障害者就労支援プロジェクト
(はたらくNIPPON!計画~はたらく障害者サポートプロジェクト)

障害者就労施設の意識改革/自立支援に約100憶円助成

厚生労働省発表の「平均工賃月額の実績」によると、全国でB型就労に従事している障害者は約28万人いるが、月額工賃は平均で16,369円(2019年度)と、決して恵まれているとは言い難い。この状況は、かれこれ半世紀に及んでいる。
改善を阻んでいる一因に、「生きがい」や「居場所」といった定性的指標の多い福祉的就労に経済的数値を持ち込むべきではない、といった古い考え方が背景にあるためとされている。
また、全国に1万2,000を数える就労現場の多くでも、障害者の就労を確保していれば、国や行政からの補助金により事業所運営は成り立つ構造も、事業者による自助努力を阻んでいる。
国としても20年にわたり障害者の「工賃倍増計画」に取り組んでいるが、成果は微増に留まり、改善されているとは言い難い状態が続いている。
こうした状況に鑑み、当財団は福祉的就労に対し、1980年以降2,462件、約111億円を助成してきた。特に、2006年の障害者自立支援法(現・総合支援法)施行後は増加が顕著で2,350件、総額で約100億円を助成している。

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モデル事業(団子茶屋郡上八幡)
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モデル事業(スープカフェsign with me)

当財団は、障害者の就労環境改善を目的に2015年から「はたらくNIPPON!計画」を展開してきた。
同計画は「モデル事業」と「就労支援フォーラムNIPPON」の2本柱からなり、モデル事業は、当財団と団体間で工賃の向上を共通目標に、丁寧かつ大胆に各地域で事業を展開した。
32にも及ぶその事業内容は、低工賃からの脱却はもとより、それぞれの地域の特性を活かすこと、重度障害者の就労も実現することなど、画一的ではない多彩なテーマをより強力に推し進めることを主眼とした。
中でも特筆すべきは「鳥取工賃3倍増プロジェクト」での成果であろう。同プロジェクトは事業所単位ではなく地域単位で工賃向上に取り組んだことで、障害者の工賃が3倍以上となり、都道府県単位での工賃伸び率も全国1位を記録するなど、その成果は目覚ましいものがあった(「縮小社会の中でも持続可能な仕組みづくり」参照)。
一方、雇用する側の意識改革を目的にした「就労支援フォーラムNIPPON」は、回を重ねるごとに参加者が増加、毎年1,500名以上が集う我が国の障害者就労支援のプラットフォームに成長。雇う側である健常者が障害者に持つ画一的なイメージの改善に役立ち、障害者の就労を強力にバックアップした。

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就労支援フォーラムNIPPON

プロジェクトの進化

「はたらくNIPPON!計画」は、開始から5年間で全国に工賃向上のモデル事業を展開してきた。一方で、モデル事業の数が増えても、賃金向上を図れる収益力の備わった施設は一部に留まることも見え始めた。このため波及効果も限定的で、福祉的就労全体におけるイノベーションには至らないジレンマも抱えていた。
そこで同プロジェクトをより強力に推し進め、特定のモデル作りに留まらず、誰もが活用可能なシステムで工賃向上を可能にするインフラ作りを目指す「日本財団はたらく障害者サポートプロジェクト」が2019年よりスタートした。
同プレジェクトがモデルにしたのは、前述した「鳥取工賃3倍増プロジェクト」事業のうち最も成果のあった「共同受注と共同作業」方式だ。取り組む事業者の能力を選ばず、地域の広範囲に成果が認められた工賃向上システムだ。
軽作業レベルを維持しながら、業務受注のあり方を見直すことで高単価な業務の受注が得られる同システムは、良質な業務を各施設に供給するほか、高価な設備が必要な業務には共同作業場を整備し、複数施設が従事できる体制を整えた。その結果、この新たなシステムに参加する施設全てにおいて工賃が向上した。
その方式に倣い、今後の計画では全国規模で官民から収益性の高い業務を専門機関が受注し、都道府県窓口を通じ施設に斡旋。高収益化への構造改革で工賃を向上させる計画だ。この仮称「工賃倍増センター」構想の実現を視野に、すでに複数の自治体と協定を締結。まだ試験的段階ではあるが、同システムを用いた事業が始動した。

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工賃向上協定式(宮城県)

もう一方の柱、「就労支援フォーラムNIPPON」は、財団単独開催から、関係13団体との協働企画体制に進展。意識変革を求め続ける内容に、当初、関係機関からの反発も少なくなかったフォーラムだが、それぞれの理念を大切にしながら、大きな方向性で集結、行政や政治に対しても一定の発言力を有するまでに発展した。また、東京以外での地方開催など、参加者のすそ野も広がっている。

これからの10年

当財団は、障害者就労のうち、助成申請の多い福祉的就労に重心を置き、その改善と進化に取り組んできたが、福祉から企業への移行、定着など、課題は多岐にわたると認識している。
福祉的就労の改革に留まらず、企業での就労、さらには起業など、次の10年もイノベーションを生み出す努力を当財団は続けていかねばならない。障害者が社会保障上の保護の対象としてではなく、経済活動に不可欠な「人財」として認知され、それぞれの人生に生き甲斐を持てる社会を目指して。
(竹村 利道/公益事業部)

本事業における「日本財団という方法」

日本財団は、助成申請を通じ当事者と関わる。申請の採否に留まらず、その事業を俯瞰し、共通する課題を分析、可視化、解決への道筋を作る。現場の声(助成申請)から導き出したその骨太の知見は行政との対話で軽んじられることは決してない。この唯一無二の立場として、全ての申請に真摯に向き合うことはもとより、プロフェッショナルとして、現状に満足することなく、成長し続けていくことが何より重要だと再認識した。

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竹村 利道