東京・ワシントンダイアログ 〜3.11後の日米同盟〜

アメリカ合衆国・ワシントンD.C.

この会議は5月に開催するように準備を進めていましたが、3月11日に日本を襲った東日本大震災の影響により、開催日を今日まで延長せざるをえませんでした。震災発生後まもなく半年が経とうとしていますが、この期間に私たち日本人は多くのことを学び、さまざまなものに対する認識を新たにしてきました。その中で最も重要なことは日本と米国との良好な関係の大切さでありました。米軍のトモダチ作戦による大規模かつ迅速な災害支援活動は多くの日本人にアメリカとの連携の重要性を認識させました。また、米国民による草の根から産業界にいたる幅広い募金活動は被災地の復興に大きく貢献しております。この場を借りて米国の皆さまの温かい支援に対して心から御礼申し上げます。

このように、市民のレベルでは米国と日本とのつながりが改めて実感されてきている中で、両国の政府による前向きな対話が途絶えがちになっていることが懸念されています。昨年合意したはずの両国間における安全保障、経済や文化・人的交流に関する重要な取り決めも暗礁に乗り上げているようです。さらには沖縄米軍基地の再編問題や経済連携協定などの問題は棚上げされたままとなっており、この状態は両国にとって決して好ましいものではありません。

残念ながらこれらの課題については、特に日本の政治の不安定さが原因で、解決に向けた議論が先延ばしになってしまっているのが現状です。新首相のもと内閣も構成され、課題解決に向けた動きが早急に再開されることを期待しています。

その一方で、中国をはじめとする新興国の台頭に象徴されるように国際社会の構造が歴史的な変化をしつつある今日において、日米のパートナーシップが世界に対して今後新たにどんな役割を果たしていくべきかについて中長期的な視野に立った議論が十分に行われていない状況に対して私はより大きな不安を感じています。両国の将来の長きにわたる強固なパートナーシップの確立のためには、新しい青写真を共に描く必要があります。今必要なのは目の前の課題に対処しつつも、中長期的な視野に立ってじっくり議論を続けるための民間人をまじえた仕組み作りではないでしょうか。
私は2008年から2009年にかけて東京とワシントンにてシーパワーダイアローグを合計3回開催し、昨年は日米修好150年・日米安保条約50周年記念シンポジウムを開催しました。これらの会議の主催者として日米関係を考えてきた中で、直近の個別具体的な課題についてその解決の方法を検討するだけでなく、世界の大きな潮流を踏まえた上で多分野に渡る議論を行い、日米関係を新たなステージへと押し進めるための機会が必要であると痛感しました。皆さんのような現在と未来の日米関係をけん引するリーダーが集い、自由闊達な議論を行うことが日米関係を新しいステージに押し上げるための大切な一歩には必要不可欠です。

しかしながら、日米のパートナーシップの中長期的な展望という大きなテーマを考える上では、ただ1度の会議で終わらせることなく、議論を何度も積み重ねていくことが重要です。また、会議の議論に終始することなく、そこで出された考えについてより深く分析を行い、研究を継続していくことも必要になるでしょう。実際、会議の中で良い意見やアイディアが出てきたとしても、それが研究のテーマになり時間をかけて検証されることは多くないようです。

そこで、私はこの会議の最終目標を「5年後、日米両政府に対して日米関係の目指すべき新たな姿に関する政策提言を行う」と設定し、会議を毎年1回ずつ開催することを構想しており、会議における議論は、大局的かつ戦略的な政策提言につなげていきたいと考えております。そのような中長期のテーマの1つとして、私たち日本財団がこれまでとりくんできた「海洋」分野における日米のパートナーシップの在り方も重要なテーマとなりましょう。ご存じの通り、太平洋島嶼国の周辺海域管理の問題は大変重要性を増しています。この問題に対処するには、専ら軍事面に重きを置く伝統的な安全保障の考え方にとどまらずに、テロや海賊行為、大量破壊兵器の拡散への対応も考慮し、広い意味での海洋監視の能力向上を図ると共に、多国間での協力を深めていくことも必要になるでしょう。その際には当該太平洋島嶼国はもとより日米と心を同じにする国々と協力して対処することもこの広い海域においては重要になります。今年6月にカート・キャンベル国務次官補が太平洋島嶼国9カ国を歴訪された背景には、そのような情勢があるのではないかと察するところです。一方で、インド洋・アジア海域においてもマラッカ・シンガポール海峡の航行安全など、中長期的に重要性を増していくと考えられる問題が依然として残されております。この海域に関しても、日米と多国間での協力が必要になるでしょう。

このような「海洋」に関連するテーマは一例です。みなさんには日米関係の可能性について多面的なアプローチで議論を深めていただき、5年後の会議終了と政策提言の後も、この提言についてフォローアップする機会を設けたいと考えています。

併せて、毎年開催される会議開催の合間の期間においても活発な議論を継続させ、提言の内容をより充実したものにしたいものです。そのために、皆さんが日米関係についての議論に継続的にかつ積極的に関与していくための研究奨励プロジェクトを導入する考えです。このプロジェクトを通じ、次世代を担う日米両国の研究者が日米関係の未来や新しい海洋秩序を創造するという視点で行う外交・安全保障、経済、海洋の総合的管理といったテーマの研究を奨励し、具体的な政策論を展開するものを支援していきます。このプロジェクトの成果が、各年の会議での議論の充実につながり、さらに政策提言の内容の充実につなげていきたいものです。そして、そのようにしてみなさんの英知を結集して作られていく提言が、日米関係を新たなステージへと導くものになることを大いに期待しています。

本日から2日間にわたる会議は、ここに参加している皆さんにとって新しい日米関係を導くための長き航海の門出となります。その門出にふさわしい、自由で活発な議論が行われることを切に願っています。