輝ける瞬間がたくさんあります。その瞬間を皆さんにも少しでも味わって欲しいし、できれば一生の思い出になって欲しい。各選手がそれぞれの気持ちで活動していると思うんですけれど、僕はそういう気持ちです」

田渡選手はJBPAでの取り組みのほか、個人的にも障害者を対象にした社会貢献活動を行ってきた経験があります。2019年にはTAWATARI PROJECTとしてバスケットボールを好きなタレントなどに声をかけて、一般参加者のほか知的障害のある方たちを対象にチャリティイベントを開催しました。

田渡選手が社会貢献活動に積極的に取り組む背景には、田渡選手の生い立ちが関係しています。

「僕の母親が特別支援学校の教員をずっとやっていて、幼い頃から障害のある子どもと触れ合う機会が多かったんです。また、アメリカ留学をしたときの経験もあると思います。アメリカの大学では一定の時間を地域貢献活動に使わなくてはいけないというルールがあって、そこでも障害のある子どもたちと触れ合う機会がありました。そのときから、自分がプロ選手になったら、社会貢献活動をしたいという思いがずっとあったんです」

皆さんの寄付がなければ、実現しないことがあります

田渡選手はJBPAの会長としても1人のプロバスケットボールプレーヤーとしても、今後も社会貢献活動はずっと続けていきたいと話します。ときには自らプレーすることで、ときには他の人のプレーを観ることで、多くの人を楽しませてくれるスポーツという存在。田渡選手はスポーツの可能性をどう考えているのでしょうか。

「僕は、人生で大切なことの9割はバスケットボールから学んだと思っています。私生活も、人付き合いも、先輩や目上の方との接し方もそうです。バスケットボールはいろいろなバックグラウンドをもった人たちがいろんな思いでやっている団体競技です。相手の気持ちを考えたり、どういうコミュニケーションを取ることが良いのか、集団の中で生きるために必要なことの多くを学べたように思います。

プロスポーツ選手としては、活動をするなかで得られた言葉の力があると思います。自分のファンでいてくれる方もいれば、チームのファンもいます。そういう応援してくれる人がいる立場だからこそ、そこで得られた発信する力をプラスに向けることもできます。

たとえば、先日HEROsのミーティングで気候変動や海洋ごみ問題に繋がるプラスチックゴミの問題について学んだのですが、『最近ペットボトルで飲み物を買わないようにしている』と発信するようにしているんです。そういう発信をすることで、同じことをしてくれる人がだんだん増えて、社会に浸透していく。プロスポーツ選手にはそういう可能性があるんじゃないかなって」

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流通経済大学でキャリア講義を行った際の田渡選手

最後に、田渡選手から寄付者の皆さんにメッセージをいただきました。

「今回の取り組みで言えば、自分たちにできるのは現地に訪問して一緒に運動をすること。それを実現させてくれているのは寄付をしてくださっている皆さんです。自分たちがしていることはほんの一部。そう思うくらい、寄付者の皆さんの力は大きいです。

寄付の金額は関係なく、皆さんの寄付をするという行動がなければ実現しないことがあります。この場を借りて、感謝をお伝えしたいです。

僕としてもJBPAの会長として、社会貢献活動に興味を持ってくれる選手を増やしていきたいし、その結果世の中で社会問題の認知が上がっていけばと思っています。社会問題は挙げればきりがないほど、たくさんあります。これまで行っていた活動を続けていくことはもちろん、新しい課題を取り上げていくことができればと思います」

プロスポーツを応援することがアスリートの力になり、それに感謝してくださったアスリートの方たちが社会に還元しようとしてくれる。
今、そんなスポーツに関わるプラスの循環が生まれています。スポーツを応援することでも、社会貢献活動を円滑に行うための寄付でも、ぜひ皆さんにもこのプラスの循環にご参加いただければと思います。