ロンドン大学バークベック・カッレジ ササカワ・レクチャーシップ・プログラム設置記念式典

英国・ロンドン

 本日は、お忙しい中、ササカワ・レクチャーシップ・プログラムを記念して開催されるシンポジウムにご出席いただき、誠にありがとうございます。特に、日本からお越しいただいているお二人の先生、慶応義塾大学の添谷先生と早稲田大学の岩淵先生に感謝申しあげます。

 また、本日の会議の準備にご尽力いただきました、バークベック・カレッジのリスクーティン先生、シェフィールド大学のコンラッド先生をはじめとする先生方に厚くお礼申し上げます。また、本日の会場をご提供いただいたバークベック大学、そして、この会議の開催を可能とした、セント・アンドリューズ伯爵やマックエナリー氏をはじめとするグレイトブリテン・ササカワ財団の皆様にも、この場をお借りして、感謝申し上げます。

 ここで、日本財団が本プログラムの立ち上げにいたった経緯と考えについて簡単にお話しをさせていただきます。

 英国を初めとするヨーロッパ諸国と日本は、貿易・投資、文化・科学交流など幅広い分野において、長年に渡り親密な協力関係を育んできました。これを主に育み支えてきたのは、両国における相手国の言語・文化に関する深い知識を持つ皆さんの存在です。そして、これらの方々の育成・活躍の拠点として重要な役割を果たしてきたのが各国の大学です。

 特に英国の大学は、ヨーロッパの日本研究の拠点として多くの素晴らしい日本研究者を輩出してきました。これらの大学に所属する日本専門家の多くは大学での研究・教授に加え、政府や民間企業の政策・戦略作りのアドバイザーとしても重要な役割を担っています。また、彼らの教え子たちは、政府、民間企業、国際機関などで広く活躍しています。

 しかし、2年前にグレイトブリテン・ササカワ財団の理事会に出席した際に、英国の大学の日本研究が、予算の問題もあり、縮小を強いられていると伺いました。これを初めて聞いた時には、日本語や日本関連の授業を希望する学生が減っているのかと思いました。

 しかし、調査をすると、日本研究の専攻を希望する学生が年々増えていることが分かりました。日本語、そして日本について学びたい学生たちが増えているにも関わらず、そのニーズに応えられていない残念な状況が判明したのです。

 また、若手研究者の活躍の場がないため、現在第一線で活躍されている日本研究者の方々の引退後を引き継ぐ次世代が育っていないことが懸念されていることも知りました。特に、各大学が日本関連の講座を増やすのが困難な中で、今後各国が交流・協力を深めるのに重要となると思われる現代のビジネス、環境問題、科学技術、メディアなどの分野での専門性の伸び悩みも心配されていました。

 そこで、より多くの学生が学びたいことを学ぶことができ、若手の日本研究者が育つような環境を整えるのには何が必要か。本事業のパートナーであるグレイトブリテン・ササカワ財団と共に考えました。

 そして、辿り着いた結論が、現代日本に関する研究を行う若手研究者を対象としたレクチャラー・ポストの新設でした。私たちの呼びかけに多くの大学が手を上げてくださり、英国のほぼ全土を網羅する12大学で現代日本に関するササカワ・レクチャラーのポストを設立することができました。特に、各大学が当財団の支援終了後にポストを継続するコミットメントを示してくれたことが本プログラムを可能にしました。

 そして、昨秋それらのポストにめでたく13名の「笹川レクチャラー」が就任しました。専門分野、国籍、共に幅広い、多様性に富んだグループです。分野は社会学、ビジネス、環境、医療政策、映像文化など。出身国は、英国だけでなく、ロシア、ドイツ、アメリカなど。当初の予想より遥かに多様なグループであり、この多様性が英国の大学における日本研究の強みになると信じております。

 そのためにも、今後このプログラムの一環として、ササカワ・レクチャラーをはじめとする若手研究者の交流やコラボレーションの機会を提供できればと考えています。本日の会議も、その第一歩として位置づけています。本日は、笹川レクチャラーの内4名が研究発表を行い、その他の皆様もモデレーターなどの形でご参加いただいておりますが、皆様の活発な議論をお聞きするのをたのしみにしております。

 また、今後、これらの共同活動の機会が多く設けられ、一般市民に対するアウトリーチや政策提言など、より多くの人を巻き込んだものに発展し、英国のみならず、ヨーロッパ、そして世界の日本研究の活性化につながれば大変嬉しく存じます。

 日本財団は、海外における現代日本理解という切り口から、このササカワ・レクチャラー・プログラムに加えて、現代日本に関する英文図書100冊の寄贈や翻訳出版も今年から実施する予定です。これから、皆さんのお力をお借りし、今後も海外における日本理解に努めていければと考えております。皆さんのご指導・ご支援を是非受け賜りたく存じます。