第2回ハンセン病と人権国際シンポジウム

インド・ニューデリー

本日は、インド政府関係者の皆様、国連機関および国際機関の代表者、人権専門家、NGOの皆様、そして回復者のリーダーの皆様にお集まりいただき、心より感謝申し上げます。先のビデオメッセージにもありましたように、ハンセン病をめぐる差別の問題に対し、潘基文国連事務総長ならびにダライ・ラマ師にもこのように関心を寄せていただき、非常に心強い想いがしております。

ご存じの通り、ハンセン病は古くから業病などと人々から恐れられ、患者・回復者、さらにはその家族までもが長い間、厳しい差別の対象となってきました。
1980年代に病気の実態が明らかになり、有効な治療法が開発されると、ハンセン病は治る病気となりました。しかしその一方で、差別的な法律や制度によって引き起こされた慣習といったものが依然残っており、患者や回復者たちが尊厳のない生活に耐えながら生きている現状を私は世界各地で目の当たりにしてきました。

「病気そのものよりも、病気に伴う偏見と差別の方がはるかに恐い」。
これはハンセン病を患った人々から私が幾度となく聞いてきた言葉です。
彼らの心の叫びであろうこの言葉は、私の胸に重くのしかかりました。

彼らに対する偏見や差別を何とかしてなくしたい、そう考えた私は2003年、国連人権高等弁務官事務所を訪ねました。そして差別や偏見に苦しめられ続けているハンセン病患者や回復者の現状を人権問題として訴えたのです。
その結果、加盟国からの温かい支持を得ることができ、7年後の2010年12月、「ハンセン病に対する差別を撤廃する決議とそれに関する原則とガイドライン」が、国連総会において全会一致で可決されることとなりました。

採択された原則とガイドラインには、各国政府等に求められる具体的な対策の詳細が明記されています。しかし実際には、ハンセン病患者・回復者と社会との間には差別という厚い壁が立ちはだかっています。国連決議の採択は、この差別の壁に風穴を開け、これを取り壊すための重要なツールになると確信しています。ただし、これはあくまでもツールです。このツールがしっかりと活用されなければ、差別の壁を取り壊すことはできません。

まず、患者・回復者、その家族に対する、差別的な法や制度がないかを改めて見直し、もしそのような法制度が残っているならば、直ちに廃止することを進める必要があります。

また、差別法を撤廃したとしても、社会の中に根付いた患者・回復者に対する差別の慣習が急に消えることはありえません。社会に対してハンセン病に関する具体的な啓発活動を継続的に行っていくことが重要です。

そして、これまで限られた機会のなかで苦しい生活を強いられていたハンセン病患者や回復者の多くが、今後普通に社会生活を営むことができるよう、政府をはじめあらゆる関係者は、あらゆるサポート体制を準備しなくてはなりません。

以上のことを各国政府、国際機関、NGOや当事者団体にお願いするために、私はこの会議を世界の五地域で開催してまいります。そして、この原則とガイドラインの意義が世界中に浸透し、これが実践されることを後押ししていきたいと思っています。

今年1月には、第1回目の本会議をブラジルで開催し、参加者の方々から様々なご意見をいただきました。

差別という目に見えない厚い壁を壊すには、全てのステークホルダーがそれぞれの役割を果たすことが重要です。
私は、このシンポジウムが、私たち皆がそれぞれの責任を共有し、行動するきっかけとなることを願っております。

私たち日本財団は、ハンセン病をめぐる様々な問題の解決にあたるNGOとして、ここインドにおいても次のような活動を行っております。

問題の解決には、ハンセン病当事者自らが声を上げ、立ち上がらなければいけません。そのためには、当事者たちが自らの権利を主張できるようなプラットフォームが必要でした。ナショナルフォーラムという、インドの回復者全国組織の設立を支援したのは、こうした考えを後押ししたかったからでした。

また、回復者たちが自立した生活を送るためには、彼ら自身が生活に必要な能力を身に付ける必要がありました。そこで、回復者たちを対象とした小規模融資や職業訓練プログラムなどの支援を行うため、2006年にササカワ・インド・ハンセン病財団(SILF)を設立したのです。

本日お集まりいただいた皆様にも、ぜひ、それぞれの立場で役割を果たしていただき、この問題の解決に携わっていただくようお願いをしたいと思います。

例えば各国政府のみなさんには、差別的な法律や制度の撤廃、慣習の撲滅に向けた具体的な行動計画を示していただき、法律専門家のみなさんには、法的な立場からその動きをサポートしていただきたいと思います。また、メディアの方々や、様々な分野のリーダーを務める皆さんには、社会全体の意識を変革していくための情報発信をお願いし、政府らが示す計画や成果を社会全般に広める役割を担っていただきたいと思います。

この会議は、そのための第1歩です。参加される皆さんには活発な議論をしていただき、このアジア地域におけるハンセン病をめぐる差別問題の解決のための具体的な道筋を明らかにしてほしいと思います。
そして本会議での議論の結果、原則とガイドラインで示されているような差別法や差別的慣習などの問題を特定し、改善策を探るような調査・研究が必要だという意見がまとめられたなら、日本財団は、その研究活動を支援する心構えでおります。

「療養所の壁はたった20センチの厚さですが、その壁が外の世界を完全に遮断しているのです」。

今日、ハンセン病療養所に住んでいる人々は少なくなってきています。
しかしだからといって、ハンセン病の患者や回復者たちと、社会との間に立ちはだかる壁が消え去ったというわけではありません。見えない差別の壁は、今もそこに立ちそびえているのです。
私たちは、この壁を取り除く義務を果たさなければなりません。
原則とガイドラインというツールを生かし、皆でそれぞれの役割を果たすことで、いつの日かこの壁を取り壊す日まで、共に手を携えて歩いていきましょう。