世界保健機関(WHO)笹川健康賞授与式

スイス・ジュネーブ

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長

WHOの「すべての人に健康を」というイニシャチブに共鳴して1984年に設立された笹川健康賞も今年で23回目を迎えます。

毎年、プライマリー・ヘルス・ケアの分野で顕著な活動をした個人や団体を表彰する機会を得、とても光栄に思っております。

本年の受賞者であるホセ・アントニオ・ソクラテス博士は、フィリピンの西に位置するパラワン島において、長年にわたり住民に医療サービスを提供してこられた整形外科のドクターです。

ソクラテス博士は自身が設立した2つのNGOを通じて、コミュニティのヘルス・ワーカーや助産婦を対象にトレーニングすることで、遠隔地のコミュニティでの医療サービスの充実を目指して尽力されてきました。

ソクラテス博士に、心よりお祝いを申し上げます。そして、このソクラテス博士を選出していただいたWHOの選考委員会の皆様にお礼を申し上げます。医療サービスのアクセシビリティに困難をきたす地域に住む人々に、適切な医療サービスを提供できるようにすることは、プライマリー・ヘルス・ケアの原点です。

私は、ソクラテス博士の活動に共感を覚えます。というのも、過去30年にわたり、私はハンセン病制圧活動を行ってきたからです。

その中で、私は、WHOを始め多くのパートナーとともに、医師のみならず末端のヘルス・ワーカーの人々にハンセン病の正しい知識と基本的な医療サービスについてのトレーニングを実施することで、どの病院に行っても適切な診断と治療が受けられるようにしました。そのため、世界のどこでもハンセン病治療を受けることが出来るようになりました。

その結果、治る病気であるハンセン病の患者数、蔓延国数もこの30年で、劇的に減少しました。

しかし、私は医療面での制圧活動に努力を傾注するあまり、ハンセン病の持つもう一つの側面、差別やスティグマの問題への取組を疎かにしてきました。これは率直な反省点です。

ハンセン病回復者の直面する差別やスティグマを解消し、人々の誤った認識を正し、ハンセン病回復者を迎え入れる社会にしなければなりません。社会の持つ病気を治し、社会の認識を変えていく必要があります。

そのためには、医療従事者の動機付けはもちろんのこと、ハンセン病の回復者自身が立ち上がり声を出すことが重要です。その上で、政治、メディア、学校、ビジネス、NGO、コミュニティなど、さまざまなセクターに横断的に働きかけ、ハンセン病の医療面の活動のみならず社会面での啓蒙活動を積極的に行っています。このアプローチは、ハンセン病以外の様々な問題の解決にも応用できる方法であると考えます。

来年2008年は、プライマリー・ヘルス・ケアを大きく世界に広めたアルマータ宣言が発表されて30年となります。

アルマータ宣言、そしてWHO憲章では、「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病のない状態や病弱でないことではない」と定義付けています。

病気のもつ社会的な側面は、医学的な側面同様重要であり、「社会的健康状態」の実現にさらに多くのことが必要とされています。

これからの1年は、プライマリー・ヘルス・ケアがいかにあるべきか、そして、「全ての人に健康を」をいかに実現するかについて、議論をする絶好の機会といえましょう。

ソクラテス博士に、改めてお祝いを申し上げます。

ありがとうございました。