第16回フォーラム2000会議 〜メディアと民主主義〜

チェコ共和国・プラハ

ハヴェルさん、あなたは1995年の冬、「希望の未来」を論じ合うため広島を訪問されました。あなたはその時すでに、次のミレニアムに向けて、人間の本質について考える場を創りたいという想いを胸に秘めていたのでしょう。その後、あなたは、人類の脅威と希望について世界各地から賢人たちが集まり対話をするという素晴らしいアイデアを私に打ち明けてくれました。その日のことを私は今でも鮮明に覚えています。あれから17年の歳月が経ちました。

フォーラム2000も今年で16回目を迎えました。我々の内面性を深められるよう会議を毎年主導してくれたあなたが不在のフォーラム2000は今年が初めてです。常にその優しい笑顔で私たちを迎えてくれたあなたがいないのは、なんとも寂しいものです。

ハヴェルさん、あなたは、混沌とした世界に生きる私たちに非常に大切なことを示してくれました。それは、私たちが抱える様々な問題を根本的に解決するためには、単純に新しいメカニズムや制度を用いるということではなく、私たちの精神や倫理、道徳心を深く考え直し、変えてゆかなくてはならないということでした。

あなたは、私たちが取り組むべきことは、対症療法のような表面的で小手先の手法を探ることではなく、私たちの内面に目を向け、私たちの精神や倫理について深く考えることなのだと諭してくれました。

だからこそ、あなたはこの15年間のフォーラムにおいて、責任・人権・寛容・信義などのテーマを取り上げ、私たちが精神的・倫理的・文化的な価値を探究し続けられるように導いてくれたのです。

思想と思考の交差点ともいわれる中欧のプラハは、波乱に満ちた時代を含めて、長きにわたり、人類の虚構と真実、そして、人類の脅威と希望を見つめてきました。それだけに、プラハは私たちが思想と思考の深化をはかるのに最も相応しい場所であり、ここから発信される思想には希望が宿るのです。

あなたが遺したものは、今、この場にも脈々と息衝いております。そして、これからも数多くの人を感化し、私たちが求める世界の実現に向けて、私たち一人ひとりが責任を持って歩んでいく姿を見守ってくれるでしょう。

ハヴェルさん、あなたを失ったことはとても悲しいことですが、あなたの精神、そして理知的なリーダーシップはこれからもずっと生き続けます。