世界保健機関(WHO)・日本財団共催 伝統医療国際会議

モンゴル・ウランバートル

写真:伝統医療国際会議の様子

 

世界の人口は60億人といわれていますが、そのうち約20億人は、1日1ドル以下の生活レベルであり、貧困にあえいでいます。

この人たちにとって、生きていくためにはいったい何が必要なのでしょうか。

私は、ひとつは食べること、つまり食糧の供給、医療の充実、そして、教育という三つが最も重要なことだと考えています。

私の勤めております日本財団は、世界的なレベルで食糧の増産、あるいは、プライマリー・ヘルスケアを中心とした医療の問題、そして人材養成・教育、この三つを優先的に行っている組織です。

今日のテーマは医療ですから、医療を中心にお話をさせていただきます。

私は、古来より世界中に存在してきたハンセン病を世界から無くす活動を、30年以上続けてまいりました。関係者の努力により、今後2〜3年以内に世界からハンセン病が制圧される見込みがついています。これは、WHOと日本財団が協力して推進してきた世界的な事業です。

私は、1年の3分の1を発展途上国の現場で仕事をさせていただいておりますが、ハンセン病を制圧するにあたっては、どのようにしたら薬が届かない人々に届けることができるかということが最大の問題だと考えております。

付け加えますが、ハンセン病は、今、治る病気でございます。

発展途上国の、たとえばインドの山奥、アフリカの砂漠の中など、至るところ、人々の住むすぐ近くまで届いている薬は、唯一ハンセン病を治す薬だけです。どこの国にも、ヘルス・センター、あるいはヘルス・ポストというものがありますが、実際に訪れてみますと、そこにあるのはハンセン病の薬だけでございます。その他の薬は、なかなか末端の人々まで届いていないというのが現状です。

私は、薬が届かない人々に、どのように薬を届けるかを考えてまいりました。特に1993年から96年にかけ、バマコ・イニシアティブ、バマコ・システムという方式を行いました。この方式は、私どもが寄付した薬をそれぞれの国、その薬を使った市民が払ったお金で次の薬を買うという回転ドア方式です。

若干のサステナビリティを期待したもので、22カ国において、約2,700万ドルかけて実施いたしました。結論を申しあげますと、はかばかしい成果を得ることはできませんでした。しかし、その後も私は、どうしたら貧しい人々に薬を届けることができるかということを考え続けてきたわけでございます。

今日、ご臨席していただいておりますWHO西太平洋事務局長の尾身博士と以前お話をしたときに、伝統医薬品というものが各国に存在し、プライマリー・ヘルスケアにおける初期治療というものは、風邪を治す、下痢をとめる、おなかが痛いのを治す、あるいは、熱を下げると言う三つか四つのことが基本になっています。これだけあれば、伝統医薬品で十分可能でないかというのが尾身先生のご意見でした。

写真:スピーチする日本財団の笹川陽平会長

 

このモンゴルにおきましては、本日、11時に大統領にお会いしますが、エンフバヤル大統領は、モンゴルの伝統的な文化を再評価して、これを国民のもとに取り戻したいという大きな政策の一環として、かつて栄えたモンゴルにおける伝統医療を復興したいという熱い思いを持っておられます。

それをどのように薬の届かない方々に薬をとどけるかということを考えたときに、私は日本の富山県で300年前に開発され、伝統的に続いている、小さな箱に入れられた薬をそれぞれの家庭に置いていくという「置き薬」方式というものをモンゴルの伝統医療と兼用することで、新しい配布方法が可能になるのではないかと考えたわけでございます。

発展途上国に対しての西側の援助は、常に無料であることが前提となっていましたが、この方式は違います。貧しい人にも、きちんとお金は払っていただきます。サステナビリティというものを重視し、このモンゴル方式を考えたのです。

私は、この実験に対し詳細なデータがなければ、ご来場の皆様方を説得することはできないと考えましたので、担当した方々にきちっとしたデータをとっていただいております。

約30%、お医者さんの往診が減りました。薬の代金は、ほぼ100%払っていただいているという報告があろうとかと思います。既に、幾つかの国でモンゴル方式を導入したいとのご要望をうけておりますが、すべてがばら色というものではありません。

特に伝統医薬品に関しましては品質管理が最も重要なことであります。

皆様方からいろいろなご意見を頂戴しながら、このモンゴル方式を通じて、世界の「薬の届かない人々に薬を届ける」という可能性がでてきたということは間違いのない事実だと思います。

来年は、WHOのアルマータ宣言「すべての人に健康を」との宣言を出してから30周年のお祝いの行事があります。今日のこの会議の成果は、来年のWHOの大会のメインテーマの一つになることは間違いないと思います。

どうぞ、御来席の各国の皆様からも厳しいご意見を頂戴したいと思います。それを受けましてWHO、日本財団、そしてモンゴル政府は共々、このモンゴル方式が充実したものになり、世界に波及するようなシステムとして完成させていきたいと願っております。そして、この会議の成功を心から期待をしております。

ありがとうございました。