グローバル・アピール2009 宣言式典 〜ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすために〜

英国・ロンドン

 本日、この場にお集まりいただいた方々に感謝を申し上げます。

 私は毎年世界ハンセン病デーにあわせ、ハンセン病患者・回復者への差別をなくすための活動としてこの、グローバル・アピールを発信しております。世界を代表する宗教指導者16人の方々にご賛同をいただき、今年のアピールを発表できることを光栄に思います。

 ハンセン病は、紀元前6世紀にインドで書かれた書物に記述が見られるほど、古くから存在する病気です。手足や顔などに変形をもたらし、かつては原因不明で不治の病であったため、たたりや天罰などと人々から恐れられてきました。ハンセン病に感染した人が家や村を追い出され人里離れた山奥や離島に追いやられたり、目の前で葬儀を行われ死者として扱われるなど、信じがたい差別が近代まで世界中で行われていました。

 時代は変わりました。

 科学的な解明が進み、病原菌が確認され、ハンセン病の感染力は他の病と比較し極めて低いことが証明されました。1980年代にMulti Drug Therapyという有効な治療法が確立され、ハンセン病は治る病気となり、患者数は劇的に減り続けています。

 しかしながら、ハンセン病にまつわる社会的偏見とそれに基づく差別は、解消されることなく、今もなお根強く存在しています。

 北京オリンピックの際、ハンセン病患者は中国への入国を禁止されました。この措置は私たちが抗議をした結果撤廃されましたが、中国だけでなく、アメリカや当地イギリスを含む他の国でも、入国および労働・移住ビザの許可に際して、ハンセン病患者に対する制限がまだ設けられています。

 このような公的な領域のみならず、慣習の中にも差別が存在します。

 ハンセン病に感染すると「Leper」という新しい呼び名がつきます。いうまでもなく、この言葉には、「ハンセン病を患った人」という意味に加え「社会の除け者、嫌われ者」という蔑称的意味もあわせ持ちます。従ってLeperと呼ばれることは、彼らが社会から排除され続けてきた歴史を象徴しています。一度その名がつくと、病気が治癒した後も一生消えない社会的「烙印」として残り、教育、雇用、結婚などの自由が大きく制限されてきました。

 そのため、患者・回復者たちはその言葉を使わないでほしいと訴え続けてきました。しかし、残念ながら今日でも、私たちがイギリスの主要紙を含むメディアで、人の尊厳を傷つけ、基本的人権を脅かすこの言葉を目にすることは決して珍しいことではありません。

 慣習の中に残る差別は、これだけではありません。

 私はこれまで何万人ものハンセン病患者・回復者の方々と直接会い、激励してきました。その中で印象に残る忘れられない経験があります。

 インドネシアのハンセン病病院を訪問した際、ハンセン病が治癒した21歳の男性にお会いしました。私が「これで故郷の家族のもとへ戻れるね」と声をかけたところ、彼は突然涙を流し、「私を受け入れてくれる村も家族もない、一人ぼっちなのです」といいました。

 病気が治癒した後もなお差別を恐れて故郷に戻れないという例は、インドネシアに限った話ではありません。

 日本のハンセン病療養所に暮らすある回復者は「私は死んで、火葬され、煙になって初めて故郷に帰れるのです」と語っています。
 日本やアメリカ、他の国においても、ハンセン病病院や療養所に入所する際に、家族に迷惑がかからないよう、偽名を使っている人が今でもいます。

 人は病気になると、家族や愛する人からのサポートを最も必要とします。しかし、ハンセン病に感染すると、その家族から見捨てられてしまうことが少なくありません。

 なぜならば、自らの故郷に住む権利、家族と暮らす権利、そして本名を名乗って生きる権利を捨ててまで家族との縁を断ち切らなければ、家族までもが差別の対象となり、社会から疎外されてしまう恐れがあるからです。身内にハンセン病を患った人がいるというだけで、就学、就職、結婚の機会を奪われている人たちが、世界には今も大勢います。
治療法が確立された1980代から現在までで治癒した人の数は全世界で1600万人を数えます。患者・回復者のみでなくその家族も含めると、少なくとも1億人近くの人々が毎日の生活の中で差別に現在も苦しんでいます。

 私の夢は、Leprosy Free Worldの実現です。Leprosy Free Worldとは、単に医療面における病気の制圧のみを指すのではありません。社会における偏見とそれに基づく差別がなくなって初めて、この世からハンセン病がなくなったといえるのです。

 私は今までこの社会面の偏見をなくすために努力してきました。
“Leper”という言葉については、使用しないよう繰り返しイギリスの新聞社(s)に対し抗議を重ねてきました。また途上国を訪れてハンセン病患者・回復者の方と直接会い、握手し、抱きしめる姿を、現地のメディアを通し多くの人に発信してきました。また、世界各国で自ら尊厳を取り戻そうと立ち上がり始めた回復者の声が受け入れられる社会醸成に取り組んでいます。

 一方、国連人権理事会では、関係者と私の働きかけの結果、2008年6月ハンセン病に関する差別撤廃のための決議が採択されました。今年9月までに具体的な活動指針を盛り込んだガイドラインが策定される予定です。

 しかし、それでも充分ではありません。

 この社会側の差別という病理をなくすために、社会に対して大きな影響力のある方々のご協力が不可欠です。今回ご賛同いただいた宗教指導者の方々には、是非、信者の皆さんに、グローバル・アピールのメッセージを伝えていただきたいと思います。それが多くの人々の心を動かし、この社会からハンセン病にまつわる偏見とそれに基づく差別をなくし、真のLeprosy Free Worldを実現するための大きな力となることと信じております。ともに手を携えて、一歩を踏み出しましょう。