水素エンジンゼロエミッション船実証運航コンソーシアム~海運におけるゼロエミッションの実現を目指して~
プロジェクト概要
2026年を目標に水素専焼エンジンを搭載したゼロエミッション船の開発・実証運転を行うほか、水素を供給するインフラ整備(水素ステーション)も行います。実際に船舶を運航する方々のニーズにあった選択肢を提案することができるよう、水素のみを燃料として動くエンジン(水素専燃エンジン)、または水素と合成燃料やバイオ燃料(植物由来の燃料、例えば一般家庭から出るてんぷら油等)を組み合わせて活用することができるエンジン(水素混焼エンジン)などの技術開発に取り組んでいます。経済性と安全性を兼ね備えた付加価値ある提案を行いゼロエミッション船の普及に貢献します。
開発状況(2024年9月現在)
現在、①水素燃料タグボートの開発に向けた検討、②水素混焼エンジン発電機の陸上運転に向けた検討、③水素エンジン研究開発センターの構築に向けた検討を実施しています。
①水素燃料タグボート
大出力の水素エンジンや大容量の高圧ガス貯蔵並びに供給システムを船舶で安全に運用するための課題を整理することを目的として、水素混焼エンジンを搭載したタグボートを開発中です。水素供給インフラの整備段階においても安定して使用することが可能な船舶です。タグボートは船の大きさからは想像もできないほどの高出力なエンジンを載せています。今回の開発ではタグボートから排出されるCO2排出量を従来のエンジンに比べ、最大80%削減することを目指しています。現在は常石造船において来年後半の竣工を目指して建造を進めています。
②水素エンジン発電機
ゼロエミッション船には、複数の水素専焼エンジンを発電機と組み合わせた電気推進を採用します。まずは陸上で使用できる発電装置セットを開発することで、船舶に搭載する前に専焼エンジンの試運転と課題整理を行います。現在はエンジンの製造と発電機セットの設計、各種規制への対応に取り組んでいます。
③水素エンジン研究開発センター(一部助成)
水素エンジンの更なる性能向上や様々な環境規制への適合の確認を実施するために、排気ガス分析・燃焼解析装置などの計測機器を備えたエンジンテストベンチを有する研究開発センターを9月4日に開設しました。同センターでは船舶への水素ガス供給が可能な水素ステーションの建設も並行して行っており、水素ステーションは2025年前半の竣工を予定しています。
開発のポイント
自動車などに比べて非常に大きな出力が求められる船舶の動力源において、十分な航続距離や速度といった性能と経済性を兼ね備えた実用的なゼロエミッションの達成は困難と考えられています。
そこで、今回のプロジェクトでは以下のポイントを重視して設計を行っています。
- 水素専焼(ゼロエミッション)、水素混焼(50%以上のCO2削減)、軽油専焼の3モードでの運航が可能なシステムを開発します。
- 経済性や運用面(メンテナンスなど)を考慮して液体水素ではなく高圧水素ガスを採用し、また高圧ガスを取り扱う機器類については極力市販されているものを活用します。
- 高圧水素ガスの船舶への充填についても実際の設備を我が国で初めて建設・運用することで、船舶の開発・実証のみならず普及に向けて必要なノウハウの確立を図ります。
今後について
水素燃料タグボート建造、水素混焼/専焼エンジン発電機試作検証が完了しゼロエミッション船の設計に着手。並行して水素エンジン搭載船舶への水素の充填に必要となる浮体式の船舶用水素ステーションの建造も行います。
更なる水素エンジンの技術開発については船舶の開発と並行し、陸上の重機・農機・港湾荷役設備など様々な分野で水素エンジンの適用を目指し、あらゆる角度から水素エンジンに関するノウハウを蓄積・活用していきます。水素タンクや高圧ガスバルブなどこれまで船舶で使用されていなかった機器を環境の違う海上で安全に利用することに向けて関係先と協働します。
関係者コメント
町田 聡(ジャパンハイドロ株式会社 開発企画部長)
皆さん身の回りにある高出力が出せて信頼性が高いエンジン。これに水素という環境負荷の少ないエネルギー源を組み合わせた、水素エンジンに我々は取り組んでいます。まずは、水素エンジンを搭載した発電機セットが、開発に関わっていただいた皆さんのご協力により完成しつつあります。また、近い将来にはゼロエミッション船をはじめ、ユーザー様から期待される多様な用途に対応できる製品やモビリティをお届けして参ります!
藤井 雄規(常石造船株式会社商品企画部 機電計画グループ)
水素を活用する船舶の構築は世界的にも実績が少ない中、2021年には水素と軽油を組み合わせて走ることのできる旅客船が商用化されています。最先端の船に乗船した子どもたちにとって“水素”を身近に感じつつ学ぶことができる場にもなっていました。CO2を排出しない船舶を実現させるには様々な技術的ハードルもありますが、この先ゼロエミッション船を普及させていくことになるであろう子供たちにとって少しでも貢献できる取り組みになることを期待しています。