ASEAN諸国を対象にした障害者公共政策サイバー大学院設立調印式

タイ・バンコク

まずこの場をお借りして、3月11日に発生した東日本大震災の折、世界中の友人からのお悔やみや支援の声をくださいましたことに、心からお礼申し上げます。震災の発生直後から、世界中の非常に多くの方々から暖かいお言葉をいただいただけでなく、多額の支援金をもお送り頂きました。このような皆様からの心遣いは、一日も早くの復興に向けて精力的に取り組んでいる多くの日本人にとって大きな励ましになっております。

今後の復興への取り組みに迅速に対応するべく、日本財団は支援基金を設立致しました。本基金は、高齢者、障害者、在日外国人や震災遺児など公的な支援の手が行き届きにくい方々の支援に重点を置いて取り組んでいきます。

災害のような非常事態においてはどうしても、多数者への支援が優先されることが多く、障害者のような少数者への救助活動はなおざりにされがちです。これらの問題を解決するためには、障害当事者が自らの生活に影響を与えるような政策の策定に積極的に関与する必要があるのではないでしょうか。障害当事者の問題を一番良く理解しているのは障害者自身なのです。

しかし、現実問題として障害当事者が自ら積極的に、政策立案に関与する機会は非常に限られています。アジア全体においても、主務官庁など政府機関において障害当事者が登用されている事例はあまりありません。

その理由の一つは、障害当事者の教育レベルが不十分であることに求められるのではないでしょうか。多くの障害当事者が基礎教育さえも十分に受けられない発展途上地域においては、高等教育にはなかなか手が届きにくいという現実があります。まして、高度専門技術を取得するために修士号を得ることは非常に困難です。その結果、途上国の優秀な障害当事者が外国へ留学するというケースが少なくありません。

このような現状を踏まえて、日本財団は障害と公共政策の分野における高度専門知識を有した人材育成をするための高等教育機関である、障害と公共政策大学院(IDPP)を、関係機関の全面的支援のもと、ASEAN地域内に設立することにいたしました。

IDPPの設立にあたって、われわれは二つのことを考えました。

第一には、基本的にインターネット上で教育が受けられるようにすることです。インターネット上で授業が行われれば、移動が困難な視覚・肢体障害者にとって通学への負担が大幅に軽減されます。また、情報アクセスが困難な視覚・聴覚障害者にとっても最先端の情報コミュニケーション技術によって、授業への参加が可能になります。このような考えのもと、IDPPでは大半の授業をネット上でおこなうシステムを採用しました。

第二に、卒業時に授与される修士号は権威のあるものでなければなりません。また、高度な教育水準を確保する必要があります。そのために、各国の著名な大学の協力を得ることにしました。

このような構想を立ち上げた当初は、これは実現するのは困難で、ほとんど不可能な夢であるかと思われました。しかし、今、この夢が現実になりつつあります。日本財団は、過去20年以上にわたって実施してきた様々な事業を通じて、皆様のような素晴らしいパートナーに恵まれたことを感謝しています。

時間の制約上、全ての方々をご紹介することはできませんが、特にご尽力いただいた皆様を、少しばかりではありますが、ご紹介させていただきます。

マヒドン大学のPiyasakol学長には、本事業においても学長のお立場から多大なご理解、支援を賜りました。

IDPPにはマヒドン大学やロチェスター工科大学の他、以下の2大学にも設立メンバーとして加わっていただきました。

先ずは、アメリカン大学の国際関係学部です。学部長のLouis Goodman教授には本事業構想の立ち上げ時期から支援いただき、同僚のDerrick Cogburn教授をプロジェクトディレクターとして推薦してくださいました。

次に、副学院長のAstrid Tuminez博士に代表としてお越しいただきましたシンガポール国立大学リークァンユー公共政策大学院です。リークァンユー大学院がIDPPの研究活動の中核としての役目を担っていただくことになりました。こうしてIDPPは、世界トップクラスの大学に支えられた教育機関として発足することになりました。

最後になりましたが、本プロジェクト構想の立ち上げ時期から現在に至るまで、個人的に支援をくださいましたASEAN事務局長のSurin Pitsuwan博士にも、改めてお礼申し上げます。近い将来、IDPPから卒業した生徒がASEAN事務局に職員として登用され、自らの国の障害者政策において関与できるように期待しています。

IDPP設立にあたって、日本財団はASEAN諸国出身の視覚障害、聴覚障害、肢体不自由者である障害当事者15名を対象に奨学金を提供することを約束いたします。これまでの支援の成果を踏まえて、これらの障害分野においては、十分な支援体制が提供出来ると自負しているからです。将来、その他の障害を持った優秀な候補者に関しても対応させていただく予定でおります。

障害当時者の多くは隠された能力や可能性を秘めています。 IDPPが彼らの本来の能力や実力を発揮できるような教育機関となることを願ってやみません。また、IDPPによって、ASEAN諸国のみならず全世界における障害当事者が、社会によりよい変化を促すようなリーダー的存在になってくれることを心から期待しております。

我々としても、障害当事者を含めたすべての少数派が当事者として社会参画し、すべての人々にとって住みよい世界に変化していくための触媒の役割をIDPPが果たしてくれることを確信しています。