世界保健機関(WHO)総会 笹川健康賞授賞式

スイス・ジュネーブ

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長

リー・ジョン・ウォック世界保健機関事務局長の突然のご逝去を心からお悔やみ申し上げます。リー事務局長と私にはご一緒に仕事をする数多くの機会がございました。

リー事務局長は、世界中の人々のすばらしい友人であっただけでなく、個人的なことではありますが、私にとってハンセン病との戦いを共にする仲間でありました。

われわれ皆にとってかけがえのない方を失ったことに深く悲しんでおります。ご冥福をお祈り申し上げます。

笹川健康賞は、世界保健機関(WHO)のヘルス・フォー・オール(すべての人に健康を)というイニシアチブに答える形で設立され、今年で22回目を迎えました。

ヘルス・フォー・オールの意味するところは、すべての人が健康な生活を享受する社会を実現することであり、そのためには、診療、治療、投薬のような医学的な活動の実践と同時に、人々が健康な生活を送れる社会環境を作り出し、それを維持するための社会的活動の実践が重要な意味を持ちます。

この二つの活動すなわち医学的活動と社会的活動の両方が車輪の両輪となって始めてヘルス・フォー・オールが可能になるといっても過言ではないでしょう。そしてそのどちらにも、地域の人々の生活に密着した地道で忍耐強い活動が必要とされます。

笹川保健賞は、人々の日常生活に密着したプライマリヘルスケアの分野で、医学的な貢献のみならず、社会的な貢献の著しい個人や組織の活動をも幅広く取り上げて顕彰することを、賞の精神としています。

写真:笹川健康賞授賞式の様子

本年は、医療面のみならず、特に社会的分野で長年にわたり価値ある活動を継続してこられた2団体が選出されました。本賞の趣旨に沿ったすばらしい団体を選出していただいたWHOと選考委員の皆様のご努力に厚くお礼申し上げます。

アガペ農村保健プログラム(Agape Rural Health Program)は、E.C. ミゲル博士の指導のもとで、医療サービスの行き届かないフィリピンの農村コミュニティの住民の健康状況を改善するために、予防と周知に重点を置いた総合的なヘルスケア活動(holistic health care)を通じて、住民が健康な生活を送るための基本的な知識の普及を図ってきました。

設立以来過去20年の地道な活動の結果、4,000人のコミュニティのリーダーやボランティアがトレーニングを受け、57,000人の人々がその恩恵を受けてきました。

もうひとつの受賞者、国際ハンセン病連合(ILU/International Leprosy Union)は、S.D.ゴカレ博士の指導のもとでハンセン病患者、回復者の社会復帰を図る活動を推進してきた組織です。

ハンセン病を「社会の病気」と位置づけ、過去20年以上にわたってインドを中心にハンセン病に対する社会の誤った認識を正し、回復者やその家族のエンパワーメント、社会への統合を図ってきました。

ハンセン病は、古くから人々に恐れられてきた病気で、患者や回復者に対する強い社会的偏見と差別を生んできました。治る病気となった今でも、一度ハンセン病にかかった人々は、その家族までもが社会に受け入れられることなく隔離生活を強いられています。

ILUは差別をよりひどくするのではという恐れから沈黙してきたハンセン病患者と回復者に働きかけ、彼ら自身が声をあげることが、社会のハンセン病に対する誤った認識を変えることにもっとも力をもつと考え、回復者の組織化と社会啓蒙活動を地道に続けてきました。

彼ら回復者によるハンセン病に関する正しい知識の普及は、新患の早期発見を進め、社会的なスティグマをなくすことに大きな効果があります。

ご存知のとおり、インドは、昨年の末にハンセン病の制圧を達成しました。しかし、これは、あくまで「公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧」であり、「社会問題としてのハンセン病の制圧」への戦いはまだ道なかばです。病気と差別の両面での制圧に向けて、ILUの今後の活動に大いに期待しております。

今回の両受賞者は、病気に対する社会の正しい知識を高める、誤った認識を正すという社会教育活動に力を入れておられる点で共通しております。

人は病気になれば、適切な治療を受ける権利を有しますが、医療サービスが十分でないところでは、病気に対する予備知識が大変重要なことは明らかです。

そして、万一病気にかかった場合でも、その病気のために社会から不当な差別を受けないこと、そのために社会の側が病気に対する正しい知識をもつことはいっそう重要です。

両組織が、今年度の受賞者に選ばれたことを改めてお祝い申し上げます。この受賞が両組織の今後の活動をさらに前進させる契機となり、人々の健康と幸福にさらなる貢献をされることを確信しております。