国連平和大学入学式
人生の新たな門出を迎えようとしている30名の優秀な皆さんに心よりお祝い申し上げます。
皆さんは、国籍、職歴、年齢など非常に多様なグループです。しかし世界に目を向けると、例えばアジアだけを見てみても、その多様性は実に豊かで、皆さんのグループでさえも及ばないほどです。この多様性こそが私たちの世界や地域を恵まれた素晴らしい場所にしているのです。
同時に、この多様性—さまざまな政治的、民族的、文化的、宗教的見解—が、時に紛争の原因となるということも否定できません。私たちはあまりに多くの紛争や戦争の只中で生きています。アジアだけでも、今この瞬間に、タイ南部、フィリピン南部、スリランカ北部および東部をはじめ数多くの深刻な紛争が起こっています。
これら紛争の根底にあるのは異なるものを受け入れる心の欠如です。平和は暴力の不在だけでなく、違いを受け入れる寛容性と多様性を尊重する心が存在して生まれるものです。
世界では、紛争を調停し、異なるものへの寛容性を推し進め、平和を構築し維持していく意思・資質・スキルを有する人材が強く求められています。しかし残念なことに、このような人材は極端に不足しています。
その理由のひとつとして、平和や紛争の問題に取り組む人材には稀な資質が求められるということがあげられます。これら人材には、偏りのない心、変化を起こそうという強い願望、そして社会のより大きな利益のためには個人的な犠牲をいとわないという姿勢が求められます。言い換えれば、今日ここにいる30名の皆さんのような人材がより多く緊急に求められているのです。
とは言っても、これら資質は非常に重要な前提条件であり、大きな可能性を示すものではありますが、平和構築・維持に係る複雑な課題に対処するには必ずしも十分ではありません。
皆さんのような人材が自らの長所を高め、これら問題に取り組む上で不可欠なツールを身に付けることが出来る場所が必要です。
ローカルな視点とグローバルな視点の両方から物事を見るための能力を養う場所。
国際平和や紛争問題に係る概念や方策について、より理解を深めるための場所。
国境を越えた平和問題への取り組みに必要な言語能力や国際的人脈を育む場所。
しかし残念ながら、世界にはこのような場所が十分にあるとは言えません。この問題は、数多くの紛争を抱えるアジア地域で特に深刻です。このような理由から、日本財団は平和大学およびアテネオ・デ・マニラ大学との協力により、国際平和研究デュアルキャンパス修士プログラムを設立しました。
私たちは何よりもまず、アジアの平和構築と維持に効果的に取り組む上で求められる知識、スキル、ネットワークを育てることができる場を提供したいと考えています。
私たちの夢はここがゴールではありません。この平和大学国際平和研究デュアルキャンパス修士プログラムの設立が、地域の平和構築プロフェッショナルの育成強化に向けた第一歩となってくれることが私達の願いです。
皆さんはプログラムを通じて必要な知識、スキル、仲間を得て、卒業後は地域の平和構築・維持に大きな役割を果たすことでしょう。
このプログラムで学んだことを実際の現場で生かし、経験を多くの人に伝えることで、人々に皆さんの志を継ぐよう後押しすることが出来るのです。
更に、平和構築の現場での皆さんの貢献をひとたび眼にすれば、より多くの地域教育機関が平和構築のエキスパートの育成に力を入れてくださると思います。
より多くの人が平和問題に携わる職業を目指し、より多くの人が知識や経験を人々に伝え、そしてより多くの教育機関がこれら人材の教育に力を入れることで、近い将来、平和構築のプロフェッショナルが地域に多く誕生すると確信します。
このようなプロフェッショナルの集まりが存在するだけでは地域に平和をもたらすことは出来ませんが、少なくとも平和への道を開くことになるでしょう。その意味で、今日私たちの祝福を受けるこの30名の優秀な人材は、単に新しい学習プログラムをスタートさせるというだけでなく、より平和で、より安全で、より豊かなアジアの構築に向けた非常に重要な第一歩を踏み出そうとしているのです。
人生には主に2種類の選択があるといいます——あるがままの状況を受け入れること、また、状況を変える責任を担うこと。このプログラムへの参加を決断したことで、30名の皆さんは世界が直面する状況を変える責任を担う選択をしたのです。この決断をされたことに対し、深い敬意と賞賛を表します。