なぜ日本財団は、企業トップの結束した行動で社会変革を目指す「SYNC25」を主催するのか

「世界のビジネスリーダーの結束した行動(Collective Action)で、障害者排除を終わらせる(To End Disability Exclusion)」
英国に拠点を置くThe Valuable 500 Foundation(V500)が掲げるマニフェストです。
V500は、2019年のダボス会議で視覚障害のある社会起業家、キャロライン・ケーシー氏と、ユニリーバの元CEO、ポール・ポルマン氏によって設立されました。フォーミュラEのCEO、ジェフ・ドッズ氏が理事会議長を務めています。
V500には日本を含む世界中のCEO500名以上が参加し、それぞれが自らの名前で、自社の障害者インクルージョンに関する具体的なコミットメントを公表しています。目指すのは、企業トップの決断が社会を動かすという、“リーダーシップ・ドリブン”の社会変革です。
なぜ日本財団が企業の取り組みを支援するのか
「なぜ、非営利組織である日本財団が、営利企業の取り組みを支援するのか?」
これは、私自身が財団内で何度も問われた問いです。
日本財団はこれまで半世紀以上にわたって、障害者の社会参加を支援してきました。私も過去8年間、海外における障害者支援の責任者を務めてきましたが、その中である現実に行き着きました。これまでのように政府・国際機関・NGOなどの非営利組織だけに働きかけても、障害者の社会参加は進まないということです。
社会参加の一番シンプルな出発点は「働くこと」です。そして最大の雇用主は、民間企業です。さらに、障害者が日常生活で接する製品・サービスの多くも、企業によって提供されています。つまり、障害者の自立と社会参加に関して最大の影響力を持つのは“企業”なのです。
企業が変わらなければ社会は変わらない。現実を直視し、V500への支援を決めました。
国際社会の誤解に、日本から声を上げる
もうひとつ、日本財団がグローバルな活動であるV500で積極的な役割を担う理由があります。それは、日本の障害者雇用の仕組み、とりわけ「特例子会社制度」への国際的な誤解を正したいという思いです。
国際人権団体の多くは、日本の特例子会社を「障害者を1か所に集める排他的な制度」と批判します。しかし、現実には多くの企業が、従業員の満足度を高める工夫を重ねており、欧米の一元的な価値観が必ずしも正解ではありません。
この日本独自の実践や価値観を正しく伝え、理解を得なければ、日本の声が反映されないまま、国際ルールができあがってしまう。私たちが最も恐れる事態です。
50年前、すでに日本企業は理想を先取りしていた
世界の障害者インクルージョンの活動家たちが、必ず驚く日本の事例があります。それが、大分県別府市の「太陽の家」と、そこから始まった企業の連携です。
半世紀以上前、オムロンの創業者・立石一真氏の決断により、障害者の雇用を目的とした子会社が別府に設立されました。そこにソニーの井深大氏、ホンダの本田宗一郎氏、三菱商事、富士通の経営者が続きました。別府に障害者雇用を積極的に進める企業城下町ができあがりました。
働く障害者が増えると、地元の店は、お客として来てもらおうと自発的にバリアフリーを進めました。納税者となった障害者の声はより政治に届き、行政の対応も変わりました。障害のある人が身近にいることで住民の間の偏見は無くなりました。企業トップのCollective Actionが50年の時を経て、別府を世界でもユニークな障害インクルーシブな街に変えたのです。トップの決断が企業だけでなく、地元社会をも変えた具体的な事例です。
この別府のストーリーこそ、V500が掲げる理想の先駆けであり、日本から選択肢のひとつとして、世界に示すことのできる未来の社会の姿です。
SYNC25:日本企業が世界を変える
こうした日本の実践と価値観を、世界に示す絶好の場が「SYNC25」です。企業トップのシンクロした行動(Synchronized Collective Action)で社会を変えることを目指すという意味でSYNCと名づけられました。2025年12月、東京で開催されるこの国際会議には欧米企業のCEOや担当役員が集結します。日本企業にとって最大の発信の場となります。
ここでは、ビジネスにおける障害インクルージョンのあり方が議論され、今後の国際ルールの形成にも影響を与える可能性があります。
日本企業が声を上げなければ、欧米の価値観だけで今後の基準が決まってしまう。
それを避けるために、私たちは日本企業の皆さんと障害者のウェルビーングと企業の社会的役割に関して欧米の企業とは違う選択肢を提示したいと願っています。
最後に:企業の未来に障害者インクルージョンは不可欠です
企業における障害者インクルージョンは、CSRにとどまる課題ではありません。
それは多様な人材が活躍できる、持続可能で革新的な企業経営の基盤そのものです。
V500がCEOの名前でのコミットメントにこだわるのは、「経営者こそが社会を変える力を持つ」と信じているからです。
SYNC25で、日本の企業が結束し、世界に向けて力強いメッセージを届けてくださることを心から期待しています。
日本財団 常務理事
樺沢一朗
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日本財団 障害インクルージョン推進チーム
- 担当:和田、中村
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